「万が一、自分が命を落とすようなことがあったら、もういちど生まれ変わる。月のように。いちど欠けた月がもういちど満ちるように。そしてあなたにサインを送る。そのサインに気づいたら、生まれ変わりを受け入れてほしいと彼女は言いました」――。三角哲彦(アキヒコ)をめぐっての愛の美しさと深さと強さが時間を追って繰り返される。正木瑠璃との恋愛、その生まれ変わりの小山内の娘・瑠璃、緑坂ゆいの娘・るり、そして小沼希美(本当は瑠璃)。正木瑠璃が死んだ年に小山内瑠璃が生まれ、小山内瑠璃が死んだ年に希美が生まれ・・・・・・。
「瑠璃も玻璃も照らせば光る」と「前世を記憶する子どもたち」(生まれ変わりを思わせる事例についての著作)――この2つが繰り返され主旋律を奏でる。三角とそれぞれの瑠璃の愛の深さが時空を越える。とまどう周りの人々。しかし、こうしたことはあるとしみじみ思う。生命の輪廻転生、人の邂逅、縁とか天を感ずる世界。不思議としか思えない縁の深まる実感、生老病死の因果・・・・・・。その縁とか天という世界を感じられるかどうか。それが「生老病死の気づきの哲学」であり、人生の深さだ。そうした世界を悠久なる宇宙の美しくも厳しい「月の満ち欠け」として描く卓越した小説。