ITをはじめとして急速に発展・躍進するインドは、アジアの一員としての位置付けを明確化したこともあり、まさに注目の的である。IT産業、医療・製薬産業、中産階級の台頭などはめざましく、インフラ整備、投資の拡大、中小企業育成などが直面する課題となっている。
中国、インド、日本が中心となるアジア新時代に対して、日印交流はきわめて遅れをとっている。リオリエント現象の加速化のなかで、日本の戦略がみえない。
「ヨーロッパの統合が、制度・政治主導なのに対し、アジアの統合は市場・企業主導だ」というように、アジアの経済統合に中産階級大国日本の役割は大きい。製造業のアジアでの分担というよりも、アジア全体で中産階級の台頭、つまり爆発的な消費市場の拡大現象が眼前にあるところにこそアジア新時代の本質がある。とくに、日本のハードとインドのソフトの協力とよくいわれるが、ソフトと文化の面でこそ「ジャパン・クール」の評価を得るという榊原さんの指摘はいい。
テレビに出る榊原さんはほんの一部分で、いつも話をしたり著作を読むと、榊原さんの「日本の文化・哲学性」への洞察に共感する。
まるで息の長い絵巻物のような感がした。知らずしらず喧騒とは全くかけ離れたリズミカルな静寂空間の中に入った。さらにまた、縁と天の世界に入り、「命の波の振動」と宮本輝さんが描く、生死一如、縁起の味わい深い自他不二の世界をかみしめる思いにひたった。見えない世界の律動を観てこそ人の生といえまいか。これらを「にぎやかな天地」というのはにくいほどだ。
勇気ある一念は悪鬼を善鬼に変え、運命を俗流の諦観に押し込めず諦(あきら)かに観る。
軽佻浮薄な衆愚の時代――しかし、その対極に手抜きをせず、じっくり何十年の時間をかけて滋味をつくり出す匠の心技によってつくられた本物の食品がある。こうした日本の発酵食品とそれをもたらす微生物の妙な働きを、縁起の人間の生死の世界に重ねて描く。
慌しい現代社会にはじっくり待つべき時間が欠如している。見えるものに幻惑されて見えざるものが観えない。今に流されて常住の時間をたたえられない。そんなことを感じさせるどっしりした心の作品だ。
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