デジタル化する新興国.jpg「先進国を超えるか、監視社会の到来か」が副題。デジタル技術の進展・加速化が、世界的に展開され、新興国・途上国を経済だけでなく、社会や政治にも大きな地殻変動をもたらした。変化は激しく、中国、インド、東南アジア、アフリカ諸国は、いまや最先端技術の"実験場"と化し、決済サービスやスーパーアプリでは、先進国を凌駕する勢いだ。従来の、先進国をキャッチアップして"履行型"で進むのではなく、明らかに"飛び越え型"展開だ。新興国がどうリスクを抱えているか、課題は何か、雇用はどうなるのか、中国が輸出する監視システムによる国家による取り締まり強化にどう立ち向かうか。可能性とリスクを追いつつ、デジタルを巡る世界の今日的な構造と問題点を、各国の現地点を探りつつ剔抉する。世界の変化が鮮やかに描かれ、"デジタル敗戦"とも言われる日本の課題とめざす方向性が浮き彫りにされる。大変刺激的な力作。

デジタルのもたらす世界の地殻変動と劇的変化を見せる新興国の可能性と脆弱性が示される。「2018年時点で世界人口78億人のうち半数超がインターネット・アクセスを得ている」「2030年までにアフリカ大陸全員がインターネット・アクセスを得るプロジェクトが始動した」「マレーシアで創業し、現在シンガポールに本社を持つグラブ――安全な"車(タクシー)"がなかったので、ライドシェアによって安全性と信用を得ようとした(日本の逆。新興国になかった信用をプラットフォームのもたらす信用に変えた)」「中国は現金や通販取引に対する不信をアリペイで解決した」「アフリカではケニアのM―PESAを筆頭に銀行口座は持たないがケータイを持つ人が通信会社の口座内にお金を預けるモバイル・マネーとして広げた(これもプラットフォーム企業による信用確保の取り組み)」「南アジアに広がるフリーランス経済(データ入力、文書作成等の業務)(国境を越えた業務委託の急増)」「携帯電話の爆発的普及(固定電話を飛び越える)(銀行も乗り越える)」「ラスト・ワンマイルは取りに来てもらう"菜鳥ステーション(アリババ)"で」「インドの個人認証と貧困層への直接給付(かつては社会保障補助金が中抜きされた)」――。ある意味では「後発性の利益(キャッチアップではなく飛び越す)」だ。そしてこれが「スーパーアプリ」としてタクシー配車から行政手続きまで行い、社会インフラとなる。そして「インドの閉鎖型工業化、開放型デジタル化戦略」と「中国の開放型工業化、閉鎖型デジタル化戦略」を採用する違いとなっている。「土台をつくり、後は競争に任せる」のがインドだ。

デジタル経済が成り立つためには3つの階層(レイヤー)がある。①最も基礎的な電話回線、送受信を支える設備と手順=プロトコルという物理層②最上層は人々が利用するアプリケーション層③その上下をつなぐ中間のミドルウェア層(OS)だ。新興国企業の活躍の場は主に②で、インフラでは中国と先進国の存在が圧倒的に大きく、進出・拡大は難しいし、③もプログラマー等の人材不足が悩ましい。また「雇用」も、製造業の雇用は減っていくが、一気には減らない。多くの作業は形を変えつつ必要となる。「自動化で失われる雇用は47%と言う説もあるが、OECDは9%という。機械化する投資額より、労働者を雇った方がコストがかからないこともある」「中国のフードデリバリー最大手の美団点許の配達員は399万人(2019年)、工場労働者より高賃金もある。しかしジェンダーや社会保障の問題が残る」・・・・・・。

「デジタル権威主義とポスト・トゥルース」――権力側はデジタルを活用し、監視や検閲の統治を行う"デジタル権威主義"が強化され、一方ではSNS上での情報戦が展開される。「米中新冷戦とデジタル化、世界の二者択一」が生ずる。加えて「米中対立の激化、中印対立の顕在化」が構図として現われる。そのなかで日本は「新興国がデジタルによって得られる可能性を拡大し、ともに実現し、同時に脆弱性を補うようなアプローチをとるべき。つまり『共創パートナーとしての日本』であるべきだ」と主張する。そしてそのためにも「遅れている日本の国内でのデジタル社会化を進めよ。アプリケーション層とミドルウェア層、物理層のレイヤーごとにもっと進めよ」という。


