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対談 首都の地震対策を考える

「首都直下地震」への備えは人命を最優先に
災害現場で生きる地域住民の絆

 いつ起きてもおかしくないといわれる、首都を直撃する巨大地震。東京都参与も務め、防災や危機管理強化に向け活躍中の帝京大学・志方俊之教授と、太田あきひろ(党首都直下地震対策本部・総合本部長)が、首都直下地震への対策について語り合いました(2012年4月5日、月刊「公明」6月号より転載)。

 ―わが国に甚大な被害をもたらした東日本大震災を教訓に、改めて防災、減災への迅速な取り組みが、迫られています。政治・経済の中枢機能が集積する東京都など首都圏では、「首都直下地震」の発生が懸念されています。
 これは、東京都をはじめ千葉、神奈川、埼玉などの各県を含む南関東地域で発生するM(マグニチュード、地震の規模を表す)7級の大地震で、同地域地下のプレートの境界や内部、活断層で起きる「東京湾北部」「立川」「三浦半島」といった18地点での直下地震です。
 発生確率は、「30年以内に70%」(政府の地震調査研究推進本部)、「4年以内に50%」(東京大学地震研究所)などとされています。

 政府は現在、首都直下地震が起きた際に被害が大きいと予想される「東京湾北部」を震源とするM7.3の地震を想定し対策を進めています。
 最も大きい被害想定(季の午後6時、風速15メートル)では、建物全壊・焼失棟数が約85万棟、死者約1万1000人。また帰宅困難者は約650万人、避難者は最大で約700万人。
 経済的被害も大きく、直接被害で約66.7兆円、生産額の低下などの間接被害は約45.2兆円となり、総額は112兆円に上るとされています。
 しかも最近は、震度6強よりも強く震度が7になるとの報告もあり、対策強化が求められています。

 こうしたシナリオを視野に、「首都直下地震」への備えをめぐり、災害対策や危機管理に詳しい志方俊之・帝京大学教授(東京都参与〈防災担当〉)と、大学時代、耐震工学を専攻している太田昭宏・公明党首都直下地震対策本部総合本部長に語り合ってもらいます。

首都機能守る対策急務

 太田 活断層が多く地震列島とも言われる中で、首都直下地震は、東海・東南海・南海といった他の地震とどう違うのでしょうか。

 志方 首都直下地震が起きた場合、あらゆる機能が東京に集中しているため、地震の規模がたとえ小さくても国家機能が、一時マヒしてしまいます。このマヒする時間を、どのようにして短くするか、そこが一番大きな課題になります。

 太田 東日本大震災で受けた津波の破壊力が私たちの記憶の中にありますが、頭を切り替えなくてはいけない。
 一つは、今おっしゃった首都圏にある司令塔としての機能をどう守っていくのか。
 もう一つは、阪神・淡路大震災でも多発した構造物の倒壊や木造住宅密集地域(木密地域)での建物の倒壊、焼失をどう防いでいくのか。
 具体的には被害想定が大きい「東京湾北部地震」に備えて、この二つの対策を万全にしていくことではないかと思います。

 志方 首都機能自体が消失したり、建物が倒壊すれば、人命も失われます。ですから、最も大切な危機管理とは、「人の命を守る」ことです。いくら建物が残っても、人の命を救えなければ何にもなりません。
 従って最優先に人命、そして首都機能の復旧などを、より早くしていくこと。復旧が遅れれば、日本経済も時の経過に比例して大きくなりますから。
 また東日本大震災で多くの都民は東京が直接、大きな被害に遭ったと感じていませんでした。しかし、本当に首都直下で起こった場合、家族の命や家屋は無事か、という確認作業が切迫してくる。従って、より災害に強い通信インフラの整備が重要になります。

 太田 人命を守る視点で、日ごろから社会基盤整備などをしっかりやることですね。
 例えばトンネルや橋りょうの耐震強化など交通インフラの整備もそうだし、海抜ゼロメートル地帯を守る堤防の構築、急傾斜地対策の推進など災害に強い街にしなければならない。
 また自分の身は自分で守るために、居住空間の家具の固定化や窓ガラスの飛散防止対策などが肝要ですね。
 さらに行政による公助のみでは不十分で、自ら災害に備える「自助」が不可欠です。特に、救助の手が入りにくい被災後3日間を自力で過ごせるかどうかが鍵で、非常時持ち出し袋の準備や水・食料の備蓄、家族間の安否確認方法を事前に決めておくことなども大切です。

