kisimuseiji.jpg「コロナ禍、尾身茂氏との対話」が副題。3年に及んだ新型コロナウィルスとの対決。尾身茂・新型コロナウィルス感染症対策分科会長と計12回、24時間を超える対話を行い、政治と科学、政府と専門家がどう考え、ぶつかり、協力してコロナと戦ってきたかを語る。

試行錯誤の戦いであり、政府も専門家も悩みつつ決断した様子がドキュメントのようによくわかる。「コロナ禍の3首相」の序章から「謎の肺炎 過去の教訓生かされず」――。加藤厚労相に提出した対策案、専門家会議の発足、PCR検査の『抑制』批判などの第1章。第2章「前のめり  ルビコン川を渡った専門家会議」では、「これから12週間が瀬戸際」と専門家が、「ルビコン川を渡るような思い」で前のめりの発言をしたことを赤裸々に話す。わが国のクラスター対策が奏功、北海道の危機、エビデンスなき一斉休校、官邸官僚による3密閉、密集、密接など一つ一つ思い起こす。第3章「緊急事態宣言発令 42万人死亡推測の衝撃」――。202047日の緊急事態宣言、「最低7割、極力8割」の表現をめぐる攻防、休業要請をめぐる足並みの乱れ、アビガンへの否定的意見、解除基準を作る苦悩などが語られる。世界がロックダウンや死者増大のなか、日本が微調整をしながらしのいだことがよくわかる。

4章は「専門家会議の『廃止』  政府に向かうべき批判が専門家に」――。専門家会議を発展的に解消し、207月、尾身氏が会長に就任した「新型コロナウィルス感染症対策分科会」が発足する。経済の大竹文雄氏や小林慶一郎氏、鳥取県知事の平井伸治氏らが入る。政府と専門家、その役割分担という難しい問題が表面化するが、これからも問われる難問だ。

そして第5章「GoTo   経済かコロナ対策か」――。2020722日、GoToトラベルのスタート、安倍首相の辞任表明と菅首相・・・・・・。専門家がGoToに常に危機感を持っていたこと、コロナの最初から担当の西村大臣とずっと毎日のように会っていたことが語られる。そして202117日に2度目の緊急事態宣言、「急所」と狙い撃ちされたという飲食店の反発、待望のワクチン登場(進まぬ国産ワクチン開発)などの攻防が語られる。

6章は「東京五輪 官邸と専門家の衝突」だ。「五輪開催自体で感染拡大に影響したのかを証明するのは難しい」と語っている。ワクチン接種を徹底して進めた菅首相の退陣。第7章は「看板倒れの『聞く力』 平時への移行に前のめり」――。分科会が開かれなくなったり、国会にも呼ばれなくなり、専門家と距離が開いていったと言う。「4つの考え方」に政府は困惑、行動制限を行わない方針、待機期間短縮は事前相談なし、全数把握の見直しを発表、2類相当から5類への動き。そして第8章「感染症対策の司令塔  専門家助言組織のあり方を問う」「終章 コロナとの共生」について語る。

「新型コロナウィルスと向き合ってきて、浮き彫りになった、あらゆる課題を洗い出す必要がある。医療提供体制の問題、感染症法や新型インフルエンザ等対策特別措置法の問題、国と自治体の関係等を検証すべきだ。新型コロナウィルスにより235月時点で約75000人の尊い命が失われているのですから、二度と同じ過ちを犯してはなりません」と締めくくっている。大変な3年間をかなりくっきりと思い起こしつつ読んだ。


narero.jpgきわめて率直で大胆で面白く、世界が広がる。帯に「『LG BT』に分類して整理したら、終わりじゃない。人間の複雑さと繊細さの入り口に立ち、『クィア』を考える。これがスタート地点にして決定版!」「性、恋愛、結婚、家族、子孫、幸福、身体、未来壮大な『その他』たちが、すべての『普通』を問い直す」とある。LGBTQの当事者である二人が、全くその通り語り尽くしている。「差別」の繊細さについても、「普通」を押し付け、「多様性」を上から目線で論ずることの違和感と嫌悪感が率直かつ緻密に語られる。これまで小説も含めて様々な本を読んだり、直接話を聞いてきたが、本書は特にパワフルで圧倒され、世界がクリアになる。

「私たち『その他』は壮大なんですけど? ――LGBTQ+、分類して整理したあとの、その先の話(クィアは強烈な侮蔑語から始まった)(あなたはLG BTですか?は老若男女ですかと?と同じ) (名前をつけられない人たち) (壮大なその他)」「基準を疑え、規範を疑え――性、性別、恋愛ってなんだろう?(男と女っていうニ通りじゃない)(『早い段階で決まる』は違う)(恋愛至上主義規範)」「いい加減、そろそろ慣れてくれないかな――マイノリティとマジョリティのあいだ(『マイノリティだから素晴らしい』がやばい)(ゲイと言えばオネエみたいなステレオタイプがセクシュアル・マイノリティ一般に拡張されてしまった) (弱者を救うと言う政治家を弱者はなぜ支持しないか)」が13章。

