meityo.jpgあの素晴らしい番組「100d e名著」(NHK   Eテレ)のプロデューサーが、「なぜこの本を選んだか」「なぜこの講師を招いたのか」を語る。著者が9年にわたる激闘の中で感じたのは、現代社会の迷妄を鋭くつく「名著の予知能力」。カミュの「ぺスト」は、まさにそれだ。歴史を動かす人間存在の本質を抉り出すからこそ、現代に蘇る。「名著は、歴史の風雪に耐えて読み継がれてきたからこそ、今に残っている存在だということをいろいろな機会を通して私は語ってきた。そうだとするならば、現在、こうした名著を読み継ぐという営為が人々によってなされなければ、名著は途絶えてしまうことになる。この事実を、ディストピア小説として、見事に表現したのが、この本でも取り上げた『華氏451度』(本を焼き払う仕事をするファイアマン)である」と言う。

名著をわかりやすく解説するのではない。名著を挟んで、その道の第一人者と伊集院光さんが質問、対話をする中で、化学反応が起きる。現代社会に名著が生き生きと蘇る。それが「100de名著」というわけだ。「ハムレット」で、「講師が青ざめるとき――伊集院光さんが放つコメントの衝撃」は、いきなり放たれたカウンターパンチだ。メアリ・シェリーの「フランケンシュタイン」は、科学によって創造された「怪物」は、やがて人類に復讐を誓い圧倒的な力で殺戮を開始する話だ。マルクスの「資本論」では、現代における「コモン」を再考する。モンゴメリの「赤毛のアン」では、少女だけが読むのはもったいないとし、「多様性へ開かれた豊かな人生」を考える。「河合隼雄の幸福論」では、「幸福ということが、どれほど素晴らしく、あるいは輝かしく見えるとしても、それが深い悲しみによって支えられていない限り、浮ついたものでしかない」を紹介している。確かにそうだ、安部公房の「砂の女」は、コロナ禍で直面した「自由」の問題を考察する。

「全体主義に抗して」の章では、ハンナ・アーレントの「全体主義の起原」、オルテガの「大衆の反逆」、三木清の「人生論ノート」などを取り上げ、「熱狂に巻き込まれない『知性の砦』を築く」ことの重要性を解説する。

最近はコスパ、タイパ加速化の時代。省略、要約で「読んだ気」先行の時代だからこそ、原作の豊かさ、力強さを再発見する「名著の蘇生」が大事だと強調している。その通りだと思う。「時代を見つめるレンズの解像度を上げる」の章では、フランツ・ファノンの「黒い肌・白い仮面」、カミュの「ぺスト」、スピノザの「エチカ」、ボーヴォワールの「老い」を取り上げる。「新自由主義的思考」や「若さ至上主義(生産性重視)」への対抗を鮮やかに示す。

最後のところで、「メディアの足元を見つめ直す」「名著の未来」を扱っている。アレクシエーヴィチの「戦争は女の顔をしていない」は、小さな声を徹底的に拾っている。アーヴィング・ジャニスの「集団浅慮」での「キューバ危機でのケネディの行なった判断」「戦争への最大の抑止力は『教養』」は衝撃的だ。

中身は極めて深くて大きい。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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