国道16号線 「日本」を創った道.jpgユニーク、かつ面白い。「地形」は人間の生存にとって最も本質的であるからだ。首都圏をぐるりと囲む330キロの環状道路国道16号線。三浦半島の付け根から横須賀、横浜の海辺を走り、東京に入って町田、八王子、福生を抜け、埼玉の入間、狭山、川越、さいたま、春日部を過ぎ、千葉の野田、柏、千葉、市原から再び東京湾岸の木更津、富津に至る馬蹄形の国道16号線。ここには今、1100万人もの人が住んでいる。

縄文時代の「遺跡や貝塚」が多い。中世の「城」が多い。江戸幕府の頃から明治にかけて、日本の殖産興業と富国強兵の要となる生糸(八王子・富岡そして横浜の港)や軍事施設(それが戦後は米軍施設になる)、ユーミンやサザンに至るジャズやニューミュージックの音楽・文化、モータリゼーションのなかでの大団地やショッピングモール、大学の集積・・・・・・。そして今、大団地の疲弊(ニュータウンがオールドタウン)と高齢者の集積、環境を視野に置いたテレワークの新たな若者向け街づくり・・・・・・。日本そのものを映し出し、時代をくっきりと具現する日本・首都圏の文明の栄枯盛衰の国道16号線だ。

背景には「地形」がある。「4つのプレートがぶつかる世界でも稀な場所、黒潮の流れに突き出た2つの半島、急峻な丘陵地といくつもの台地、大きな河川が注ぐ巨大な内海の東京湾(利根川も家康以前は東京湾に注いでいた)、後背部に広い低地の関東平野、そして台地と丘陵地の縁に無数の小流域――。それを馬蹄形につなぐと16号線になる」という。大型平野そのものは、太古以来、大水害と高潮等で住みづらく、家康以来の利根川の東遷、荒川の西遷で変わり、戦後は高度成長や人口急増、土地バブル、公害等々の影響がそのまま現れたのだ。

「なにしろ日本最強の郊外道路(生糸が殖産興業を、軍港が富国強兵を、リゾートホテルと米軍とショッピングモールが同居、少子高齢化がもたらすゴーストタウン)」「16号線は地形である(船と馬と飛行機の基地となる、大学と城と貝塚が同じ場所で見つかる)」「戦後日本音楽のゆりかご(矢沢永吉とユーミン、ルート16を歌う、ジャズもカントリーも進駐軍に育てられた)」「消された16号線――日本史の教科書と家康の罠(16号線の関東武士が頼朝の鎌倉幕府を支える、太田道灌が拓いた豊かな水の都、"江戸は寒村だった"は家康伝説の強化策の面も)」「カイコとモスラと皇后の16号線(皇后が引き継ぐ宮中養蚕の伝統、八王子と横浜を結ぶシルクロードと鑓水商人、天皇家の蚕と渋沢栄一)」「未来の子供とポケモンが育つ道(定年ゴジラが踏み潰す老いたニュータウン、コロナとバイオフィリア=生物愛が16号線を再発見させる)」・・・・・・。

こうして見ると時代の変化は16号線に現われる。変化を見ようとするなら国道16号線から目を離すな、ということだろう。


悪の芽.jpg3日間で10万人もの人が集う大規模なアニメコンベンション――。突然、一人の男が火炎瓶を次々に投げ、8名が死亡し重軽傷30数名という無差別大量殺人事件が発生した。犯人・斎木均は現場で焼身自殺。マスコミは少年期に受けた"いじめ"を機に小・中・高と学校に行けず、就職もままならなくなった斎木の転落の半生を容赦なく暴き続けた。一流銀行に勤務し、幸せな家庭を築いていた安達周は、この犯人の名に驚愕する。じつは"いじめ"の発端となる"斎木菌(細菌)"呼ばわりの"あだ名"を付けたのが安達だったのだ。斎木の人生を狂わせた罪の意識に苛まれ、ネットで報じられることへの怯えで、安達はパニック障害を起こし会社を休職する。なぜ斎木は無差別大量殺人事件を起こしたのか。斎木は何に怒ったのか。「社会に対する恨み」と決めつけていいものなのか。安達は、動機・真実に迫ろうと苦しみもがく。「悪の芽」は一体どこで生じたのか。

