人生100年時代。今、最も取り組むべき大事なテーマ――70代、80代をどう生きるか。とくに夫を失った一人暮らしの70代、80代女性はどう生きるか。内面のつぶやきも含めて実にテンポよく描く。時間を経るごとに左右に揺れ動きながら逡巡し、心がしだいに収斂していく。生々しく、面白い。
78歳の忍ハナ。10年前に実年齢より上に見られた「70ちょっと事件」にショックを受ける。以後、外見こそ大事と「外見磨き」に精を出し、今や若く、美しい。そんなハナは、酒屋を商ってきた夫の岩造にとって自慢の女房だ。ところが、仲の良かったその岩造が突然他界し、心が沈む。それに追い討ちをかけるように、愛人、隠し子まで発覚する。足下が崩れるような衝撃をハナは受け、怒りと喪失感がのしかかる。
「『すぐ死ぬんだから』というセリフは、高齢者によって免罪符である。それを口にすれば、楽な方へ楽な方へと流れても文句は言われない。・・・・・・80代中心の集まりに出たことがある。免罪符のもとで生きる男女と、怠ることなく外見に手をかけている男女に、くっきりと二分されていた。外見を意識している男女ほど、活発に発言し、笑い、周囲に気を配る傾向があった」「重要なのは品格のある衰退。衰え、弱くなることを受けとめる品格を持つこと。"若い者に負けない""何としても老化を止める。アンチエイジングだ"とあがくことは品格のある衰退ではない」――。
70代、80代をどう生きるか。おそらく100人100色、桜梅桃李。家族構成、家族や友人が近くにいるかどうか。住まい住居の有無、年金・預金等の経済状況、健康状態・・・・・・。本書のテンポと明るいタッチのなかで、読者は皆、考えさせられるに違いない。面白い。
三島屋変調百物語伍之続。江戸・神田の筋違御門先で袋物を商う三島屋で、風変わりな百物語を続けるおちか、側には従兄の富次郎やお勝。三島屋の変わり百物語は、聞いて聞き捨て、語って語り捨て、心のわだかまり、澱が吐き出される。素朴で人情味ある江戸の町人文化は、生老病死や怪異とも隣り合わせでもある。
「開けずの間」――塩断ちが元凶で「行き違い神」を呼び込んだ悲惨で悲しい物語。「だんまり姫」――亡者を起こす変わった声「もんも声」をもつ女が、女中となって大名家の過去の悲しい事件と向き合う。そこには呪か毒で殺害された"一国様(お次様)"の"怨"が行き場を失っていた。そして加代姫に声が戻るのだ。「あやかし草紙」――100両という破格の値段で写本を請け負った武士の数奇な運命、寿命を縮める冊子と、おちかの決断。それに「面の家」「金目の猫」の5篇。江戸のゆったり流れる時間と人情のなかに生ずる"怪談"だが、むき出しの人間の悲しみ、愚かさ、支えあい、縁と業などが伝わってくる。江戸社会が生み出した"怪談""怪異"は身近な所にあるが、その解決の仕方も江戸社会。