泳ぐ者.jpgきわめて奥深く、人間心理を探っていく。さすが青山文平さん。重厚で冷静で、行き着く所は人間の業、心の闇の深さと、究極の善悪同居の生身の人間。「生きる」ということへの問いかけだ。時は町人文化の栄えた文化・文政時代(1804年~1830年)――。ロシアが日本の北から、オランダ・イギリスが長崎等へと、日本に迫り、"海防"が幕府の重要課題となり始めていた。幕臣の監察を担う徒目付の片岡直人、優秀な彼に目をかける上役の徒目付組頭・内藤雅之。徒目付は幕臣の非道を糺す御目付の耳目となって動き、秘すべき内々御用も多い。青山文平「半席」から5年、"なぜ"を探る徒目付・片岡直人が、"見抜く者"として不可解な事件の真相とその動機に迫っていく。

長年連れ添った末に突然、離縁をされた63歳になる元妻・菊枝。重病で寝た切りとなった68歳の元夫・藤尾信久を、長子・正嗣の眼前で刺殺する。「なぜそんな歳になって、信久は大事にしてきた美しい妻を離縁したのか」「『同じ墓に入りたくなかった』という理由とは何か。そして越後の"火葬"とは」「"入りたくなかった"と"入れたくなかった"の違いは」、そして「元夫をなぜ離縁から3年半もたって殺害したのか」「"我の化物"菊枝は、なぜ首を吊って死んだか」・・・・・・。直人は、信久の思いと菊枝の思いの食い違い、"闇き業""生きていく苦しみを断つ"ことにたどり着く。「菊枝は鬼がすべてを統べる化物ではなかった。鬼との反りが合わなくなり、化物から抜け出そうとしていた菊枝がいた」「夫からも子からも"かわいそうな人"と思われて生き続けるのは甚く辛かったろう」「菊枝は信久を刺すことで夫を、息子を取り戻したのだ」と悟るのだ。

もう一つの事件――。10月というのに毎日決まった時刻に大川を泳ぐ男、しかも下手で溺れそうな男(蓑吉)がいた。その蓑吉が幕臣に斬り殺される。川島辰三は「お化けだ」と叫んで斬り殺したが、直人は死の間際に蓑吉が微笑んでいたことに"なぜ"と思う。そして蓑吉には弟・仁科耕助がおり、その耕助が水練の"稽古"が過ぎて溺れ死んだ。その"苛め"をしたのが川島であったことにたどり着く。直人の探索は更に進み、蓑吉・耕助の兄弟が幼き頃に想像を絶する苦難に遭遇したこと、蓑吉が抱え込んできた「闇がり」、東三河に起きた村が消滅するほどの凄惨な事件に突き当たるのだ。

いずれも心奥に深く沈潜する"闇い業"にたどり着く。重厚な圧巻ミステリーとなっている。


仕事と人生.jpg昨年9月に亡くなった西川善文三井住友銀行元頭取――。2013年~2014年にかけてのインタビューをまとめたもの。1980年代からプラザ合意、バブル崩壊、金融危機、不良債権処理・・・・・・。経済は激動、企業は改革を迫られての大変な荒波に襲われるなか、住友銀行を率いてどう乗り越えてきたか。日本郵政社長の時も時折り話をしたが、まさに"ラストバンカーの遺言"といえる「仕事と人生」だ。

「仕事ができる人の資質とは何か。頭の中をきちんと整理整頓できる人、物事をシンプルに考えることのできる人」「完璧な答えまでは追求しない。70点で手を打つ」「何もかも自分で引き受けない。他人の力を借りる」「得意分野を持っている。粉飾決算を見抜くという得意分野を活かして、調査部時代から不良債権処理に関わった」「責任を取る覚悟が勇気を生み出す」「上司に恵まれる」・・・・・・。

「部下がついてくる人――。自ら動く、率先垂範を忘れるな」「難しい問題に直面したとき、上に立つ者が火の粉をかぶってでもやらなければ、危機を打開できない。不良債権は私が担当役員としてつくったものではないから責任も何もないが、処理の陣頭指揮をとり、退任した。引責辞任ではないかといわれたが?」「人任せではリーダーたりえない」「叱るときは叱り、褒めるときは褒める」・・・・・・。

