三島屋変調百物語伍之続。江戸・神田の筋違御門先で袋物を商う三島屋で、風変わりな百物語を続けるおちか、側には従兄の富次郎やお勝。三島屋の変わり百物語は、聞いて聞き捨て、語って語り捨て、心のわだかまり、澱が吐き出される。素朴で人情味ある江戸の町人文化は、生老病死や怪異とも隣り合わせでもある。
「開けずの間」――塩断ちが元凶で「行き違い神」を呼び込んだ悲惨で悲しい物語。「だんまり姫」――亡者を起こす変わった声「もんも声」をもつ女が、女中となって大名家の過去の悲しい事件と向き合う。そこには呪か毒で殺害された"一国様(お次様)"の"怨"が行き場を失っていた。そして加代姫に声が戻るのだ。「あやかし草紙」――100両という破格の値段で写本を請け負った武士の数奇な運命、寿命を縮める冊子と、おちかの決断。それに「面の家」「金目の猫」の5篇。江戸のゆったり流れる時間と人情のなかに生ずる"怪談"だが、むき出しの人間の悲しみ、愚かさ、支えあい、縁と業などが伝わってくる。江戸社会が生み出した"怪談""怪異"は身近な所にあるが、その解決の仕方も江戸社会。