「2023年は、2つの大きな戦争が世界に多大なる影響を及ぼした。なぜこんな不毛な戦いを続けているのか」「世界情勢を俯瞰してみると『世界規模の右傾化(自国至上主義)』が見えてくる」「独裁化したマッドマンたちは、時にフェイク情報を発信して、自分たちを正当化したり、都合の悪い事実を隠蔽したりしようとしている。これからの時代に必要なのは、そのようなフェイク情報に惑わされないように、正しいものの見方や考え方を身につけることである」とし、混迷する世界情勢を分析、正しい見方を提示しようとする。
「混迷を極める世界情勢」――。「世界に広がる独裁化した『マッドマン(狂人)』」「終結の見込みが見えないロシアのウクライナ侵攻、幕引きを知らないゼレンンスキー大統領」「第三次世界大戦につながる破滅の道か、ネタニヤフ首相の失脚か」「存在感が高まる『グローバルサウス』の国々」・・・・・・。そして世界の潮流を受け、新たな国際秩序が求められるとし、世界の賢人を集めて「新・国連」のビジョンとアジェンダ作りを任せると提案する。
「リセッション入りする世界経済」――。世界経済の阻害要因は、「過剰債務、食料・エネルギー価格の高騰、中国経済の減速、根強いインフレ(米中対立、サプライチェーン分断、人件費の増加)、気候変動」の5つ。「日本だけが政策金利がゼロに貼り付いたままで円安加速」「過剰の不動産投資により30億人分の空き家を抱える中国」「米中対立を背景に東南アジアへの対外投資が増加」などを分析する。
「凋落する日本」――。「政治・政治家が、日本の本質的問題の解決に取り組んでこなかったことが、日本衰退の要因」「今後政治に何が求められるか――20~30年後を見据えて必要な人材育成。移民を含めた新たな人材・能力ミックスを進める」と提示する。デフレ脱却後にスタグフレーションのリスクが高まることを懸念している。また「貯まり続ける金融資産を消費に回すことが日本経済を活性化する」と言う。「AI時代に求められる『右脳構想力』(コンピュータが苦手なのは、右脳的なひらめきの分野)」と指摘、世界で活躍できる人材を育てないと凋落するばかりと嘆く。
「中国の最新動向」――。「直面する問題は、習近平と共産党一党独裁の統治、不動産バブルなど経済問題」「BATなど有望な企業に自由裁量を与えられないジレンマ」「中国の抱える不動産問題、若者の失業(寝そべり族の増加)、対中国直接投資の落ち込み、の3つの経済問題」「周辺諸国との軋轢」などの課題を指摘する。
「2024年の世界はどうなるか」――。「2024年は世界の選挙イヤー」「日本が今すぐ取り組むべき課題――自民党の解党的出直し、日露関係を再構築せよ、失われた30年を救う真の観光立国へ(2030年までにインバウンド6000万人、経済規模50兆円)」などの提案をする。
「凋落する日本、GDP世界第4位からの回復」には人材育成、何といってもアニマルスピリッツ、熱量が必要だ。
伯母の柳澤千舟に託されて「クスノキの番人」となった直井玲斗。柳澤家の敷地内に神社があり、そこに中が空洞となっているクスノキの巨木があって、その木の中で「念」を預け「念」を受念する。そこで悩みが解決していくという。この不思議な力を持つクスノキと番人である玲斗の元を訪れる人々の織りなす感動的な物語。「クスノキ」シリーズ第二弾。
神社に詩集を置かせて欲しいと頼んできた女子高生の早川佑紀奈。家計に苦しむ彼女は、実は重大な秘密を抱えていた。その頃、近所の高級住宅地で、実業家の森部俊彦が自宅で襲われる強盗致傷事件が起きる。
一方、認知症カフェで玲斗は、脳腫瘍によって、眠ると前日までの記憶が飛んでしまう記憶障害のある少年・針生元哉に出会う。元哉は絵が上手だった。玲斗を介して佑紀奈と元哉は出会い、意気投合。思いもかけないプランが立ち上がる。共同で絵本を作ろうとするのだ。
強盗致傷事件、詩を書く佑紀奈と記憶障害の元哉、認知症が進行していく伯母・千舟。玲斗をはさみ、それぞれが交錯する。特に死を意識して自分の未来を必死で見ようとする元哉の心の揺れと父母への思い。その心の内を探り当て、懸命に尽くそうとする離婚した父母の愛。あえて明るく振る舞う元哉だけに、心に響き辛い。
「食べてみて、さらに驚いた。あの大福だった。昔、三人で食べた大福の味だった。もう我慢できなかった。僕は泣いてしまった。お母さんも泣いていた。隣を見たら、佑紀奈さんも泣いていた。幸せだ、と僕は思った」「未来なんていらない。この先、何が起きるかなんてどうでもいい。知らなくていい。大事なのは今だ」・・・・・・。「未来を知るよりも大事なこと、それは、今がどうかということです。あなたは今、生きています」・・・・・・。大切なのは今、生きていられる喜びに感謝し、一日一日を精一杯生きていくことが幸せ、というメッセージが伝わってくる。事件の謎解きのミステリーではない、その要素を超える感動の小説。
