働き方5.0.jpgウィズコロナ、ポストコロナの世界。「言葉+身体接触」で信頼の世界をつくってきた人類。それが逆襲された。人間は"人と人の間"、社会的人間であったものが、遮断される。落合さんは「しかし今は、"人と人の間"にはインターネットがある。その意味では『人間=インターネット』と言ってもいい。インターネットは人間そのものだ。人間とインターネットは、区別がつかない。つまり、人間とコンピュータの区別のつかない時代に近づきつつある。だから『デジタルネイチャー』なのだ」「システム知能のもたらす悲観的なディストピアではなく、個々人の幸福感と目的意識を親和させ、対話可能になった自然の形だ」「今までと"自然"のあり方が根本的に違う。コンピュータやインターネットなどのデジタル情報があふれ、人工物と自然物が垣根なく存在する環境が、人間にとっての『新しい自然、デジタルネイチャー』の世界だ」という。

そこで「人間のやるべき仕事とは何か」――。当然、人材の価値が変化していく。これまでホワイトカラーがやってきた仕事のほとんどは、システムが代行するになる。求められるのは、機械では代替されにくく創造的な専門性を持つ知的労働者(クリエイティブ・クラス)だ。むろん「機械の下請け」のような労働も、けっして不幸ではなく、人間でなければできない、人間がやる方がいいという部分もある。しかし、「デジタルネイチャー」「AI・ロボットとともに働く働き方5.0」の時代は、「言語化する能力」「論理力」「思考体力」「世界70億人を相手にすること(ニッチで小さなビジネスモデルでも70億人を相手にするならば成立する)」「経済感覚」「世界は人間が回しているという意識」「物事を回しているキーマンの考え方や見方に影響を与える、その判断力と説得力あるロジック」「何よりも専門性」が人材の価値だ。「システムに得意なことと、人間に得意なことの違いを考えよう。システムの効率化の中に取り込まれないために持つべきなのは何か。それはモチベーションだ。システムにはこれをやりたいという動機がない。モチベーションを持ってコンピュータをツールとして使う"魔法をかける人"になれるか、"魔法をかけられる人"のままになるのか」「クリエイティブ・クラスになるためには、コンピュータの使い方に習熟することではなく、自分が何を解決するか、プラットホームの外側に出る方法を考え抜くことが大切だ。その思考体力を持つことだ。自分の問題、人生の問いについて、一点を考え抜いて深めていくことだ」と徹底して語る。

「世界に変化を生み出すような執念を持った人に共通する性質を、私は『独善的な利他性』だと思っている」「いまできる人類の最高到達点に足跡を残す」ともいう。「これからの世界をつくる仲間たちへ」が副題。


41mM078ClYL__SX312_BO1,204,203,200_.jpg「感染爆発で世界はどうなる?」が副題。新型コロナウイルスとの闘いが世界で続いており、各国の国民意識が当然、変化している。ただでさえ、「一国主義的傾向が強まっている世界」「米中の衝突」が懸念されている時での「コロナ後の世界」はどうなるのか。外務省、上海総領事も務めた小原東大教授が、問題と課題を抽出する。中国にも詳しいだけに知見は生々しい。

「健康危機から経済危機へ」「経済と感染症のジレンマ」が語られる。中国の「武漢戦疫」――。初動の遅れ、地方政府の失態と大衆の批判、李文亮医師の叫びと当局の隠蔽、政権による空前の検疫と封鎖、"中国の権威主義体制"の強みと弱み、中国が世界に展開した"支援"の狙いと成否......。そしてトランプの米国――。欧米民主主義の失態、米国の軍事力・経済力の状況、普遍的価値に基づくガバナンスが生み出す国際的正当性や公共財を提示する意志と能力などのグローバルな指導力の陰り・・・・・・。それらが米中の相互不信と非難合戦をもたらしている。「米国は、自国第一や単独行動主義ではなく、世界の価値を共有する諸国との結束、民主主義や自由資本主義の再生に努めよ」といい、「米中、そして世界にとって存在感のある日本でありたい」という。

コロナ後の世界――。中国の友人100人以上に聞くと、①生活様式の変化(オンライン化の加速や健康と衛生への認識)②価値観の変化(安全や自由といった基本的価値の大切さと再考)③世界の構図の変化(米中関係悪化による衝突への危惧)――が語られ、小原さんの友人であるだけに「日本との良好な関係」への言及がされたという。

末尾に「感染症一口メモ」「感染症の歴史小話」が簡潔に示されている。


明日咲く言葉の種をまこう  岡崎武志著.jpg「心を耕す名言100」が副題。小説、随筆、詩集、映画、漫画から墓碑まで、長年拾い集めた100の名言。じつに味わい深く、面白く(目の前がパッと明るくなって新しい世界が開けるとの意)、感動の100編のエッセーが綴られる。古今東西の「名言」を集めて解説したものではない。岡崎さんが自ら読んで、接して、同苦して得た「キメの一言」「心に沁みる鮮やかな"イッポン"」が次から次へと続く。知識ではなく、知慧の「人間学」の開示だ。

