足利将軍家の重臣一族・細川藤孝(後に幽斎)と明智光秀は、織田家中でも昵懇の仲。信長の命により、嫡男・細川忠興と光秀の娘・玉が縁組となる。忠興は言葉少なく笑うこともなくぎこちない。なにより愛を知らなかった。親の愛情のなかで育った玉は戸惑いを隠せない。少しずつ心が通い合うようになった頃、突如起こった本能寺の変。父・明智光秀の謀反により、夫婦の運命は暗転する。細川家は光秀に味方せず、玉は謀反人の娘として山奥に幽閉される。あまりにも過酷な運命――玉はやがて、キリスト教の愛に惹かれていく。玉によって初めて愛を知った忠興は、玉の心を引き寄せようと焦るが、すれ違いは増し、孤独と恐怖から侍女の耳を削ぐなどの蛮行にまで至る。歪んだ愛は次第に亀裂を増していく。
秀吉のもとで、忠誠を誓い、疑念を持たれないよう戦闘となればあえて先陣を切る忠興。「大坂屋敷に住まわせるべき妻とは誰なのか」――。「そなたの『玉』を大坂に呼び寄せよ。美しき謀反人の娘を、私はこの目でじっくり見たい」と秀吉は言う。秀吉との恐怖の神経戦、利休や秀次の自害、朝鮮出兵、忠興に降りかかる石田三成の讒言、秀吉の伴天連追放令、秀吉の死、そして関ヶ原・・・・・・。事あるごとに忠興と玉は、翻弄され、決断を迫られる。
これほど過酷な人生があろうか。玉(ガラシャ)も忠興も。
「愛しているのに、愛し方がわからなかった・・・・・・」「生きる上で必要なのは、忠興の独りよがりの愛ではなく、全てを受け入れて寄り添ってくださる神の愛なのではないか」「私を独りにしないでくれ」「『散るべき時を知り、己の命を絶て』それが、父上が私に最初に教えたことではありませんか。私にとって散るべき時は----玉の願いを叶える時でありたい」「もう二度と、玉を傷つけたくない」「そなたは私の妻である以上、死なねばならぬ。私は(独りよがりな愛から)そなたを解き放とうと思う」「忠興様は、己の立場から逃げることなくその命をかけてきた。その忠興様の妻であるならば、私も、逃げることなくこの命をかけたい」・・・・・・。
辞世の句、「散りぬべき 時しりてこそ 世の中の 花も花なれ 人も人なれ」――。ありのままに生きる強さと美しさ。どう生きるかは、どう死ぬか。あまりにも過酷な宿命の人生を課せられた忠興と玉(ガラシャ)を、見事に描いている感動的作品。