41nDBPgcjHL__SX336_BO1,204,203,200_.jpgある結婚披露宴――。新郎・伊勢田友之47歳、新婦・鈴本早紀29歳。家庭向け清掃会社の社長と社員だが、経歴も見た目もまるで釣り合わない。早紀には交通事故で両親を突然失うという過去があったし、友之には出生の秘密があった。そして披露宴の新婦のテーブルには親族は少なく、なじみではないメンバーが座っていた。確かに皆にはそれぞれの過去があり、思いがあった。

そのそれぞれの思いを「祝辞」「過去の人」「約束」「祈り」「愛でなくても」「愛のかたち」の6篇として描く。いずれも、心が通い合うことの込み上げる喜びが静かに伝わってくる。「ありがとう、結婚してくれて」「人生って悪いものではない。きっといいものだ」「いい人はいい人生の物語をつくる」――。しみじみとした感動が押し寄せてくる。とても良い作品。


マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学する.jpg「世界は存在しない。だが、一角獣は存在する」――。ドイツの哲学者、マルクス・ガブリエルのあまりにも有名な言葉だ。その「新実在論」の若き天才・哲学者に、丸山俊一氏とNHK「欲望の時代の哲学」制作班が、日本を歩き、インタビューし、思考を加えたもの。哲学そのものの論文ではなく、現実の「民主主義」「資本主義」、そしてAI・IoT・ロボットの急進展する社会について、どう考えるかを問いかけたユニークな試みだ。

「哲学はルールなしのチェス。格闘技みたいなものだ」「哲学は時代との格闘だ」「哲学は合理的な精神分析」「現実は無限に複雑だ。単一の統一されたものなどない(無限に複雑性を肯定せよ)」「僕が提示するアンソロジーは、『ハイデガー+日本的思考』、あるいは、ハイデガーからヨーロッパ中心主義的要素をなくしたものに近い」・・・・・・。生老病死の世界を直視しながら、「諸法実相」「如実知見」「現当二世」の哲学が随伴して立ち上がる。そして、現代哲学が時代との格闘のなかで生じてきたことが浮き彫りにされる。すべての意味が破壊された第二次世界大戦の反省のなかから「実存主義(自分の人生以外に、自分の人生に意味を与えるものは何一つない。自分の人生において、自分が唯一の意義の源)が生まれる」。そしてレヴィ・ストロース等の構造主義が生まれる(自分の「主観性」つまり自分の自分に対する感じ方は、構造のネットワークにおける一つの結節点)。さらにジャック・デリダの「ポスト構造主義」が生まれ、「言語は、未来から現在を通して過去に流れる。言語は逆の時間方向を持っている。人生は思考する生き物として生から死へ流れるのではなく、死から生へ向かう。未来が現在に、そして現在が過去に構造を与える」。そして本書の「新実在論」の締めくくりで「人間はみな動物だ。現実と道徳的事実がどのようなものか知る能力を持つ人間であり、動物だ」「知恵をもつことに勇気をもて」という。末尾にロボット工学の権威・石黒浩氏との対談があり「人間はいかにして、人間たる証を得るのか」を語る。


誰にもわかるハイデガー.jpg難解きわまりないハイデガーの「存在と時間」。学生時代から解説書等に触れてきたが難しかった。「被投」「企投」「現存在(ダーザイン)」「世界内存在」「本来性・非本来性」「世人」「空談」「未了」「先駆的了解」「時間性」「時間内存在」・・・・・・。難解で独特の言葉の意味を、「文学部唯野教授・最終講義」として比喩も交えて語ってくれる。うれしくなるほどだ。

「現存在とは人間のこと。死ぬ存在」「現存とは自分が死ぬと知っているから自分を気遣い、次に道具を気遣う」「実存とは、自分の可能性を見つめて生きる存在のしかた」「非本来性とは、できるだけ死から目をそむけるようにする生き方」「共現存在の非本来的な人たちを世人と言う。死を忘れさせてくれる存在」「死を忘れるための空談」「不安が人間を本来的な場所へ戻す」「不安のもとは自分が死ぬということ」「先駆的了解と先駆的決意性」「人間の存在している意味というのは時間性である」「現存在というのは世界内存在であると同時に、時間内存在である」・・・・・・。そして大澤真幸氏が補足として素晴らしい解説を加えている。「存在の意味は時間である」というテーマを、「新約聖書」「イエス・キリスト、終末」「死への切迫した覚悟こそが、人の倫理性の強度を極大化する」等々、難題を包み込むように剔抉する。