"いじめ"はいじめた方も生涯、心に傷を負う。"ネット社会"の悪口は、人の人生を根っこから崩壊させることがある。「こうなったのは全部、社会が悪い、他人が悪いというのは努力が足りない人間のいうことだ」というのは、弱肉強食の理屈ではないか。斎木は懸命に働き、心を通わせた"キャバ嬢"に「人間はまだ進化が充分じゃないんだ。・・・・・・見下したり、攻撃したり、人間はおかしな生き物ですよ。ネットでの悪口だけでなく、キャバ嬢とか風俗嬢を見下してるから、それで萌愛のために寄付する気がなくなったんでしょ。立派な生き物の振りして生きている人も、ホントは他人を見下す気持ちを心の中に持っているんです。人間がもっともっと進化して、みんなが優しい生き物になってたら萌愛はきっと死なずに済んだんです」と語り合ったという。人間であることの放棄、優しい生物になれない人間への絶望。世界にも、人間にも、自分にも、もういいやって思ってしまう絶望。「人間はなぜ、自分の周囲に向ける分しか優しさを持っていないのだろうか」と問いかける。無差別大量殺人事件まで至らなくても、現代のありうる問題を剔抉する傑作。


関ヶ原大乱、本当の勝者.jpg「関ヶ原の戦い(慶長5年9月15日)」を一次史料を駆使して新進気鋭の執筆陣が最新の研究成果を示す。すると、「家康の小山評定」や「小早川秀秋への問鉄砲」などが、どうも怪しいことがわかる。歴史文書を残すということが、自らの人生や一族にとって不利か有利か、二次資料等は"勝者の歴史"となりがちだということだ。歴史研究はそうしたこともあって難しいし、面白いといえるだろう。

徳川家康(水野伍貴著)、上杉景勝(本間宏)、伊達政宗(佐藤貴浩)、最上義光(菅原義勝)、毛利輝元(浅野友輔)、石田三成(太田浩司)、宇喜多秀家(大西泰正)、大谷吉継(外岡慎一郎)、前田利長(大西泰正)、長宗我部盛親(中脇聖)、鍋島直茂(中西豪)、小早川秀秋・黒田長政・福島正則(渡邊大門)、そして「関ヶ原の戦いの従来のイメージの打破」「近衛前久書状」について白峰旬氏。14武将が描かれる。「関ヶ原」については、越後から会津へ移封された上杉景勝に対して最上・伊達との"北の関ヶ原"である「慶長出羽合戦」があること、そして家康と西軍の三成、大谷吉継、さらに宇喜多秀家、長宗我部盛親は勝敗がはっきりしているが、他の武将も関ヶ原の後、大変な激震に見舞われたことがよくわかる。「東軍が最終的に勝利をつかんだのは、小早川秀秋、黒田長政、福島正則の力なくして語れない。しかし、その後の命運は大きく違ったのである」と結ばれているが、小早川秀秋などは1602年には"酒の飲みすぎ"で20才で死亡している。

「豊臣七将による三成襲撃事件も一次史料にはない」「小山評定における福島正則の大演説は作り話」「石田三成と大谷吉継の"友情物語"は根拠がない」「小早川秀秋への"問鉄砲"はフィクション」「直江状はあったが"家康への挑戦状"と評される内容ではなかった」「政宗は秀吉への思いをもちつつ、家康の時代を認めた」「輝元は"お飾り"にはほど遠い独自の思惑で戦いに加担する"野心家"だった」「三成は福島正則が味方すると想定したことが誤算で敗因」「鍋島直茂の処世術」「抜け駆けを許した正則(井伊直政、松平忠吉)」・・・・・・。

