
「人の器の大きさは一体何で測るものだろう。指導力や構想力など、さまざまな要素が挙げられようが、"赦す力"の中にこそ、西郷隆盛という人間の器の大きさを見ることができるのではないだろうか」「優れた政治家は人間学に通暁しているものだ。それは相手の立場に立ってものを考えることのできる能力を人一倍持っているということだ。西郷には、勝の置かれた立場が手に取るようにわかった」「命もいらず名もいらず 官位も金もいらぬ人は仕末に困るもの也 この仕末に困る人ならでは 艱難を共にして国家の大業は成し得られぬ也」「事大小となく 正道を踏み至誠を推し 一事の詐謀を用うべからず」――。
西郷は民主的な徳治国家を追い続け、大久保の国権的な中央集権国家との間に亀裂を生じる。西欧流国家への志向と、そのなかで新政府の果実を奪い合う人間の発する腐臭に西郷は耐えられなかった。日本人は欧米列強に比して、断じて劣るものではない。欧米の金と物欲の邪神に毒されず、日本人が持つ高い倫理性と精神性を純粋に練り上げよ。そう感じた内村鑑三は、西郷を「代表的日本人」の巻頭に置く。
勝海舟、大久保利通、坂本龍馬、木戸孝允、高杉晋作、大村益次郎、山岡鉄舟......。これら人物を、北康利さんは見事に描き、西郷が行き着いた境地を静かに、堂々と、鮮やかに示してくれている。