「制度を疑い、乗りこなせ――結婚をおちょくり、家族像を書き換える(侮蔑語を逆手に取る) (なんで友達同士で結婚しちゃいけないの?)」「そんな未来はいらないし、私の不幸は私が決める――流動する身体、異性愛的ではない未来(『見える差異』に依存していいのか) (『ありのまま』がとにかく嫌だ)(身体は変わるし変えられる)」「『出過ぎた真似』と『踏み外し』が世界を広げる――『みんな』なんて疑ってやる(聞いたこともない性的指向の人に会ってみたい)(ずるい、図々しい、厚顔無恥!)」が46章。

「男性でも女性でもない性別の人間であるという自認をもって生きる方はいっぱいいる。Xジェンダーを自称してる人はけっこう多い」「男か女か、そのあいだかという一直線の基準自体を疑っていいと思う。『男度20%、女度80%』みたいな2つの基準で計れるのではなく、直線上ではない、平面上、あるいは立面上のグラデーションとも言ったらいいのかな」「そもそもゲイの場合、カミングアウトしなければ、トランスの人みたいには困らないという点で、就職とか仕事に関して不利な点が少ない」「私は寛容だから受け入れるというのはものすごく上から目線。『理解する』『受け入れる』ではなく、『もう慣れてくれ』ということ」・・・・・・

「クィアを使うための三本柱」が示される。「みんな一緒ではなく、いろんな人の違いを違いとして保持したまま一緒にやっていく」「アイデンティティをプロセスとして捉える」「喧嘩を売るとか、逆手に取るぞという好戦性」の3つだ。また「『体が男()だけど、心は女()』という言い方が広まったのはよくない。そんな単純に分けていいのか疑問がある。そういうバキッとした言い方があると、結構当事者も乗ってしまう。男か女かなんて個人個人でグラデーションであるはずなんだけど」・・・・・・

まさに性と身体をめぐるクィアな対談。


seikaidemotto.jpg「日本人には創造性がないので、イノベーションには向いていない」というのは誤解。「問題は、個人の創造性ではなく、組織の創造性。組織が個人をダメにするのだ。日本人に創造性を発揮させたければ、個人を鍛えるよりも組織のあり様を変えなければだめだ」と言う。

「イノベーションは『新参者』から生まれる」――。「最終的に重要なのは『意見の多様性』であって『属性の多様性』ではない。性別や国籍などの『属性の多様性』がしっかりと『意見の多様性』につなげられるかどうかにかかっている」「上下間の風通しが大事。日本はそれが弱い」と指摘。1997年の大韓航空801便の悲劇が例示される。副操縦士より機長の方が事故率が高いという。上司に反対しにくい権力格差が大きい国・日本と言うわけだ。そして「日本人は『権威』と『リーダーシップ』を一体のものとして認識しまうという奇妙な性癖を持っている」ことを指摘し、「若造と新参者が大事」というわけだ。しかも今や10年前の業務知識や経験は、ほとんど価値がない。「日本で起こっているのは『スキルやノウハウの不良債権化』だ。このような時代においては、人は、常に知識を時代に合わせてアップデートし、自分の持っているスキルやノウハウの陳腐化を防ぐことが求められる」と言う。日本の組織風土を変えるしかないのだ。それには「聞き耳のリーダーシップ」「好奇心がエリートに勝つ(アムンセンとスコット)」などが示される。

「イノベーションの実現にあたり最適な決め方はない。重要なのは『決め方』ではなく『決め方の決め方』」と指摘。「ケネディの手痛いデビュー戦(グアテマラで訓練された亡命キューバ人をカストロ政権打倒に使う)」と、「その失敗を学習して、2年後にキューバ危機を乗り越えるケネディの決断(ケネディは出席せず、先制攻撃派と海上封鎖派に分ける真剣論議)」を紹介する。キューバ危機におけるケネディの決断について、ジャニスの提唱した「集団浅慮の4要因」に沿っての分析は極めて重要であり面白い。上下関係や忖度、閉鎖された論議の打破、専門家に論議を任せることの危険性等、キューバ危機においてのケネディの決断は、示唆に富んでいる。

「『その先』を示すのがリーダーの仕事」「共感を得るビジョンを打ち出せ」「過度に定量化されたビジョン(何年後はここまで達成する目標など)を設定するな」「納得できるHow――どのようにそれを実現するのかを示す」「名ばかりの管理職(ノイズ)のアドバイスは無視しろ」など、「イノベーティブな組織の作り方」を豊富な事例やデータを交えて解き明かす。