「仕事ができる人・・・・・・。行動しないようでは失格」「常に現場を見る。机上でわからないことが現場にある」「先手を取って禍根を断つ」「特別な人脈より有効な人脈をもつ」「仕事というのはスピードが重要な要素」「状況が悪いと逃げるバンカーは下の下。取引先の悪い状況を脱出するために、どういうお手伝いをするかを考え、提案するのが本来のバンカーの仕事。相手が苦しい時こそしっかりした提案を」「成功がもたらす甘さに惑わされるな。成功ではなく苦労に学べ」「ごまかす会社は立ち直れない。粉飾決算をしているかどうかを見抜くこと(早く整理した方がいい会社)」「"一緒に頑張る"はかえって危険」・・・・・・。

別子銅山から始まる住友。公害解決に戦った伊庭貞剛。別子を離任する時、「五カ年の跡 見返れば 雪の山(「月と花とは人に譲りて」と友人・品川弥二郎が下の句を加えた)」と詠んだ。また「事業の進歩発展に最も害をするものは、青年の過失ではなくて、老人の跋扈である」として57歳で退いた。「この人が上にいれば大丈夫という安心感――堀田庄三」・・・・・・。まさに修羅場に身を置いた"不良債権と寝た男"の「仕事と人生」。


琥珀の夏.jpg親と切り離して独特の教育を行う「ミライの学校」――。"水"の販売で事件を起こし、社会から奇異なカルト集団と批判されるこの団体の跡地から女児の白骨が発見された。弁護士の近藤法子は、ふとしたことから「白骨死体は私たちの孫ではないか」と吉住夫妻から依頼され、代理人となる。じつは法子は30年前、小学時代の3年間、夏になるとその「ミライの学校」に"合宿"のように参加していた。そして、遺体は、自分の知っているミカではないかと胸騒ぎを覚えるのだった。白骨は吉住夫妻の孫でも、ミカでもなく、"ルールを守らない子"の井川久乃であることが判明するが、田中美夏による"殺人"ではないかとの疑いが浮上、法子はここでも弁護することになるが・・・・・・。親と子、大人の論理と子どもの感性、子育てと教育、理想による圧迫、保育園(待機児童)等の問題をキメ細かく剔り出す素晴らしい力作。

「お父さんと、お母さんに会いたい」「ミカって呼んで、手を握ってほしい」・・・・・・。「大人不在の夏休み」「美しい夏と<学び舎>の思い出。そこを共有したミカと私。自分はきれいな少女のまま、死を望まれているのだと思った」「誰かの望む"いい子"でなくてもいいんだ」・・・・・・。「ずっと放っておいて忘れていたくせに。骨が出てきて、自分の記憶を一緒に堀り起こされた人たちが、何かを取り戻そうとするかのように群らがることの、なんと傲慢なことか。取り戻せるものなど、もはや、何もないのに」「大人は誰も美夏と真剣に話してくれない。黙ったまま、美夏と、そのミライを守ると言って」「ヒサちゃんがどうして死んだのか、真実が知りたい」・・・・・・。

「失われた親子の時間」「罪を記憶に閉じ込めて、私たちは大人になった」「純粋な子どもの感性と大人のつくる秩序と論理」――いくつもの問題を考えさせる感性あふれる作品。


月下のサクラ.jpg東北にある米崎市が舞台――。森口泉巡査は、県警捜査支援分析センターの機動分析係を志望していたが、実技試験に失敗し落胆していた。しかし突如配属が決まる。係長の黒瀬仁人が、泉の鍛え抜かれた記憶力等を評価したということだが、特別扱いの「スペカン(スペシャル捜査官)」とメンバーから揶揄される。事件現場で収集した防犯カメラ映像等のあらゆる情報を解析・プロファイリングし事件に迫る機動分析係。黒瀬以下、5人のメンバーはいずれも個性派ぞろい。ベテランの市場哲也、日下部真一、里見大、春日敏成だ。泉は並外れた記憶力と頑固というほどの粘り強さ、闘争心をもってメンバーに加わっていく。

そんな時、県警の会計課の金庫から約1億円が盗まれるという事件が発覚する。しかもその責任者の会計課長・保科賢吾が、定年前に早期退職希望を出し直前に辞めていたことがわかった。そして殺人事件が・・・・・・。泉が男ばかりの世界で、前に前に突き進んでいく姿。それに引きずられていくようにチームが結束していく様子が心地良い。

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プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任、公明党前代表。元国土交通大臣、元水循環担当大臣。

現在、衆議院議員、党全国議員団会議議長、東京第12総支部長、首都直下地震対策本部総合本部長、現代中国研究会顧問など。

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