灰の劇場.jpg27年前の1994年4月29日、東京・奥多摩町の北氷川橋で女性2人が身を投げ、死亡する。大田区のマンションで同居していた私大時代の同級生だと報ぜられた。恩田さんは「2人は何者だったのか。なぜ死んだのか。ずっととげのように心に刺さっていた」という。このことを題材にした小説だが、「女性2人の日常を描くパート『1』」と「真相を探る小説家の『0』」とが交互に述懐するという類例のない構成、手法となっている。胸中の赤裸々な独白が続く不思議な面白さと新鮮さをもつ小説だ。

「なぜ2人は飛び降り死んだのか」――。「同性愛の辛さ」とか「1人が病気となるなど生活の行き詰まりと世をはかなんで」というのは、あまりにも陳腐な決めつけではないか、という。2人の生活は、かっちり歯車が噛み合い互いに助け合いつつも過剰には踏み込まないとしてきたが、どこかで軋みが生じたのか。「日常→平凡→平穏」な日々だったと思われるが、何がいったい2人の「日常」を断ち切るに至ったのか。小さなさざなみ、ちょっとしたアクシデント、微妙に移り変わる力関係が、小さく小さく灰のように降り積もり、時間の底に沈黙するが、「ただちょっと疲れちゃった」というような絶望なのか。老いと疲れ、究極の大事業である死と心中理由の多様、善悪・是非の二元論ではない生と死のあわいの世界を、小説家「0」と同居していた2人の女性「1」と作者の恩田さん自身が入り込んで描く。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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