西郷隆盛.jpg西郷隆盛については、あまたの研究があり、語り尽くされている。家近さんにも大著がある。本書はそのうえで、素朴な「なぜ」を「西郷自身の人物」「周りの人々」「時代」等から突きつけて迫る。「なぜ辺境ともいえる薩摩か」「薩摩藩内の真の主役は誰か」「なぜ西郷が"図抜けた存在"になったか」「なぜ大久保と確執をもち、なぜ自滅したか」等だ。

西郷の評価は、「小さなことには拘泥しない泰然自若、清濁あわせもつ大人物」と定まっている感がある。しかし、そのイメージとは落差があるという。「誠実・無私・情義に篤い胆のすわった人物」は間違いないが、「繊細かつ律儀」「都会的でエレガント」「人目をはばからず涙を流し、人の好き嫌も激しい」「神経が細やかでストレスに悩まされる」「相手との駆け引きを楽しむ」「結構用心深い」などだ。そして感受性や庶民との同苦は生来のものではあったが、「沖永良部への流島」が思慮深く、志操堅固な西郷に変身させたという。

そして西郷をめぐる7つの"謎"に迫る。「なぜ早い段階で自決しなかったのか」「なぜ商人肌の人物を嫌ったのか」「なぜ写真が残されていないのか」「なぜ無類の犬好きとなったのか」「なぜ徳川慶喜を過大評価したのか」「なぜ庄内藩に対して寛大な措置を講じたのか」「立憲制の導入や共和政治をどう考えていたか」――。

加えて「西郷に代わる存在となりえた人物」「西郷の人格と周辺のライバルたち」などが、簡潔にまとめられているのは大変面白く、"西郷像"が浮き彫りにされる。


技術の街道をゆく  畑村洋太郎著.jpg「技術」ということから「現地・現物・現人」の「3現」で各地を歩くと、日本の現在が見えてくる。先人の知恵・努力、技術者の苦境と弱点、日本の未来に技術の果たすべき役割と方向性――。技術という角度で、日本を見つめることの重要さを感ずる。政府も企業も官僚も。「現在の日本の苦境は、出来上がったものを手に入れることに慣れてしまった技術者自身の弱さに発している」「日本の技術者たちよ、道なき道をゆけ」という。

「技術は経営と切り離しては成り立たない。日本の製造業は良い物を作ることに心血を注いできたが、"良い物"というだけでは価値は生まれない」「『田老は巨大な防潮堤を作って津波と戦ったがうまくいかなかった』などの見当違いの記事が書かれるが、防潮堤は侵入してくる水の量をできる限り少なくし、住民が避難する時間をかせぐための構造物なのである」「"水をいなす"信玄堤の知恵」「明和の巨大津波と石垣島の津波石」「知識と行動を結びつける"行動回路"ができていない。日常的な訓練で、実際に体を動かして、自分の頭と体に"行動回路"を作る必要がある」「ダムと有田焼(磁器)」「"動かす"ことと"止める"こと」「制御安全と本質安全」「GDPとオートバイ、イミテーションを抱き込むホンダ」「"良い物"とは、顧客が"欲しい物"と技術者が"作りたい物"の間の"どこか"にある。技術者はその"どこか"を見つける努力をしなければならない」「利益の源泉は"物の世界"から"価値の世界"に移っている」「考えを作る――思考展開法」・・・・・・。

技術者の声が日本では小さすぎる。もっと大きくなることだ。そして技術者の側も"作りたい物"の狭い枠や組織の駒から脱して、日本全体の問題を直視して進め。きわめて重要・重大な指摘を真正面から受け止めたい。


歴史の謎はインフラで解ける  大石久和・藤井聡編著.jpg「公共事業悪玉論」「ダムはムダ」「人口減少社会で道路はこれ以上いらない」――。こうした声は日本がデフレに陥り、GDPがふえなくなったこの20年弱と見事に重なっている。そこには、インフラ整備が人間が生きていく不可欠な営為そのものであり、「災害列島日本であることに技術で挑戦」し、「国家と経済・社会を飛躍的に発展させてきたエンジンであった事実を忘却」し、「先人が国土に働きかけてきたゆえに現在の国土と生活があること」を見ない傲慢さがある。インフラは全ての基礎であり、土台である。これまでのインフラ整備を「フロー効果」ではなく、本来の「ストック効果」で見れば、歴史も経済も社会も文化も見えてくる。本書は本当のこと、当然のことを言っている。

