「世界は存在しない。だが、一角獣は存在する」――。ドイツの哲学者、マルクス・ガブリエルのあまりにも有名な言葉だ。その「新実在論」の若き天才・哲学者に、丸山俊一氏とNHK「欲望の時代の哲学」制作班が、日本を歩き、インタビューし、思考を加えたもの。哲学そのものの論文ではなく、現実の「民主主義」「資本主義」、そしてAI・IoT・ロボットの急進展する社会について、どう考えるかを問いかけたユニークな試みだ。
「哲学はルールなしのチェス。格闘技みたいなものだ」「哲学は時代との格闘だ」「哲学は合理的な精神分析」「現実は無限に複雑だ。単一の統一されたものなどない(無限に複雑性を肯定せよ)」「僕が提示するアンソロジーは、『ハイデガー+日本的思考』、あるいは、ハイデガーからヨーロッパ中心主義的要素をなくしたものに近い」・・・・・・。生老病死の世界を直視しながら、「諸法実相」「如実知見」「現当二世」の哲学が随伴して立ち上がる。そして、現代哲学が時代との格闘のなかで生じてきたことが浮き彫りにされる。すべての意味が破壊された第二次世界大戦の反省のなかから「実存主義(自分の人生以外に、自分の人生に意味を与えるものは何一つない。自分の人生において、自分が唯一の意義の源)が生まれる」。そしてレヴィ・ストロース等の構造主義が生まれる(自分の「主観性」つまり自分の自分に対する感じ方は、構造のネットワークにおける一つの結節点)。さらにジャック・デリダの「ポスト構造主義」が生まれ、「言語は、未来から現在を通して過去に流れる。言語は逆の時間方向を持っている。人生は思考する生き物として生から死へ流れるのではなく、死から生へ向かう。未来が現在に、そして現在が過去に構造を与える」。そして本書の「新実在論」の締めくくりで「人間はみな動物だ。現実と道徳的事実がどのようなものか知る能力を持つ人間であり、動物だ」「知恵をもつことに勇気をもて」という。末尾にロボット工学の権威・石黒浩氏との対談があり「人間はいかにして、人間たる証を得るのか」を語る。