「順風が吹き凧はうまく揚がるとは限らない ――『まず小さな凧から揚げることである』(水原秋櫻子)」「谷川俊太郎が作った詩の校歌――『わたしがたねをまかなければ はなは ひらかない』」「任された仕事に関しては、すべて自分の責任――『人生ってそもそも自営業だからね』(みうらじゅん)」「『小さいことについては悩め、大きなことについては即断しろ』――内田樹・平川克美・名越康文の鼎談でニーチェの言葉らしい」「男の子から"きたない"と誹られた少女が言いかえした――『北がなければ日本は三角』(谷川雁)」「反対意見、消極意見を聞く方が公演はうまくいく――『もめるというのは大事なことなんですね』(山田洋次)」「リツイートの数も振り返らない――『"物言わぬ支持者"を俺は支持する』(つぶやきシロー)」「"禅"のサーファーとも呼ばれるジェリー・ロペスの言葉――『挑むのではない、待つのでもない。波そのものになる』」「三木卓の矜持に生きるサムライ――『他者は認めてもらう相手ではなく、納得させるものである』」・・・・・・。

「『誤解されない人間など、毒にも薬にもならない』――小林秀雄」「灘校で半世紀も国語(中勘助の「銀の匙」)を教えた橋本武――『すぐ役立つことは、すぐ役立たなくなります』」「社会は建前でできている――『私はホンネで生きている。なんて、かなり甘い台詞だよな』(詩人の田村隆一)」「勝海舟の妻――ジジババ合戦、最後の逆転(富士正晴)」「漱石の妻――『夫婦は親しきを以て原則とし、親しからざるを以て常態とす』(夏目漱石)」「今東光と川端康成――『たとえドロボウをしても手伝わねばなりません』(川端康成)」「種茂と岩本勉、そして藤浪晋太郎――『この1イニングを彼にあげてくれ』(種茂雅之)」「『正直に生きるということは、それだけでもいいものだぞ』――山本周五郎の『主計は忙しい』」「『使ってりゃ錆びねえよ』――彫刻家・船越保武」「山崎方代の歌――『今日は今日の悔を残して眠るべし 眠れば明日があり闘いがある』」「寒い日など1日ずっと庭の見える部屋で座っていた画家の熊谷守一――『"退屈"っていう気持ちがわからない』」「『ふたりでみると すべてのものは 美しくみえる』――サトウハチローの墓碑銘」・・・・・・。

たしかに、この百編百言は、また歩き始める「言葉のたいまつ」になる。


兄の終い  村井理子著.jpg警察からの電話で兄の死を知る。たった1人の兄だったが、周りに迷惑ばかりをかけ、乱暴で人の気持ちが理解できない勝手な男だった。離婚して7年、体を壊し、職を失い、困窮し、這い上がることなく死んだ。10歳の息子が発見し、通報した。

弔い、引き取り、諸々の整理をするために、妹の私と、伯母、元妻と娘が多賀城市に駆けつける。大変だった5日間の実話。不本意で恵まれない人生であっただろうが、そのなかでも頑張って子育てをし、懸命に生きようとしていた兄の痕跡を知る。元妻も息子も頑張り屋で、多賀城の周りの人々も温かい。救われる。

「そんな兄の生き方に怒りは感じるものの、この世でたった一人であっても、兄を、その人生を、全面的に許し、肯定する人がいたのなら、兄の生涯は幸せなものだったと考えていいのではないか。だから、そのたった一人の誰かに私がなろうと思う」と結ぶ。

うまくいかない出来事ばかりが続くなかで、54歳の若さで病死したお兄さんの人生に思いをはせる。


綴る女 評伝・宮尾登美子  林真理子著.jpg「櫂」「一絃の琴」「序の舞」「陽暉楼」「寒椿」「鬼龍院花子の生涯」「天璋院篤姫」――。養母、女衒という家業と父、言葉にもしたくない満州、結婚、借金を抱えての上京・・・・・・。出世作といえる「櫂」で太宰賞を受けたのは47歳、しかし一気にベストセラーを次々に発表、直木賞も受賞する。しかも多くが映画化され大ブレークした宮尾登美子。謎も多かった人間宮尾を、親交の深かった林真理子さんが、関係者を訪ねて得た証言を加えて、くっきりと描き上げる。

「あなたはあんなに宮尾さんに可愛がってもらったのに、悪口を書いているって古い編集者たちが怒っていると聞いたわよ」「女の作家で、あの人と仲のいい人はいなかったと思うわ」と瀬戸内寂聴に言われたという。「あの人は少し被害妄想の気がありまして、なんでも『女流作家はみんな自分をいじめている』というようなことばかり言います(笑)」と杉本苑子は言う。「宮尾は大層気を遣っていたのだが、それがどうしても裏目に出てしまったようなのである」「宮尾は孤独であったろう。・・・・・・宮尾を囲む『おとみの会』など、親しい男性編集者や仕事相手に共通していることがある。それは高学歴で端整な紳士」と林さんはいう。宮尾の愚直なまでの作家の道への真っすぐさ、宮尾の侠気(おとこぎ)、少女のような天真爛漫さと父・猛吾(小説では岩伍)の生まれ変わりのような激しさ・強さの共存、食べるためのふてぶてしさと不思議なほどの透明感と明るさ・・・・・・。懸命に生き、綴り続けた宮尾登美子の波瀾の生涯が、不器用な人間関係や時には場違いな発言などからきわめて自然に浮き彫りにされる。林真理子さんの温かな眼差しが伝わってくるいい評伝。

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プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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