イメージが先行、定着している「関ヶ原の戦い」も、史料に即してみると今も動いている。


エコノミック・ステイトクラフト 経済安全保障の戦い.jpg今後20年、世界は「米中冷戦」「AI・IoTなどテクノロジーの加速化」を基本構造として激しい競争になる。経済ツールを活用して地政学的国益を追求するエコノミック・ステイトクラフト(ES)の応酬の時代が既に開始されている。「平和構築を錦の御旗に自国が優位となるルールを打ち込み合う経済安全保障の戦いが始まった」「自国経済の繁栄を目指した戦いは、技術、資金、人材の奪い合いであり、これを有する企業の競争優位の奪い合いが主戦場となる」「従来の競争相手は経営者同士。しかし今、競争相手の企業に国家が政策的後ろ盾を与える。もしくは企業の競争力を削ぐために想像を超える制裁を科すなど、競争への国家の関与や競争のルールを国家が革新することによって自国企業の優位を確実なものにする戦いだ」と、今後の世界の激震に国家が、企業が、どう勝ち抜いていくかを、さまざまな角度で指摘する。新興技術によるイノベーション、そのルール形成能力、そしてサイバーセキュリティをめぐる競争、産業競争力に直結するセキュリティ・クリアランス等々について実践的に論及する。

「国防権限法 米国が放ったルール形成戦略」「エコノミック・ステイトクラフト時代の幕開け(株価を下落させて買収、借金漬けにしてインフラ要所の獲得、データ異常を生じさせるサイバー攻撃)」「ES時代に不可欠な国家経済会議機能(日本のNSCに経済班、米国のNECの進化、日本版NEC創設の提言)」「米国防権限法が求める経営改革(日本企業はインテリジェンス機能という新たな慣行へシフトできなければ中長期的にグローバル成長力を失う)」「中国による一帯一路とルール形成」「欧州の経済安全保障戦略(EUの安全保障環境の構造変化、日欧の連携と構想力)」「新たな競争軸となるサイバーセキュリティ」「産業競争力に直結するセキュリティ・クリアランス(ゼロデイ情報の重要性、競争力に直結するSC制度=セキュリティ・クリアランス制度、参考にすべき豪のSC制度)」「ESG投資と監査に必要とされる安全保障目線(日本に呼び込むべきESG投資、問われる各国の経済安全保障政策への対応力)」「米中冷戦を梃子に市場を切り開くルール形成(米空母カールビンソンの港等のリスクシナリオ)」「産業競争力保全に必要な政策」「インクルエンス・オペレーションと産業スパイ対策(日本ゆえにコンサルティング業界に必要な業法)」「非ハイテク領域を定義するルール形成の必要性(環境問題解決にならないEV、EV化で弱体化する日本経済、非ハイテク市場化の可能性)」・・・・・・。

大きく変わり動いている世界と経済と企業、そして経済安全保障の最先端を開示する。


灰の劇場.jpg27年前の1994年4月29日、東京・奥多摩町の北氷川橋で女性2人が身を投げ、死亡する。大田区のマンションで同居していた私大時代の同級生だと報ぜられた。恩田さんは「2人は何者だったのか。なぜ死んだのか。ずっととげのように心に刺さっていた」という。このことを題材にした小説だが、「女性2人の日常を描くパート『1』」と「真相を探る小説家の『0』」とが交互に述懐するという類例のない構成、手法となっている。胸中の赤裸々な独白が続く不思議な面白さと新鮮さをもつ小説だ。

「なぜ2人は飛び降り死んだのか」――。「同性愛の辛さ」とか「1人が病気となるなど生活の行き詰まりと世をはかなんで」というのは、あまりにも陳腐な決めつけではないか、という。2人の生活は、かっちり歯車が噛み合い互いに助け合いつつも過剰には踏み込まないとしてきたが、どこかで軋みが生じたのか。「日常→平凡→平穏」な日々だったと思われるが、何がいったい2人の「日常」を断ち切るに至ったのか。小さなさざなみ、ちょっとしたアクシデント、微妙に移り変わる力関係が、小さく小さく灰のように降り積もり、時間の底に沈黙するが、「ただちょっと疲れちゃった」というような絶望なのか。老いと疲れ、究極の大事業である死と心中理由の多様、善悪・是非の二元論ではない生と死のあわいの世界を、小説家「0」と同居していた2人の女性「1」と作者の恩田さん自身が入り込んで描く。

  • 1  2  3

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

太田あきひろホームページへ

カテゴリ一覧

最新記事一覧

月別アーカイブ

上へ