2035.jpg2035年の中国はどうなるか」――。中国共産党が江沢民以来、国民との公約として掲げてきた「ニつの百年」。一つは中国共産党建党100年の2021年に「全面的な"小康社会"」を作り上げること。もう一つの百年目標は建国100年の2049年、「富強の民主的で、文明的な調和のとれた美しい、社会主義現代化を実現した強国」を作り上げることとしている。その「中国の夢」実現の中間点が2035年になる。習近平の中国はどう考えているか。国際社会はどう向き合っていったら良いのか――。中国を最もよく知る宮本雄二元中国大使が、毛沢東、鄧小平、江沢民・胡錦濤時代、そして習近平の今を歴史的経緯も含めて丁寧に分析する。

「中国といえば、共産党の一党支配による強権政治のイメージが強いが、かなり違う」「中国共産党は『国民』を恐れている」「ソ連・ロシアと違って、中国では、すべての王朝が農民蜂起により打倒されている。しかも儒学は民の声は天の声。天の声に従わなければ、天命が尽きると説く」「江沢民、胡錦濤の時代、集団指導制は確実に定着したが、その弱点もあらわとなった。胡錦濤は、江沢民に権力集中を邪魔され、やるべきこともやれずに、腐敗は蔓延し、弛緩した党・政府組織にしてしまった。そこで習近平は、反腐敗闘争、制度改革で権力を集中した」。しかし、2019年末からの新型コロナではゼロ・コロナ政策や国民生活に対する管理と締め付けの強化に対し、国民が強い不満を表明する。「豊かになるほど『管理』の難しさも増す」「国民が望んでいるのは、もう少し豊かで、もう少し自由のある社会の実現」「中国社会の中核をなす『義』という価値観」など、丁寧に指摘する。

2022年の党大会において「習近平思想」こそが、これまでの思想や理論を基礎に、新たに創り出された「新時代の中国の特色ある社会主義思想」であると位置づけられた。毛沢東思想及び鄧小平理論と並ぶ共産党の指導思想との位置づけだ。「政治とイデオロギーを重視すれば、経済は相対的に軽視される。政治と経済の矛盾という本質的問題」にぶつかるし、党の指導と組織の強化やナショナリズムの反映も、一直線でやれば反発や抵抗を呼び込むことになる。

「終章」の「2035年の中国」で「『中華民族の偉大な復興』で国民を引っ張っていけるのか」「軍事大国化路線は持続可能か」「対外関係の修正は可能か」「2035年の中国はどうなっているのだろうか」を論じ、「現行の国際秩序にとどまることの重要性」「米中関係は、中国経済と連動しており、経済の観点からも米中関係を上手にマネジメントする必要がある」「米中が軍事衝突し、全面的な経済のデカップリングとなれば、世界は破局に向かう。そうならないよう、最大限理性の力を発揮するべきだ」と中国の経済と外交の分野での調整が急務であると指摘している。そして、「日中が一時の感情に突き動かされるのではなく、冷静に相手を眺め、21世紀という時代に、何が護られるべきかを真剣に考え、行動することを念じて止まない。日本と中国の関係は、最後は国民同士が決める。中国もそうなのだ。国民同士の直接交流が広がっている。観光も、ビジネス交流も」と言っている。


sougetuki.jpg「高瀬庄左衛門御留書」「黛家の兄弟」に続く「神山藩シリーズ」の最新作。若き町奉行となった18歳の草壁総次郎。名判官と評判を得た祖父・左太夫、そして父・藤右衛門と続く草壁家は町奉行を家職としている。しかし、総次郎に家督・お役目相続が赦されると、父・藤右衛門は突如として失踪する。「とうとうやりよったか」――。実は祖父・左太夫と藤右衛門は、顔を合わせるのが億劫で、「倅とはどうしてよいかわからなかった」。縺れるほどの糸があったのだ。男の親子は昔からどうもそういうことがあるようだ。そのなかでの突然の失踪。準備もなく町奉行となった総次郎は、「おのれの差配ひとつで誰かが罪を負う」重圧に突如放り込まれ、戸惑う日々となる。

そんななか、藩の草創期から続く廻船問屋で神山城下屈指の大店・信濃屋の三番番頭・彦五郎が刺殺され、直後にその妻も殺されるという事件が起きる。「この事件の裏には何があるのか」「藤右衛門はなぜ失踪したのか、事件の真相と関係があるのか」――どうもまもなく入港する北前船、筆頭家老、信濃屋、そして藤右衛門失踪に関係が

毎日暇を持て余す隠居後の屈託を抱えつつ若さにあふれる総次郎を眩しく見ていた左太夫だが、「隠居の身」として、自己を制しつつ孫を助けようとする。「お祖父さまに、はやく助けを求めればよかった」「うなずき返した左太夫は、うつむいたままの孫へ、おもむろに手を差し出した」

いつの世も、男親と息子の関係はぎこちなく言葉が少ない。オイディプス・コンプレックスもある。しかし人一倍溢れる愛情があるのも事実だ。その心情が合流して事件解決へ進んでいく。静謐でありながら、それゆえに濃厚な時間が丁寧に描かれる。心に迫るものがある。

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プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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