西郷隆盛_命もいらず名もいらず.JPG「人の器の大きさは一体何で測るものだろう。指導力や構想力など、さまざまな要素が挙げられようが、"赦す力"の中にこそ、西郷隆盛という人間の器の大きさを見ることができるのではないだろうか」「優れた政治家は人間学に通暁しているものだ。それは相手の立場に立ってものを考えることのできる能力を人一倍持っているということだ。西郷には、勝の置かれた立場が手に取るようにわかった」「命もいらず名もいらず 官位も金もいらぬ人は仕末に困るもの也 この仕末に困る人ならでは 艱難を共にして国家の大業は成し得られぬ也」「事大小となく 正道を踏み至誠を推し 一事の詐謀を用うべからず」――。

西郷は民主的な徳治国家を追い続け、大久保の国権的な中央集権国家との間に亀裂を生じる。西欧流国家への志向と、そのなかで新政府の果実を奪い合う人間の発する腐臭に西郷は耐えられなかった。日本人は欧米列強に比して、断じて劣るものではない。欧米の金と物欲の邪神に毒されず、日本人が持つ高い倫理性と精神性を純粋に練り上げよ。そう感じた内村鑑三は、西郷を「代表的日本人」の巻頭に置く。

勝海舟、大久保利通、坂本龍馬、木戸孝允、高杉晋作、大村益次郎、山岡鉄舟......。これら人物を、北康利さんは見事に描き、西郷が行き着いた境地を静かに、堂々と、鮮やかに示してくれている。


名文どろぼう.JPG名文、心にしみる言葉、人生の真実、社会の欺瞞......。こんな言葉に出会い、そんな言葉を吐いた人の境地と境智にふれることは、至福である。

「呑気と見える人々も、心の底を叩いて見ると、どこか悲しい音がする(漱石)」「才能も智恵も努力も業績も身持ちも忠誠も、すべて引っくるめたところで、ただ可愛気があるという奴には叶わない(谷沢永一)」「お金がすべてじゃないわ。持っている人はそう言うんです。(ジャイアンツのエリザベス・テイラーとジェームス・ディーンの会話)」「そら原作者の眼から見たら、ずいぶん不満もあるやろ、せやけど天狗ワテがつくった。これをいうたらあかん、しかし小説が売れた理由の一つはワテや、ワテの立ちまわりや(竹中労が書いた嵐寛寿郎の言葉)」「修学旅行を見送る私に『ごめんな』とうつむいた母さん、あの時、僕平気だったんだよ(日本一短い手紙)」「僕が母のことを考えている時間よりも、母が僕のことを考えている時間の方がきっと長いと思う(NTT)」「うますぎると評判ですが 私もそう思います(井伏鱒二が車谷弘の句集に対する葉書)」「『いいお酒ですな』と人に感心されるようなのみかたが、あんがい静かな絶望の表現であったりする(高橋和巳)」「美空ひばりには神様がついているけど、加藤和枝には神様がついていない(ひばり)」「東大出には、赤門とバカモンがある(山藤章二)」「私が田中角栄だ。小学校高等科卒である(中略)。できることはやる。できないことはやらない。しかしすべての責任は、この田中角栄が負う。以上。(田中蔵相就任の大蔵省演説)」――全てに生身のその人が出ている。


世界を動かす海賊.JPGアデン湾を荒らし回っていたソマリア海賊はその範囲を広げている。インド洋西部の東経78度以西、南緯10度以北で区切られる海域がハイリスク・エリアとして指定され、各国は協力して安全保障のネットワークをつくり、緊密に情報交換をしている。

本書は海賊の実態、手口、装備の全貌を明らかにしつつ、海賊対策について詳説している。情報収集・インテリジェンスの強化とともに、現在、国会で法案審議となっている民間武装ガードについても語っている。資源開発で活況を呈しているアフリカと、資源の輸入が生命線である日本の戦略について、丁寧に論述してくれている。先日も、前線で本当に、頑張ってくれた海上保安庁職員から帰国報告を聞いた。


64.jpgわずか数日しかない昭和64年の初頭に起きたD県警史上最悪の翔子ちゃん誘拐殺人事件。刑事部と警務部との抗争、警察発表をめぐるマスコミとの確執、本庁と県警――こうした幾つもの狭間で悩み、駆け回る刑事あがりで今は広報官の主人公・三上義信の煩悶と意地の闘いが描かれる。そうした抗争の陰で、ただ犯人を黙々と追い、そしてたどりつく翔子ちゃんの父・雨宮芳男。

「半落ち」「臨場」「震度0」などの横山秀夫さんの力作だ。


奇跡のリンゴ.JPG「奇跡のリンゴ」「比類なき美味しいリンゴ」「腐らないリンゴ」を農薬も肥料も使わないでつくり上げたリンゴ農家・木村秋則さんの物語。

「悲観主義は感情のものであり、楽観主義は意志のものである」――。仏の哲学者アランの「幸福について」の言葉だ。本書を読んで感ずるのは、陽気、執念、夢、生命力、愛情、苦闘、狂気、自然、生態系......。不可能を可能にした木村さんは、「私じゃない、リンゴの木が頑張ったんだよ」「自然の中には、害虫も益虫もない。土、水、空気、太陽の光に風。岩木山で学んだのは、自然というものの驚くべき複雑さだった」と言う。奇跡のリンゴは、文明の対極、人為を意志をもって捨て去った生命哲学の果実、人生哲学の果実だ。

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プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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