「公共事業悪玉論」「ダムはムダ」「人口減少社会で道路はこれ以上いらない」――。こうした声は日本がデフレに陥り、GDPがふえなくなったこの20年弱と見事に重なっている。そこには、インフラ整備が人間が生きていく不可欠な営為そのものであり、「災害列島日本であることに技術で挑戦」し、「国家と経済・社会を飛躍的に発展させてきたエンジンであった事実を忘却」し、「先人が国土に働きかけてきたゆえに現在の国土と生活があること」を見ない傲慢さがある。インフラは全ての基礎であり、土台である。これまでのインフラ整備を「フロー効果」ではなく、本来の「ストック効果」で見れば、歴史も経済も社会も文化も見えてくる。本書は本当のこと、当然のことを言っている。
「全ての道はローマに通ず」――。「ローマを都市国家から世界帝国へと押し上げたのは"道路"と"ローマ水道"」「千年の都・京都をつくった治水・利水」「農業土木が決した桶狭間、信長の天下統一を支えた道路政策」「家康の行なった"利根川の東遷""荒川の西遷"など、1600年代の日本全土の大河川改修時代――人口が1200万人から3000万人に急増」「幕府を倒した豪商の北前船、舟運の力と資金援助」「安政南海地震(1854年)の浜口梧陵の命と職を守った闘い」「江戸開府で危機の京都を救った角倉了以の大堰川開削と高瀬川開削」「明治初期第2の危機の京都を救った琵琶湖疎水事業」「富山を救った立山砂防」「明治、日本国民を統合した鉄道と通信」「戦後の復興――成長を支えた東名・名神高速道路」「世界に誇る新幹線ネットワーク」・・・・・・。日本の技術・インフラがいかに根底から土台から日本の歴史・文化・社会・経済を支え、時代を安定・発展させてきたかが明快だ。
しかし、先進国中、最もインフラ整備を軽視してきた日本。道路も防災・老朽化対策も含めた予算も、そしてインフラの地域格差も著しい。「インフラが文化・歴史・社会・経済を規定する」――全くその通りだ。