「全ての道はローマに通ず」――。「ローマを都市国家から世界帝国へと押し上げたのは"道路"と"ローマ水道"」「千年の都・京都をつくった治水・利水」「農業土木が決した桶狭間、信長の天下統一を支えた道路政策」「家康の行なった"利根川の東遷""荒川の西遷"など、1600年代の日本全土の大河川改修時代――人口が1200万人から3000万人に急増」「幕府を倒した豪商の北前船、舟運の力と資金援助」「安政南海地震(1854年)の浜口梧陵の命と職を守った闘い」「江戸開府で危機の京都を救った角倉了以の大堰川開削と高瀬川開削」「明治初期第2の危機の京都を救った琵琶湖疎水事業」「富山を救った立山砂防」「明治、日本国民を統合した鉄道と通信」「戦後の復興――成長を支えた東名・名神高速道路」「世界に誇る新幹線ネットワーク」・・・・・・。日本の技術・インフラがいかに根底から土台から日本の歴史・文化・社会・経済を支え、時代を安定・発展させてきたかが明快だ。

しかし、先進国中、最もインフラ整備を軽視してきた日本。道路も防災・老朽化対策も含めた予算も、そしてインフラの地域格差も著しい。「インフラが文化・歴史・社会・経済を規定する」――全くその通りだ。


社会は変えられる.jpg人生100年時代、社会保障制度、財政等の問題は、60歳までの1周目ではなく、2周目の人生をどう生きるかだ――。

本来、喜ぶべき長寿社会。しかし、超高齢社会を迎える今、社会保障制度は危機的状況にあり、日本の財政をつぶすことになる。「私たちは何を間違えているのか――高齢化は対策すべき課題なのか」「何を守り、何を変えるべきか――日本の国民皆保険は奇跡の制度」「私たちは何に対応しなければならないのか――疾患の性質変化を踏まえて」「何を実現すべきなのか――役割と生きがいを持ち続けられる社会へ」と、問題の本質を問い直す。65歳以上が高齢者で、支えられる存在であり、余生・老後であるのではない。60歳還暦までが1周目とすると100歳、120歳までが2周目の人生。時代に合わない制度や"常識"を変えよ。「社会は変えられる!」「今のままでは船が沈む」という提案は迫力がある。

数々のデータがベースとなっている。「高齢化率は高まるが、高齢者は増加しない。高齢化の進展は若い世代の減少にある」「人口遷移を見ると、明治維新から若い世代中心の19世紀型で安定。今後は高齢者が一定割合の21世紀型で安定。大変化をした戦後から今までの20世紀型。この人口構造上最も有利な時に作られたのが現在の社会保障制度」「これまでの医療は感染症対策、しかし今後は"食べ過ぎ""運動不足""ストレス"の生活習慣病をターゲットにすべき」「2周目を生きる人は、1周目を支える社会活動や緩やかな経済活動をする。それが免疫力を高め、生活習慣病に挑むことになる」「治療を中心とした保険制度は限界。疾病の変化(ガン、糖尿病、認知症)に対応した仕組みづくり」「自己の役割を持ち続けることが認知症予防に」「公的保険より魅力的な民間保険で健康へのモチベーションを高める」「従業員の健康を考える"健康経営"の企業に」「地域包括ケアシステムの街づくり、生きがいの場としての農業」「サ高住からシ(仕)高住へ」・・・・・・。全く同感。現場での粘り強い実現力が大切。


天子蒙塵(三)  浅田次郎著.jpg天子蒙塵第二巻発刊から一年半、待望の第三巻。満洲国とはいったい何か。馬占山は「還我河山(我に山河を還せ)」という。日本は「満洲を奪った。・・・・・・その悪業を覆い隠すために五族協和の理想郷」をいう。溥儀は「日本のなすがままに東北へと向かった。・・・・・・これは大清復辟なのだと、理屈をつけ、みずから魔法をかけながら」。張学良は「私は東北を奪われた。溥儀は私にかわって東北王となった」「いいえ。あなたは東北を捨てて中国を選んだの。皇上は中国を追われて東北に流れついただけ」――。1930年代前半、満洲国建国をめぐって、各人が業を背負って"迷走"する。溥儀、張学良、馬占山、蒋介石、武藤将軍、甘粕正彦、石原莞爾、永田鉄山、志津大尉、さらに川島芳子、吉田茂・・・・・・。

「満洲国とは何か」の歴史を人間像から剔抉する。

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プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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