天子蒙塵 4.jpg1931年9月、満洲事変が勃発。翌32年3月1日、満洲国の建国が宣言され、執政にラストエンペラー・溥儀が就き、「王道楽土」「五族協和」が謳われる。34年3月1日、溥儀が帝位に就き、満洲国は満洲帝国となる。青空の下で挙行された式典に至るまでの激動、争覇の2年間。日本と中国、そのなかで各人の思惑は異なり、絡み合う。

大清の復辟だと信じて即位する溥儀は、「祖宗の地たる満洲において足元を固め、いつか長城を越えて喪われた紫禁城を取り返し、太和殿の龍陛を昇って王座に就く」と志す。側につく梁文秀や李春雲等々。欧州から帰還した満洲の覇者・張作霖の息子・張学良は「漢卿、中国には君が必要なのだ」「30万の東北軍を」との声を受け、襲う刺客を葬っていく。蒋介石の思惑、周恩来の思考、そして日本では満洲国建国を推進した石原莞爾、その関東軍とは異なる見解をもつ永田鉄山の信念と現実的判断等々が、生々しく描かれる。そして時代の濁流のなか騒然たる世相も。

「第1部蒼穹の昴」から始まったシリーズ。「珍妃の井戸」「中原の虹」「マンチュリアン・リポート」に続いて「第5部天子蒙塵」が、これで完結する。


沈黙のパレード.jpg3年前に行方不明となっていた歌手志望の若い女性(並木佐織)の遺体が発見される。容疑者はなんと、20年ほど前に起きた少女殺害事件(本橋優奈ちゃん事件)と同じ蓮沼寛一。しかし犯行確実と思われた両事件はともに、完黙の末「無罪」「証拠不十分」で釈放されてしまう。「あいつがやった」「犯人間違いなし」と思われているのに、司法の場では裁けない無念。遺族や街の人々の憎悪が噴出し、秋祭りのパレードの日、ある計画が挙行される。

二件の殺人事件を担当しながら起訴できず、悔しい思いを抱く草薙。米国から帰って人情味が増した感のある湯川(ガリレオ)。並木の家族や友人・戸島、新倉夫妻、佐織の恋人・高垣智也、警察の草薙の同僚・内海薫等・・・・・・。二転三転、絶妙のタッチで真実に迫り、心音を聞いていく。


文明の精神.jpg前著「森の日本文明史」に続いて、世界・宇宙をも視野に入れて新しい「生命文明の時代」が来ることをダイナミックに語る。その背景には「この広大な宇宙に生命の惑星地球が存在するだけで奇蹟にちかい。その地球に人類が生きているのはなおさら奇蹟である」との感動があり、一神教の人間中心主義に立つ「物質エネルギー文明」が死を迎え、生命の循環システムに立脚した「生命文明の時代」が構築される、という。前者は自然を支配し人間の王国をつくろうとしたが、これ以上自然の収奪が続けば、現代文明崩壊の闇が迫る。しかも、前者の制度・組織・装置系に憧れ、それを受容している間に、内核としての価値観や心も変わっている。それが今なお破局的に進行している。宇宙・自然の豊かな生命が失われ、人間が壊れていっていると危機感を発する。ましてや日本は、「生命を畏敬する多神教的な世界観と仏教的世界観を温存している」のではないか。それは「池田大作氏とトインビー博士の"21世紀の対話"」でも明らかではないか、という。そして、欧州と違って、城壁を持たない東洋の稲作漁撈型都市を「農村文明」として提唱する。ヨーロッパは「家畜の文明」であり、日本には誇るべき里山があり「森の文明」なのだ。つまり、これからの未来社会は再生力ある「自然=人間循環型の文明」を創造することだ、と強調する。

家畜を核とするヨーロッパの農耕社会は、自然搾取型の地域システムをつくり、これが世界を席巻するに至った。そして日本は「森の民」としての文明的伝統を維持してきたが、戦後のとくに昭和30年代から40年代、山村が急速に崩壊を始めた。「森の民」日本人の危機である。稲作漁撈民は、森の下草等、海の海藻等の資源を利用し、生命の水を核とする循環システムをつくりあげた。森を破壊し、自然から収奪する欧米文明ではなく、「自然を生かし己をも生かす」自然=人間循環系の縄文の文明原理にこそ真の価値を見い出す時だ、という。そして「里山・里海の生命の水の循環を守り通してきた祖先の生活様式(ライフスタイル)に感謝し、未来を想い描かねばならない」と強く主張し結んでいる。


