さざなみのよる.jpg43歳、小国ナスミがガンで亡くなる。ガンは長い闘いであるだけに、人はある意味では強くなり、突き抜ける部分もある。「だからぁ死ぬのも生きるのも、いうほどたいしたことないんだって」――。もともと明るく、真っすぐ。

 「ナスミは、好江の話をいつも自分のことのように聞いて、腹の底から怒り、バカみたいに喜んでくれた。腹立たしいことも、時間が経てば、二人は犬がじゃれあうようにそのことで大笑いした」。加藤由香里が上司からひどい仕打ちをしたことを知って2発、顔面に見舞ったりもした。「私がもどれる場所でありたいの。誰かが、私にもどりたいって思ってくれるような、そんな人になりたいの」「清には、ナスミと話したファーストフード店を思い出す。二人が悲しみの真っ只中にいたことを。あれは、悲しいけれど、少し甘酸っぱい時間だった」「あげたり、もらったり、そういうものを繰り返しながら生きてゆくんだ」・・・・・・。

ナスミは一人で死んで逝ったが、家族や友人一人一人には、さまざまな感情が渦巻く。感謝したり、涙したり、微笑ましく思い出したり、今の自分の中にナスミが住んでいることに気付いたり、夜はさざなみのように寄せてくる。


西洋美術史.jpgギリシャ美術から印象派に至るまでの西洋美術の変化には、西欧の歴史、政治・社会、文化、価値観の変遷が投影されている。とくに、信仰や権力者の意図もあって、一定のメッセージを伝える手段でもあっただけに、「読み解く」ことが重要でもある。これまで中野京子さんの一連の「読み解くシリーズ」や原田マハさんの幾つもの小説等を興味深く読んできただけに、本書は掛け足する俯瞰の良さをもつ。

「なぜ、古代の彫像は『裸』だったのか(男性美を追求したギリシャの価値観)」「ローマの大規模建築」「修道院の隆盛によるロマネスク」「巡礼ブーム・都市化とゴシック美術(神と光)」「ルネサンス」「15世紀の北方ルネサンス・ネーデルラント絵画」「16世紀ヴェネツィア絵画の自由と享楽」「カトリックvs.プロテスタントが生み出した新たな宗教美術・バロック絵画(ルーベンス、ベラスケス)」「17世紀オランダ美術の別格レンブラント」「かつての美術後進国フランスに設立された王立絵画彫刻アカデミー(明晰な精神と理性のプッサン芸術とフランス古典主義)」「ルイ14世死去(1715年)から生まれた繊細で華やかなロココ文化(貴族の時代)」「フランス革命と新古典主義の幕開け」「新古典主義と対立したロマン主義」「産業革命・都市の発展のなかで"現実"をそのまま描いたクールベがこじ開けた近代美術の扉」「さらに一層押し開いた近代絵画の父マネ」「文化的後進国イギリスの反撃」「身近な自然や田園風景を描いたバルビゾン派(ルソー、コロー、ミレー)」「印象派の画家とアメリカ」・・・・・。


児童虐待から考える.jpg最近、目黒区内で発生した児童虐待事件をはじめとして、児童の「虐待事件」「餓死事件」「置き去り死事件」「遺体放置事件」が続いている。児童虐待は10万件を越え、増え続けている。本書は「児童虐待を考える」ではなく、「児童虐待から何が見えてくるか」「社会は家族に何を強いてきたか」を現場の実態から問いかけている。

現場を歩いているだけに、表面的に言われている話とは随分違う。「作られた"残酷な父親"像」「親としての過剰な『生真面目さ』」「育てる力が乏しい親、それを支えない社会」「助けを求めることを知らない親たち」「社会に不信感を抱きつつ、その規範に過剰に従う」「完璧な母であれ」「社会につながれない"ニューカマー"たち」「子育てには家族という器がいる。しかし家族の凝集力が失われている現代」「母子家庭の貧困の根深さ。とくにニューカマー(例えばフィリピン人女性たち)」「育児は母親だけの義務か? 母性から降りる、共同体で支援する」・・・・・・。

そして、現場を歩くと、10年間で高度成長期につくられた近代家族の変容が見えてくる。「子どもを連れての住居移動」「母子家庭の増加」「性行動の活発化と離婚の増加」「安定した就労の困難」「性産業への一般女性が参入する敷居の低下」「ネット、SNS等メディアの進化」「虐待が脳を損傷させるなどの研究の進歩」「人の孤立化の進行」などだ。

新しい子育て社会をどうつくるか。厚労省の出した新しい社会的養育ビジョンにどう現実的魂を入れるか。児相など各部署での職員の力量アップ。親のキャパシティをどうバックアップするか。地に足をつけた問題提起がされている。


ミリオンカの女.jpg日露戦争前の帝政ロシアのウラジオストク。明治初期の1871年、函館の大火で孤児となったところを寄港していたイリーナ号の由松に拾われてウラジオストクにやって来た「お吟」。ペトロフ家に入って2か月後、彼女を引き取った夫婦は、やがてお吟を娼妓「浦潮吟」としてこき使う。20歳の1887年、ウラジオストクに商会を構えるグリゴーリィ・ペトロフに再び養女として迎えられ、令嬢として活躍する。波乱万丈の苦難のなか育ったお吟は賢く、度胸も知恵もたくましさもあり、凛として生きる。小型拳銃も持ち、修羅場を切り拓く鉄火場の女でもある。

戦乱への序曲、民族間の確執・策謀・文化的差異、シベリア鉄道開発、捕鯨や漁業、鉱山開発、荒くれの人夫、遊郭、流血の抗争・・・・・・。多民族が入り乱れる陰謀渦巻く時代状況、そしてロシアにとって重要な極東の港・ウラジオストクにはそうした矛盾が集約される。スラム街・ミリオンカには、その闇が集結する。

激しく厳しい事件の連続だが、美しい坂の港町である函館とウラジオストク。厳しい環境のなか心を通わせ合う人々の絆、四季折々の花がバクコーラスのように奏でられる。


未来.jpg「10才の章子へ こんにちは、章子。わたしは20年後のあなた、30才の章子です。・・・・・・」。大好きなパパ(佐伯良太)を亡くしたばかりの章子に、突然不思議な一通の手紙が届く。"人"になったり"人形"になったり、体も精神的にも弱いママ(文乃)と2人で暮らしていくことになる章子。ママはいつから、どうしてこのようになったのだろう。そのママと樋口の名も故郷を捨てて、パパはなぜ結婚したのだろう。学校では、優秀だが、イジメにもあっている章子。新しく父親的存在になる男からの暴力・・・・・・。章子が交差する数少ない友人・知人のなかで次々起きるいじめ、虐待、自殺、放火・・・・・・。

とにかく最後までつらい。とくに出てくる女性がいずれも皆、酷い目にあい、想像を絶するどん底の闇に落される。"人形"という病に化して遮断しなければ生きられない究極の絶望。そのなかでパパ、ママ、章子の揺るぎない愛情。その中心軸が、時間のなかに細くも芯の通った生命線として貫かれる。ママの心をこそのぞきたくなるが、それこそ読者が感じ取るものなのか。

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プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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