生老病死――。「産むこと、生まれてくるとはどういうことなのか」「わたしたちにとって最も身近な、とりかえしのつかないものは『死』であると思うのですが、生まれてくることのとりかえしのつかなさについても考えてみたいと思っていました」と川上未映子さんは語っている。この世の中の多くの人々も、親も、産む側から考えるが、生まれてくる側から考えることがどれだけあるだろうか。「産むこと、生まれてくること」を精子提供(AID)の現実から考えさせる挑戦的力作。
「自分の子どもに会いたい」――。パートナーなしの妊娠、出産を願うようになった駆け出しの30代小説家の夏目夏子。親を知らないAIDのグループの逢沢潤、彼の恋人の善百合子、小説家仲間でもありはっきりした考えをもつ遊佐リカ、小説を書くよう励ます大手出版社編集者・仙川涼子ら、周りの人々がこの根源的な「産むこと、生まれてくること、生まれないこと」「AID」「産むという決定権をもつ親の身勝手な選択」について考えを述べる。生命の意味をめぐっての真摯な問いと、自らのたどった人生そのものから来る率直な感情がぶつかり合う。AIDによって生まれてきた者の苦悩・葛藤、「自分の子どもに会いたい」という女性の理由を超えた気持、生老病死のただ一つ自意識のない「生まれる」こと――未知の重い領域に踏み込んだ長編。大阪弁の姉・巻子と娘・緑子のユーモアと強さにほっとする。
待望の「AI vs.教科書を読めない子どもたち」の続編。前著はAIの限界、AI時代の迷妄を打ち破るとともに、日本の教育の本質に迫る衝撃的著作だったが、本書は具体的、実践的で抜群に面白く、重要だ。「読解力が人生を左右する。とくにAI時代は」「『教育のための科学研究所』(新井紀子代表理事・所長主催)は日本全国の幼稚園・保育園・小学校・中学校・高等学校のホームページを無償で提供する」と覚悟を示す。
「AIが苦手とする読解力を人間が身につけるにはどうしたらいいのか」――。徹底して作り上げてきたRST(リーディングスキルテスト)を実際に示し、「係り受け解析」「照応解決」「同義文判定」「推論」「イメージ同定」「具体例同定」の6つの構成を提示する。RSTがいかに信頼性を獲得してきたか、努力には感服する。しかし、RSTはあくまで、視力検査と同様、「診断のツール」で達成度テストではない。そのうえで「読解力を培う授業」「意味がわかって読む子どもを育てるため」にどのようにしたらいいのか。実例を積み重ねながらの挑戦の課程が示される。
加えて本書には「体験版リーディングスキルテスト」が収録されている。やってみると「よく読む」という作業は結構、エネルギーを使うものだ。前著とともに面白く必読の書。