デンジャラス  桐野夏生著.jpg谷崎潤一郎を支え、葛藤・嫉妬する3人の女性。妻の松子、その妹の重子、松子の前夫の子であり、重子の養子となった清一の妻・千萬子。狭い家族の人間模様は谷崎との距離感に起因し、谷崎はその時々に最も望む人間関係をやんわりとつくり貫く。「細雪」の中心的モデルとなり、それを誇る重子が静かに語る。その迫りくる緊迫感には隙間がない。

戦後の奔放さを身につけ谷崎に寵愛される若い千萬子への嫉妬は、3人の老いともあいまって苦しいほどだ。「松子姉の嫉妬は、私の嫉妬。松子姉の懊悩は、私の懊悩。そして、松子姉の狭量は、私の狭量でした」「結局、兄さんが1番好きなんは兄さん自身、てことですやろか」「兄さんは本当に大きな心で、誰にもよくしてくれました。・・・・・・でも、兄さんは、王国には必要ないと思った人間には、根本のところで冷酷です」――。そして谷崎は「夢と現のあわいを行ったり来たり。あなた(重子)ほど、僕の書く小説の中に生きた人はいませんでしたね」という。

「細雪」「痴人の愛」「鍵」「瘋癲老人日記」・・・・・・。久し振りに谷崎潤一郎の"業"の世界にふれた。


日米同盟のリアリズム   小川和久著.jpg現時点の日米同盟、北朝鮮、中国の戦略・軍事力をきわめてリアルに分析し、「日米同盟の徹底した活用を抜きに、自分の国を自分で守れない」「米国にとって日米同盟の戦略的価値は"死活的に重要"」「"自立"できない構造の自衛隊」であることを論証する。

論旨はきわめて明確。日米同盟の米国側からの戦略的位置は「世界最強の日米同盟」「日本を失った米国は世界のリーダーの座から転落」「日本は駐留経費負担のお手本」であり、日本の「自主防衛は幻想」「核武装論の虚妄」を解き明かす。ミサイル発射を繰り返す対北朝鮮では、「94年北朝鮮危機の真相」「北朝鮮の軍事力と日・米・韓の"戦争力"と米朝チキンゲーム」「金正恩の"狙い" "メッセージ"と"怯え"」「北朝鮮はインド、中国型経済成長を目指す」「核の配備は通常戦力・兵力を削減し、国家建設志向の意図」を最近の各事案を分析しつつ語る。また中国では「東シナ海で中国を抑え込む日米同盟」「中国の戦略は『三戦(輿論戦、心理戦、法律戦)』と『A2・AD(接近阻止・領域拒否)』」等々について述べる。


敵の名は、宮本武蔵  木村昌輝著.jpg宮本武蔵と戦い敗者となった側から武蔵を描く。鹿島新当流の"童殺し"と汚名を浴びせられた有馬喜兵衛、クサリ鎌の達人・シシド、京都の吉岡憲法(源左衛門)、柳生新陰流の大瀬戸と辻風、弟子の幸坂甚太郎、宿命的な敵となる巌流・津田小次郎、そして武蔵の父・宮本無二。武蔵は、本位田外記と於青の子であり、無二は己を殺す刺客として無双の勇者に武蔵(弁助)を育てたという設定だ。

「生死無用」の果たし合いの裏に、愛別離苦、五陰盛苦、怨憎会苦、求不得苦の四苦八苦があり、宿命的な業の世界がある。その生老病死の極まった世界で、剣豪たちの心の葛藤と、涙を遮断して死に向かう姿が描かれる。

今までの宮本武蔵像が砕け、敵・味方の一体化した世界にふれる。


文系人間のための「AI」論  高橋透著.jpg早いか遅いかはわからないが、2030年頃までは特化AIの時代、そしてその後は汎用AI(AGI)の時代が進む。カーツワイルがいう「シンギュラリティ」の到来は2045年だが、その後人間はどうなるか、社会はどうなるか。AIと共存し、やがて合体して、人間を越えるものになる。2050年ともなると人間は大きく変容せざるをえない。サイボーグへ、そしてハイパーAIと融合するポスト・ヒューマンへ。

本書は、多大なリスクがあるかもしれないのに、なぜ人間はテクノロジー開発を止めないのか、という哲学的命題に、人間の欲望、とくに脳の可塑性というキーワードで踏み込む。不利益をもたらしても、人間は不可能に挑戦する"奇妙な生き物"だという。「人間は欲望を回転させつづけることをしないと生きていけない。すでに充足させられた人間の欲望はどこへ向かうのか」「人間の生物としての賞味期限は切れる」「欲望の現われである資本主義の限界」「機械が人間に代わって主役になる"次のヴァージョンの資本主義""資本主義2.0"」「生物から非生物への変容こそが"愉楽=幸福"」・・・・・・。

そして本書で紹介している現状――。「もうはじまっているAIとの暮らし」「ディープ・ラーニングの正体」「アドバンスド・チェスとアドバンスド・将棋」「プレシンギュラリティでの人間とAIの協働」「生物としての人間と生死のないAI」「個体、有限性の人間と無限存在としてのハイパーAI」「生身の人間、電脳化したサイボーグ(人機一体)、AIロボットとの共存」「眼球に埋め込むサイボーグレンズ」・・・・・・。大変な時代がスタートしている。


屋根をかける人.jpg明治38年、24歳で来日した米国人の建築家・実業家のウィリアム・メレル・ヴォーリズ(1880年~1964年)。近江八幡を拠点としてキリスト教の伝道の活動とともに、日本全国で数多くの西洋建築をてがける。さらにヴォーリズ合名会社を設立。メンソレータムを日本に普及されるなど、幅広い活動を展開。日米関係が悪化するなか、戦争に突入。華族の身分を捨てて結婚した妻・満喜子とともに厳しい立場に立たせられる。

しかし、日本を、近江を、接した多くの日本人を愛したW.M.ヴォーリズは、1945年9月、天皇制存続(神ではない)に大きな役割を果たすことになる。メンタム、広岡浅子、満喜子の兄・広岡恵三、種家、マッカーサーと近衛文麿との仲介、昭和天皇との出会いなど、数奇な生涯が描かれる。「日米の架け橋」というより、「建築家・ヴォーリズは、日米に大きな屋根をかけた」のだ。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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