tousitu.jpg「『疲れやすさ』と『老化』の正体」が副題。「糖質疲労」とは、「食事の後、しばらくして眠い、だるい。十分食べたはずなのに、すぐ小腹が減る、集中力が途切れる、イライラする、首の後ろがずんと重くなる」を糖尿病専門医の著者が名付けた概念。「今日のパフォーマンスと、未来の健康を脅かす『糖質疲労』」「体に良いはずの健康習慣が『糖質疲労』を招いている」と警告を鳴らす。

一般的な健康診断でチェックするのは、空腹時の血糖値だが、「食後高血糖」と「血糖値スパイク」により感じている食後の体調不良が「糖質疲労」の様々な症状。「空腹時血糖値が異常となる10年ほど前から、食後高血糖が生じていることが報告されている」と指摘する。「これを放置しておいてはいけない」- ――。それを解消するためには、「食べ方を変えること」「『糖質を取る量を控え』『その分、たんぱく質と脂質をお腹いっぱい食べ』『食べる順番を意識する』という食べ方。シンプルで、食事に満足感が持てる、無理のない食べ方です」と言い、「ロカボ」と呼ばれる食べ方を推奨する。

「手軽で、おいしい食事は糖質に偏りがち(間食は多くが糖質中心の食品)」「日本人は世界的に見て、たんぱく質不足・糖質過多」「ロカボ(ローカーボハイドレート=低糖質)7ルールとは、(1) 1日に取る糖質の量は70130グラム以内(2)お腹がいっぱいになるまで食べる(3)たんぱく質、脂質、食物繊維をしっかりとる(4)早食いをせずカーボラストでとる)」など・・・・・・

従来の健康習慣とは異なる指摘もある。無頓着で来たことが多いが、高齢社会、長寿社会となっている今の日本。食生活の基本から整えることが必要となっている。 


siroma.jpg話題を呼んだデビュー作「禁忌の子」に続く第二弾。救急医・武田の元に搬送されてきた自分と瓜二つの溺死体から自身との関係を探る前作。武田は旧友で医師の城崎響介と共に調査をするが、今回はその城崎と研修医の春田芽衣が主人公。

研修医の春田は実習で、城崎は過疎地医療協力で派遣。2人は北海道の温泉湖の近くの山奥にある更冠病院へ向かう。車で向かう途中、病院一帯はとんでもない濃霧に覆われ2メートル先も見えない。やっとたどり着くが、濃霧で病院は誰も出入りできない状況。そんななか、春田が中学のバスケ時代、大変お世話になり、会うのを楽しみにしていた病院のスタッフ・九条環が変死体となって発見される。硫化水素中毒死の所見。城崎は「殺された可能性が極めて高いと思ってる」と言うのだった。

さらに、霧に閉ざされた翌朝、大地震が発生。加えてその影響で、病院の周囲には硫化水素ガスが流れ込んでしまう。霧と大地震での建物のダメージ、硫化水素ガス。霧が晴れない限り、脱出する方法がない――まさに、白い檻。しかも死の硫化水素は地下にたまり、そして1階、2階へと上がってきた。

さらに、八代院長の切断された首がクローゼットの中から発見。入院患者射殺事件が続いて起きる。わずか三日間の「白い檻」の中で。城崎と春田は死の迫るギリギリの中で、かつてこの病院の産婦人科で起きた母子死亡事故に絡む真相に迫っていく・・・・・・

過疎地医療の厳しい現実とその歪み、災害下で患者を守り生き抜こうとする医療従事者たちの極限の戦いが悲しいまでに伝わってくる。若き現役医師による本格ミステリの力作。


taiketu.jpg安部龍太郎・佐藤優対談「対決!日本史」シリーズの第6弾。満州事変(1931年<昭和69)から日米開戦(1941年<昭和1612)まで10年間にわたるアジア・太平洋戦争の歴史について語る。

「満州事変以降、日本は国の道筋を誤った」――。その満州事変、リットン調査団来日、満州国建国、5.15事件、国際連盟脱退、2.26事件、盧溝橋で日中両軍衝突・日中戦争、南京事件、ノモンハン事件、南進政策、日独伊三国同盟、日本軍のマレー半島上陸・ハワイ真珠湾攻撃・・・・・・

帯には「破滅への分水嶺を見極めろ」「この対論における重要なテーマは、民衆から遊離した愚かな指導者たちが、この時代にどのようなことをしたかについて考察することだった。それは単に過去を断罪するためではない」「戦争は人間を破壊するーーその現実を歴史から学ぶことは平和を築く礎となる」とある。