  志方 その通りです。それと首都機能に関し、これを復旧しても、単に情報を集めることが目的になってはいけない。刻々と変わっていく情報を使って、今だという時に素早く決断することが緊要です。
 一元化の下、司令系統の活用も大事ですが、非常事態では権限を現場に委譲する必要もあります。
 例えば東日本大震災で被災した東京電力福島第1原子力発電所事故では、権限が現場に委譲されていなかった。こういう時は、ある意味で施設の〝損切り〟をしなければならないという判断も伴いますが、今回のケースでは上司の判断を仰ぐことで時間ロスをしてしまい、結果として被害を拡大してしまった。

 太田 一方で、東京に一極集中する首都機能の分散・移転によるバックアップ機能を強化し大打撃を緩和する取り組みも急がれます。

 志方 首都機能の中でも国会や省庁などが担う政治・行政分野は、データの分散を進めています。しかし経済分野のうち、民間企業の決裁機能が、なかなか分散できていないことが課題です。

 太田 被害を拡大させないという視点では、東日本大震災で被災現場に入った自衛隊の精力的な活動を通し、改めてその存在が注目されています。

 志方 東日本大震災で自衛隊10万人を一気に投入した判断は良かったと思います。
 東北の太平洋側には平地がいっぱいあり、そこに自衛隊が入った。自衛隊が入るスペースで心配することはなかった。
 しかし、東北の被災地と地形が違う東京には、四方から集中して入ってくることになる。例えば、荒川や江戸川、あるいは多摩川を渡る橋が壊れていれば、都内の災害現場に入れません。経路が十分確保されるような対策が求められています。
 もう一つは、入ってきた部隊が拠点として使うスペースがあるのかという点です。今、東京都で候補地として挙げているのはごみ焼却場や、洪水がない場合の河川敷です。こうした所にモノを集積する、あるいは「ディーマット」(Disaster Medical AssistanceTeamの略。重症患者の救命活動に当たる災害派遣医療チーム)などが集まる。そして負傷者らの看護など行うといった態勢も検討されています。

住宅の延焼防ぐ消防バイク

太田

 太田 首都直下地震への優先すべき対策として私は、まず建物の倒壊の防止。二つ目は木密地域を中心に火災・延焼を食い止める仕組みをつくる。三つ目は、超高層ビル・マンションの長周期地震動への適切対応、さらに人命救助の体制、液状化対策、コンビナートなどの危険施設対策、帰宅困難者対策、地下街対策などではないかと思います。
 このうち住宅の延焼を防ぐには消防機能のある消防バイクの導入とか、消防団が、より活躍できる形態にすべきと思います。
 また地下鉄を含む鉄道交通網を利用している乗客をどう救出するのか、さらに透析や手術中の患者などに対し、新たに救命ライフラインを構築する必要もある。

 志方 そうですね。自衛隊でも最初に災害現場に入るのはバイク部隊です。道のないオフロード状態ですから四輪では不可能です。
 本来は、甚大な被害に遭った場所を特定し本隊に伝える偵察任務ですが、例えば住民から、「自衛隊員さん、このがれきの下に住人がいるから助けて」と頼まれると、助けないわけにはいかないわけです。
 フロントラインで現実に何が起こるのかを想定し、きめ細かい対策をしっかりと考える必要があります。

 太田 災害時の対応として米国には「フィーマ」(Federal Emergency Management Agencyの略。連邦緊急事態管理庁。国土安全省に属する米国の政府機関。大規模災害が発生した場合の支援活動を組織、統括)がありますが、わが国ではどうでしょうか。

