日露戦争前の帝政ロシアのウラジオストク。明治初期の1871年、函館の大火で孤児となったところを寄港していたイリーナ号の由松に拾われてウラジオストクにやって来た「お吟」。ペトロフ家に入って2か月後、彼女を引き取った夫婦は、やがてお吟を娼妓「浦潮吟」としてこき使う。20歳の1887年、ウラジオストクに商会を構えるグリゴーリィ・ペトロフに再び養女として迎えられ、令嬢として活躍する。波乱万丈の苦難のなか育ったお吟は賢く、度胸も知恵もたくましさもあり、凛として生きる。小型拳銃も持ち、修羅場を切り拓く鉄火場の女でもある。
戦乱への序曲、民族間の確執・策謀・文化的差異、シベリア鉄道開発、捕鯨や漁業、鉱山開発、荒くれの人夫、遊郭、流血の抗争・・・・・・。多民族が入り乱れる陰謀渦巻く時代状況、そしてロシアにとって重要な極東の港・ウラジオストクにはそうした矛盾が集約される。スラム街・ミリオンカには、その闇が集結する。
激しく厳しい事件の連続だが、美しい坂の港町である函館とウラジオストク。厳しい環境のなか心を通わせ合う人々の絆、四季折々の花がバクコーラスのように奏でられる。