熱帯  森見登美彦著.jpg「それは私が京都に暮らしていた学生時代、たまたま岡崎近くの古書店で見つけた一冊の小説であった。1982年の出版、作者は佐山尚一という人物だった。『千一夜物語』が謎の本であるとすれば、『熱帯』もまた謎の本なのである」――。この佐山が著した『熱帯』は、「汝のかかわりなきことを語るなかれ しからずんば汝は好まざることを聞くならん」という謎めいた文章で始まるが、不思議なことに読む途中で消えてしまい「この本を最後まで読んだ人間はいない」のだ。その謎の解明に勤しみ巻き込まれていく読書会(「学団」)の池内氏、中津川さん、新城、千夜さん(海野千夜)。そして白石さん。当時、千夜と同じ学生であった佐山は「魔術にまつわる物語、南の島をめぐる不思議な冒険譚を書く」といい、失踪していた。そして、『熱帯』という小説を読み始めた者たちは、いつしか『熱帯』という世界そのものを生き始め、物語の主人公になっていくのだ。

「想像の世界、『熱帯』の世界」が広がっていき、「不可視の群島」での不思議な物語が展開される。「何もないということは何でもあるということなのだ。魔術はそこから始まる」「この海にある森羅万象はすべて贋物なんだ」「『おまえは帰るべきところを忘れ、それを忘れたことさえ忘れている』と魔王は言った。『その失われた思い出こそが魔術の鍵だったというのに――』」「どこに魔女がいるというんだ・・・・・・見ようとしなければ見えないのよ」「<創造の魔術>とは思い出すことだ」・・・・・・。

自在に時空を飛ぶ展開。「千一夜物語」は夢、神話、創造、起源、そして「シンドバッド」「アラジン」などをも17世紀以降に紛れこませた信じられない肺活量の物語だが、この森見登美彦「熱帯」は、その世界と随伴して時空を疾走する。「何もないということは何でもあるということなのだ。魔術はそこから始まる」と言っているように、人間の内奥に込められた過去・現在と未来の想像を限りなく自在に描けるのが小説だというワクワク感が伝わってくる。


白洲次郎 占領を背負った男.jpg白洲次郎が表舞台に登場したのは、日本にとって敗戦後の未曾有の国家的危機の時代。GHQは"従順ならざる唯一の日本人"と報告しているが、「一見破天荒なように見える彼の行動の中に、いつもすっきりと一本、際立った"筋"(白洲次郎のいうプリンシプル)が通っていた」「プリンシプルを持って生きていれば人生に迷うことは無い<プリンシプルに沿って突き進んでいけばいいからだ。そこには後悔もないだろう>という言葉どおりに彼は生きた。人生の最後の瞬間まで格好良かった」と北康利さんは描いている。自我を持ち個性豊か、画一的思考を排除し、行動も速く、情にも厚い。白洲正子は「直情一徹の士」「乱世に生き甲斐を感じるような野人」と評した。

「近衛文麿と吉田茂」「占領された屈辱」「政府とGHQの間の折衝を行う終戦連絡事務局(終連)の参与に抜擢される」「憲法改正におけるGHQとの攻防」「"今に見ていろ"と云う気持抑へ切れず」「ケーディスとの最終決着」「民政局との国家主権をかけた血みどろの争いを戦い抜いた自負」「通商産業省創設」「講和と独立」・・・・・・。激烈な戦いの日々が描かれる。

「今の政治家は交通巡査だ。目の前に来た車をさばいているだけだ。政治家も財界のお偉方も志がない」「ボクは人から、アカデミックな、プリミティブ(素朴)な正義感をふり回されるのは困るとよくいわれる。しかしボクにはそれが貴いものだと思っている。これだけは死ぬまで捨てない」「功を求めずに縁の下の力持ちをもって甘んずる、をよしとする」「あいつらはバスが走り始めてから飛び乗るのがうまいだけだ」――。白洲次郎の言葉は鮮やかで鋭い切れ味をもつ。

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プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任、公明党前代表。前国土交通大臣、前水循環担当大臣。

現在、衆議院議員、党全国議員団会議議長、東京第12総支部長、首都直下地震対策本部総合本部長、現代中国研究会顧問など。

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