共助促す「防災隣組」育成

 志方 首都圏フィーマがありますが、すべての地域が壊れるということは、まず考えられない。東京都が大きく被災すれば、神奈川、千葉、埼玉県が助け、神奈川県が被災すれば東京都が助ける。従って国の機能が立ち上がる前に、都県単位の応援協定を基に力を合わせる。
 東日本大震災で被災した東北の場合、日ごろから地域の絆があった。だから震災後も、おにぎりを、分け合って飢えをしのいだという話を聞きましたね。首都圏では、こういうことができるのか。
 従って、東京都では「防災隣組」を育てようと考えています。隣組になるメンバーは、犬を散歩させるグループなど、その動機は何でもよい。何か、一つのよすがを持って、小さな防災組織を作っていく。
 そうすると、上から何も言わなくてもリーダーが自然発生的に生まれ、お互いが協力する組織になる。災害時に住宅が潰れた場合でも、あの人はいつも、どの部屋にいた、という情報が集まり救出するきっかけとなる場合があります。
 自衛隊も消防も頼りになるが現実には地域の絆の力が最も大きいということです。従って、都では隣組的な組織を抽出し、モデルケースとして広く周知していこうとしているところです。

 太田 足立区などでは、地域に「見守り隊」という組織を作って地道な活動をしていますが、こういう取り組みをしていかなければなりませんね。
 一方、地域の絆という点で言えば、私ども公明党は災害時に近隣住民が集う避難所となる公立小・中学校の耐震化を後押ししてきました。
 これについては、十数年前には文部科学省に全国の学校耐震化データすらありませんでした。公明党が全国の学校の耐震診断と耐震化率を進めるよう強く要望した結果、初めて、2002年4月1日現在で耐震化率44.5%であることが発表されました。
 その後、03年度予算では公明党の要求によって学校耐震化予算が増額しました。08年度では、中国四川大地震で多くの校舎が倒壊、多数の児童が犠牲になったこともあり、公明党あげて「学校の耐震化」「病院施設等の耐震化」を対象として「犠牲者ゼロプラン」を提唱しました。
 特に、国庫補助率の引き上げ、自治体の負担軽減を図るよう「改正地震防災対策法(学校耐震化の促進法)」を公明党がリード役となって成立させました。
 こうした公明党の闘いによって、学校の耐震化は、11年4月1日現在で80.3%、現在は、9割近くまでもってくることができています。

 志方 阪神大震災でも震災直後、住民の多くは、自然と近くの小学校に集まってきた。被災者の皆さんは、そこに行けば安心できる一定の敷地や水、医薬品があるということを知っておられた。
 一般に小学校は人口密度において均質に設置されている。ですから小学校を基点にすることが大事です。
 今、東京都では小学校の屋根に「○○小学校」と文字を画く作業を始めています。これば非常時にヘリコプターが認識しやすくするためです。防災対策はどこまでも「人命を助ける」ことを念頭に行わなければなりません。
 災害現場では、上からのトップダウンがなくなり、ボトムアップになってくる。だから地域の人たちとの連携が大事になります。
 災害が起こった時、今何が必要ですか、と聞いて、それを上に挙げて対策をつくる。下から盛り上がってきたものを挙げて対策をつくる。これが正しい道だと思います。危機管理とは実務そのものなんです。

 太田 なるほど。危機管理は現場主義であり、ボトムアップなんですね。
 東日本大震災の被災地に私は何度も入りました。現場には臭いがあり空気があり、優先順位があると思います。
 どこも大変な中、頑張っている。大変な混乱だった去年の3月時点、そして5月、8月と現場のニーズが時とともに変わっていく。現場のその時点の悲鳴、急所に対応すること、それには政治家は現場に行かなければならない。
 日本を支えているのは誰なのか。現場の人であり、この人たちのために政治家はいるのだと思います。
 これからも徹して現場に入り災害対策を進めていきます。

 志方 重ねて申し上げますが、上から整然とできるのは災害ではない。公明党の議員の皆さんが実践されている現場最優先の取り組みこそ大事です。
 そして太田さんは、耐震工学など専門的知識があり、また災害現場のタイムリーな課題解決へ奔走するなどボトムアップも熟知し実行している。今後の活躍を大いに期待しています。

しかた・としゆき 帝京大学教授。防衛相補佐官。静岡県生まれ。京都大学大学院博士課程修了(工学博士)。駐米日本大使館首席防衛駐在官、陸上自衛隊北部方面総監などの要職を歴任。東京都参与も務め、防災や危機管理強化に向け活躍中。76歳

こちらでは対談の映像(要旨)をご覧頂けます。

乗船した阿部朱美さん
【太田昭宏】対談 首都の地震対策を考える

(2012年6月6日)

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