「大規模調査から見えてきた『隠れた多数派』」が副題。リベラルが衰退してると言われる。最近の選挙でも既成の左派政党が伸び悩んでいるのは事実だ。もちろん時代が「デジタル・ポピュリズム」「アウトサイダー・ポリティクス」で多党化時代となっていることはある。では、リベラルと言われた人はどこに行ったのか。人々のあいだで、本当にリベラルな価値観は忘れ去られたのか。そうではない。本書は、従来のリベラルではない「新しいリベラル」という人々が存在している。「社会的投資国家」「人間の成長に希望を見出す」という「新しいリベラル」が日本には存在し、この人たちが実は最多数派を占めていると大規模な社会調査から示している。貴重な実証的研究だ。
「従来型の『旧リベラル』は、日米安保反対、憲法9条改正反対、天皇制反対、従軍慰安婦問題への謝罪を根幹としながらも、福祉国家政策の支持や伝統的社会からの解放を枝葉とするイデオロギー」で「私たちの調査では1%に満たなかった」と言う。自衛隊違憲、非武装中立などはかなり遠くなっており、それは姿を変えているものの軸としての「従来型リベラル」は衰退している。
そこで「新しいリベラル」――。「従来型のリベラルは『弱者支援』型の福祉政策を支持するのに対して、新しいリベラルはすべての人を成長させる『成長支援』型の社会福祉政策を支持する」「従来型のリベラルは高齢世代への支援を重視するのに対し、新しいリベラルは子育て世代や次世代への支援を重視する」「従来型のリベラルは、反戦平和や戦後民主主義的な価値観を抱いているのに対し、新しいリベラルは『戦後民主主義』的な論点には強くコミットしていない」ことを調査に基づいて論証する。決して弱者を切り捨てるのではなく、社会的投資を通じて人々の潜在能力を発揮できる環境整備を目指す。救済と言うより成長を促す未来に向けての人への投資である。
この社会調査は、6つのグループ、「新しいリベラル」「従来型リベラル」「福祉型保守」「市場型保守」「成長型中道」「政治的無関心」の6つに分けて分析をしている。そしてこの中で「新しいリベラル」が最多数派を占めると言うのだ。この「新しいリベラル」の特徴は、①子育て世代の割合が高い②女性も多く、大卒・院卒の割合も高く、正規雇用や公務員の割合も高い、安定的に生活を営んでいる人が多く、仕事を通じて成長したいと思っている人③身近な人間関係重視しており、家族や友人と過ごす時間を大切と考えている――ようだ。ちなみに、「従来型リベラル」はやや苦しい生活を送っている高齢女性の割合が高い。「福祉型保守」は、安定した生活を手に入れた高齢者の割合が高い。「政治的無関心」は独身の男性中年層が多いと言う。
「新しいリベラルの政治参加」は注目される。社会的投資型の社会福祉政策を望ましいものと考える意味で、成長論的な自由主義の支持者でもある。戦後民主主義的な価値観とは強くコミットせず、自身の政治的立ち位置についても明確なイメージがなく、子育て世代が担い手となっているが、幅は広い。注目すべきは「新しいリベラルは、自身の政治的価値観に合致する政党を真摯に探しているのだが、そのような政党を見つけられずにいる」「子育て支援や教育政策に力を入れる政党に投票したいと思っているが、現在の日本においてそのような政党は見当たらない」と指摘している。公明党はまさにそうだと思うが、その受け皿になっていないと言う調査となっている。「子育て世代の声」が政治の世界に届いていないということになる。
リベラルは、従来から人権など極端な政策を提起していくようだが、「新しいリベラル」は、LG BTQについても改革的ではあるが極端に神経質ではなく、また平和の問題では戦後民主主義的な反戦平和主義にはコミットしていない。軍事的なリアリズムの立場に理解を示すが、しかし「非核三原則」については堅持が強く出ている。この点の分析もされているが、現場を歩いて多くの人と接しているがわかる気がする。
思想的に論陣を張るのではなく「大規模調査」から「新しいリベラル」「将来への社会的投資重視」「人への投資」を可視化した貴重な研究に敬意を表したい。この未来を志向する「隠れた多数派である新しいリベラル」にはバラマキは通用しないことになる。