ある日失わずにすむもの.jpg全12篇。世界を襲う戦争のために人生・生活を切断される人々。米国で、ヨーロッパで、アジアの国や小さな島々で、日本で、貧しさを乗り越えて、ささやかな幸せを感じてきた人々の戦争による別離と淋しさ。「国政を私物化して共栄を騙る強欲な徒党のために人はあらぬ方向へ歩かされるものだと思いながら、やはり儚いさだめを負わされて大地にうつぶす人を思いやらずにいられなかった」「丹精した畑が見る影もなく寂れたように、夫婦が睦まじく語らい、慰め合うときはもう二度とあるまいと思った。シャオシアも精一杯の微笑を浮かべて、終幕の淋しさに耐えていた」(こんな生活)・・・・・・。

「歩調はこつこつと生きてきた人の強さのようであり、時代を憎む人の地団駄のようでもあった。雨上がりの石畳はひっそりと輝き、婦人の後ろ姿にも雨のあとがあった。その貧弱なようすが今日の彼には美しく見えて、うつろな視野から消えてゆくまで目をあてていた。するうち唇が震えて、思ってもみない寂寥が押し寄せてきた」(足下に酒瓶)など、描写はなんともキメ細やかで美しく、心の襞に広潤な幅があることを感じさせる名文が続く。「貧しい街から抜け出し、やっと築いた生活とジャズを奪われる若者」(どこか涙のようにひんやりとして)、「小説を書くことを共に志した恋人とも別れる女性――『次々と大切なものをなくしてゆく女の前途に確かなものなどなかったが、傷んだ心の皮を剝いてしまうと、皮肉なことに生きてゆく目的だけが残った』」(万年筆と学友)、「あまりの貧しさから抜け出すために軍隊を志願する兄と残る妹」(とても小さなジヨイ)、「美しい島で一生を送れるはずが、文明と戦争で切断され、お腹の子を宿している新妻と別れて征く夫」(ニキータ)、「戦争は移住者のアイデンティティを引き裂く。完璧なアメリカ人になれる者、なれない者」(みごとに丸い月)、「戦争で別離するも現実に生きる生死の女性と煩悩の男性の淡い違いを明らかにする」(アベーロ)、「無学でも非力でも生きてゆく人の闘い方がある。そのかすかな力が家族たちにも希望の灯となる」(ミスターパハップス)、「見送ることも、(言葉を交さず)早速に去ることも、甘美な記憶と未練を断ち切ることであった」(隔日熱病)、「猫と暮らし、ささやかな幸せを街中で感じていた若者が別れの時を迎えた」(十三分)・・・・・・。

「黙聴と静思を忘れた自己主張の渦から一流の文学は生まれない」「人間を書けない文学は無力である」「報道には報道のための平明な文章があるように、文学には永遠を組み立てる美しい文章があって、後者はどこからか不意に生まれてくる」・・・・・・。なるほどと納得する。


警備ビジネスで読み解く日本.jpg建設現場も花火大会もアイドルの握手会でも、各々の施設でも、身辺を守ることでも、いまや警備員が支えている日本。その数9000社、54万人。しかし、4K(きつい、汚い、危険、くさい)の職場で給料も低く、高齢者も多い。人手不足だが、2020年東京オリパラなど、ますます必要性は増すが、万全の警備体制を整えることは簡単ではない。その警備業の歴史と課題、今後のAI・ロボット時代へと進むなかでの未来の姿を本書はあます所なく示す。

業務は「施設を守る――1号警備業務」「不特定多数の人や車両を誘導する――2号警備業務」「貴重品や危険物を運ぶ――3号警備業務」「身辺を守る――4号警備業務」となり、警備員となるには欠格要件をクリアし、プロとしての教育がされている。歴史をたどると、まさに昭和39年の東京オリンピックを中心とした高度経済成長の申し子的存在で、その頃に「ザ・ガードマン」が放映され、"用心棒的存在""隠居仕事の守衛さん"からの脱皮があり、「セコム」「ALSOK」の二強体制、機械警備が始まった。現場は二強ではあるが、9000社が示すように中小企業がほとんどだ。高齢者の雇用も日本全体にとって重要なことであるとともに、「労務単価の引上げ」「保険加入」「自家警備問題の解決に向けての徹底通知」など、私自身が行ってきた重要課題にも本書は丁寧に論及している。

「2020東京オリパラで拡大するのは人的警備の需要ではなく、ロボットやAIの需要だと予想される」「警備員という職業は残るが、ロボットやAIへの代替が進み、人的警備は縮小する。そこで重要なのは、どのような人的警備が残るのか、警備業務の専門性と警備員の専門性のどっちを優先するか」だと指摘する。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任、公明党前代表。前国土交通大臣、前水循環担当大臣。

現在、衆議院議員、党全国議員団会議議長、東京第12総支部長、首都直下地震対策本部総合本部長、現代中国研究会顧問など。

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