2014年、埼玉県川口市で起きた70代の老夫婦殺害事件。逮捕されたのは孫の17歳の少年で、「金目当てだった」と供述した。閉鎖された母子の異常な生活空間のなかで「殺してでも金を借りてこい」との母親からの執拗な脅迫が明らかとなった。幼少期に両親が離婚、小学5年から長期にわたって学校にも通わず、ホテル暮らしや野宿生活を強いられて転々。極度の貧困、ネグレクト(育児放棄)、虐待(身体的・心理的・性的)、過酷な生育環境が少年を押し潰す。行政が居場所を把握できない「居所不明児童」だった。
「なぜ事件が起こったのか」「誰か、途中で救いの手を差し延べ、止められなかったのか」「頻発する衝撃的な少年犯罪、彼らを救い出す方策はないのか」――記者が丹念に取材した。重く、苦しいが、少年の手記には「一歩踏み込んで何かをすることはとても勇気が必要だと思います。・・・・・・やはりその一歩は重いものです」とある。「子供に関心をもつ」「あっと何か思った時に一歩踏み込む」。山寺さんは「どんなに同情したり心を痛めたりしても、行動を伴わない『善意』には現実を変える力はなかったのだ」という。「面倒なことに関わりたくない」「善意を行動で示すのが苦手の国民性」「原因を公的機関の対応に帰結させて批判だけしがちな社会」のなかで、「行動に移す努力」を考えさせられる。