「なぜ愚かな戦争の泥沼に入っていったのか」――この80年、数多くの歴史研究があるが、共に父親が南京攻撃の場におり、共に歴史・思想的作家であり、共に博覧強記、共に「もう、あげんなったら普通じゃおられん(南京についての安部氏の父親の証言)」という民衆の現場から見ているだけに、現場の生々しい息遣いが伝わってくる歴史対談となっている。「愚かさを克服して、二度と戦争という悲惨で、残酷な事態を引き起こさないようにしなくてはならない」「ここで不可欠になるのが平和の価値観だ」として、佐藤氏は「戦争ほど、残酷なものはない。戦争ほど、悲惨なものはない。だが、その戦争は、まだつづいていた。愚かな指導者たちに率いられた国民もまた、まことに哀れである」(池田大作著「人間革命」第1)をひいている

「どうしたら日本は、アメリカとの戦争を避けることができたのか」――。いくつもチャンスはあったと言う。「ドイツがソ連を攻撃した1941622日が歴史の転換点だった」「あの時、日本が日独伊三国軍事同盟を破棄し、日米首脳会談を行えば、安部が言うように、日米戦争を回避することが可能だったと私も思う」と言う。また「近衛文麿・蒋介石トップ会談で回避できた日中戦争(19377月の盧溝橋事件直後)」「193210月、リットン調査団の報告書では、『満州における日本の権益を維持していい』となっている。しかし、不拡大方針はことごとく失われた」・・・・・・。軍部の暴走、5.15事件、2.26事件、ABCD包囲網などについても現場背景のリアルから鋭角的に論じている。

その現場のリアルとして五味川純平の「戦争と人間」(山本薩夫監督)の映画、高倉健が主演した「動乱」、原節子主演の日独合作映画「新しき土」、加山雄三が記者として主演する「激動の昭和史 軍閥」、高倉健主演の映画「2 26事件 脱出」、1942年に公開された国策映画「間諜未だ死せず」などの映画が紹介される。このようにリアルを重視する珍しい対談でもある。極めて面白い意義ある対談。


tubuto.jpg戦後の占領・復興期の東京。暴力や死と向き合う混沌とした時代をもがきながら生きる人々の姿を、6つの短編で切り取る力作。食糧難、浮浪児、パンパン、街を仕切る暴力団、落ちぶれる華族、満州からの引揚げ、捕虜、GQ、戦犯、街頭紙芝居・・・・・・。昭和20年生まれの私としては見聞きしてきた実感の伴うものばかり。全てを失った東京、想像を絶する苦難のなか生き抜いてきた人々の生命力を改めて突き付けられた。

「幽霊とダイヤモンド」――上海から空輸されたダイヤモンドの行方をめぐって、追われる飛行士。盧溝橋事件直後の19377月末、居留民の多くを殺した通州虐殺事件の幽霊が消えず怯える男。「自分が生きることに葛藤はない。しかし、ただ生きているだけでは、つまらなかった」・・・・・・。極限状況で生きる男の中で弾けるマグマ。

「少年の街」――東京・上野の浮浪児。同じ境遇の浮浪児を集めて、地方の農家に送る少年。それが彼らにとっての幸福に違いないと信じていたが----。狩り込み、浮浪児狩り、そして浮浪児を利用して子供を地方に売る業を大掛かりに展開する大物が介入して----

「手紙」――GHQのもとで手紙を検閲する元士族。某伯爵家の夫人が売春。女衒と娼婦----「落ちていく女を見て楽しむ。落ちていく金持ちは見世物であり、玩具である。終戦後、貧しき者の思考法をあちこちで学んだ」・・・・・・

「軍人の娘」――許婚とともに、ソ連に連行された義兄の帰りを待ち続ける紙芝居の出版社で働く女性編集者。「女性の時代が来た」というが、父のいなくなったこの国で自由とは何かを悩む。

「幸運な男」――GQが接収した洋館で働く叩き上げの料理人。地下に幽閉され、人体実験までされている中国人の捕虜を助けようとする。

「何度でも」――1959年のミッチーブームの時。用賀にある右翼の大物が所有する邸宅で女中となったかつて上野の浮浪児であった若き女性。その主人は元伯爵家の令嬢で、「GQ高官を虜にした魔性の女」「夫が殺人事件で逮捕された女」と言われた女。その館にはもうひとり"呆れるほど美人"の女性がいた。実はその女、ある国の王の愛人に仕立て上げられようとしていた・・・・・・

貧困と暴力と死と隣接する不条理充満の時代だが、生き抜くたくましき生命力の輝きがあった。 


masakawatasiga.jpg「なぜか裁判沙汰になった人たちの告白」が副題。日本経済新聞電子版の連載「揺れた天秤〜法廷から〜」を書籍化したもの。実際の民事訴訟や刑事事件を題材に「誰もが陥りかねない社会の落とし穴」を浮き彫りにする。各社の「人生相談」は、その回答も含めて人気を博するが、不満が鬱積してつい起こしてしまうトラブル。挽回しようとして泥沼にはまる詐欺まがいの事件。取引を成功させたい社員たちの焦り。近隣・隣人等とのトラブル。学校や会社でのいじめやパワハラなどから起きる事件。昨今のネット、SNS時代から引き起こされる陥穽の数々・・・・・・。この日常には、どこでも取り返しのつかないことになる「落とし穴」「まさか私が」が潜んでいる。手元の身近に置いて、時々読んだ方が現代社会にはいいなと思いつつ、面白く読んだ。

「会社員たちの転落劇。小さな慢心が悲劇を呼ぶ」――。「洗剤『お持ち帰り』で失った銀行副店長のポスト」「入社歓迎会で泥酔からの暴言。失った商社内定の切符」「誠実、勤続30年の教員、たった1度の飲酒運転で退職金1720万円を失う」「会社支給のスマホで集団移籍のグループチャット、引き抜き工作が明るみに」・・・・・・。今更ながら、「酒は飲んでも飲まれるな」。デジタル社会の闇からの声が聞こえる。

「まさか、あの会社で。有名企業のスキャンダル」――。「ソニー生命保険に勤めていた男が、巨額の会社資金に手をつけ、独断で暗号資産(仮想通貨)に交換した。詐欺罪で懲役9年の実刑」「追い込まれたソフトバンク部長、起死回生を狙った副業の投資詐欺(典型的なポンジスキーム)」「近畿日本ツーリストで支店幹部が自治体に業務費過大請求」「営業秘密を持ち出した『かっぱ寿司』元社長」「積水ハウス地面師事件」・・・・・・

「平穏な家庭が壊れていく。溶けていくお金に、ご近所トラブル」――。「『仕組み債』で1000万円を溶かした母」「マンションでの暴言・乱暴の困った住民」「イブに届かぬピザ。52分遅れで訴訟」・・・・・・。現場で困った事が多いが、それが訴訟にまで発展する。

「会社員はつらいよ。今どき職場の悲喜こもごも」――。「会社で殴った殴られた」「チャットでこぼした愚痴が会社に知られた女性」「上司が強要した偽装請負」「育休から復帰したら部下ゼロ」・・・・・・。ちょっとしたはずみでトラブル・訴訟へ。気をつけなければ・・・・・・

「パパ活なのか、恋なのか。男女のすれ違いが事件になるとき」――。SNSで知り合った女子高生には本当の彼氏がいた-。当たり前だと思うが・・・・・・。「『隠し子』の認知請求」「遺族年金を争った『2人の妻』・・・・・・

「秘密資金に粉飾、脱税・・・・・・闇落ちする経営者たち」――。「秘密資金2800億円に騙された外食チェーン会長」。今どきM資金みたいなものが。驚く。脱税事件や粉飾決算、インサイダー取引は相変わらず。

「職場であった本当に怖い話。日常に流れる狂気」――。社内の暴力事件、問題社員の解雇問題、パワハラ、チャットなどによるアクセス権限悪用の恐怖、道の駅でのカスハラ・・・・・・。自分の名前で上司を罵る身に覚えのないチャットが送信されていたというから困った時代になっている。

SNSの闇。バズリから生まれる誹謗中傷、毀誉褒貶」――。「編み物系ユーチューバーが削除申請を乱用、ライバル動画を次々と封殺」「『バズる』動画で"男気"が売りの社長が暴走」「食べログ訴訟、アルゴリズムの変更の適否」。こういう時代になっている。

「若者たちの心に、司法はどこまで迫れるだろうか」――。「歌舞伎町リンチ死、『トー横』に集まる若者たちの希薄な関係と暴力性」「京大院生が就活WEBテストを替え玉受検」・・・・・・

イライラ、不満、ネット社会の闇など、世相が浮き彫りにされる。 

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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