徳川第9代将軍家重とそれを支え続けた大岡忠光を描いた感動作「まいまいつぶろ」の外伝、アナザーストーリーというべき5編。徳川吉宗・家重の将軍ニ代に仕えた御庭番・青名半四郎(万里)は、江戸城の深奥で、何を見、何を聞いたのか――そうした形で、それぞれの5編が描かれる。吉宗の子・家重は、ろれつが回らず、指が動かず、尿を漏らす。歩いた後には、尿を引きずった跡が残るため、「まいまいつぶろ」と呼ばれ、蔑まれ、陰口を言われ、廃嫡まで噂されていた。誰にも言葉が届かない家重であったが、ただ一人、その言葉がわかる大岡忠光が小姓となる。しかし吉宗の時代には、側用人制は廃止されており、あくまで完璧な通詞「御口代わり」に徹することが、忠光には課せられていた。それを疑う者、また家重の能力を疑う者が多いなか、家重・ 忠光の2人は一心同体で耐え抜くのだが、江戸城内で御庭番が見聞きしたものとは・・・・・・。
「将軍の母」――徳川吉宗の母・浄円院が和歌山から江戸に入る。家重の聡明さに気づいた浄円院は、「家重殿は決して、将軍にはつかせぬように」「どうか、そのような酷い目には遭わせんでやってくだされ。なあ、鳩巣殿。儂は、あの子が不憫でなりませぬのじゃ」と言うのだが。その真意とは・・・・・・。
「背信の士」――老中首座の松平乗邑は、家重にも、「あれはまるで側用人」と忠光にも抗い、家重の弟・ 宗武を9代にすべきだと言ってきた。家重が将軍宣下を受けた後に老中を罷免される。出仕停止、隠居となった乗邑が向かった先は・・・・・・。
「次の将軍」――家重の嫡男・家治を、吉宗は手放しの可愛がりよう。「そなたは元服したゆえ、父上の言葉がわからぬようになったのではないか」「そなたは父上の言葉を聞き取ることよりも、その仰せの意味に耳をすますことの方が大切じゃ」と、吉宗は言う。「忠光を遠ざける、くらいなら、私は将軍を・・・・・・」――。吉宗、家重、家治の心の奥が、愛と苦悩が交錯する。
「寵臣の妻」――忠光の妻・志乃。嫡男の兵庫は世の噂を聞き、悔しがる。「皆が言ったのは嘘ですよね。父上は勝手に家重様の代わりにしゃべったりしておられませんよね」「父上は言わせておけと仰せになりました」・・・・・・。折り紙1枚も受け取るな、と厳命されていた志乃の胸の内は・・・・・・。
「勝手隠密」――美濃国郡上藩の百姓からの訴状(郡上騒動)を読んだ田沼意次。「郡上の一件、再吟味については意次を老中格とする」――。万里は、郡上の再吟味の手助けをする。退隠を決意した忠光は家重を愚弄してきた老中・酒井忠寄を訪れ、万里の存在を明かしつつ釘を刺す。痛快。その万里が最後に会いに行った人物とは・・・・・・・。
吉宗、家重、忠光を貫く愛と苦悩と国を背負う強靭な意志。守り抜く人間模様。心の深淵の覚悟の境地を見る。
AIの進化は何をもたらし、社会をどう変革していくのか。その進化がつくり出す未来に向けて、どう備え、どう動けばいいのか。日本の情報工学をリードする暦本純一氏と落合陽一氏の師弟対談。
「IQテストはオワコンか」「IQテストで出される問題は、いかにもAIで正解できそうなものばかり。これからはAIが助けてくれるようになるので、知能が高いか低いかは問題ではなくなるのかもしれない」「一方で、人間には、IQテストでは測れないものがたくさんある。とてつもないことを考える能力、芸術的なセンス、食べ物をおいしいと感じられるかどうかなど」「チャットGP Tはパーソナルな家庭教師。わからない事は全てGPTに聞けば良い」「知らなくても恥ずかしくないことがどんどん増える社会となる」・・・・・・。そして音声で文章を書いているとして、「速いし、歩きながらも入力できる(チャットGPTに向かって喋りながら)」「人間の自然言語コミュニケーションはかなり融通が利く。文法的におかしくてもちゃんと通じる」「音声で文章を書くと、文体も変わる」「2030年代の後半位には、『長嶋語』『口笛言語』もAIが翻訳しているかもしれない」と言う。私も音声入力をしているので現時点のことはよくわかる。
「死者をAIで、蘇らせることの是非」「『戒名』は、人間の情報を圧縮した究極のベクトル」「微分仏とオブジェクト指向菩薩」「人工改変された自然を愛でる日本人の美意識(里山も寺も庭も自然を巧みに再構成したもの)」「デジタルネイチャーは『都合のいい自然』(リアルな自然は快くないもの)」・・・・・・。
「教えない教育の時代」――「IQの高い人の方が、効率よく仕事を処理できることに変わりはない」「数学の概念は、教育で身に付けるしかない」「テクノロジーの『原理』を知る喜び(原理を無視して、テクノロジーの使い方のみ習熟させるならAI家庭教師だけで事足りる)」「ボタンを押すと餌が出てくるとか、それだけ覚えていれば生活は成り立つ。AIは勝手にコンピュータを管理して修理もしてくれるので、ちゃんと社会は回っていく。変なものを作ったりする人間もちょっとはいるだろうが、大多数はネコになっている気がする」・・・・・・。そういう世界で、人間に必要とされる能力は何か――「『必要』という概念そのものが壊れ、何も必要とされないだろうと思う。考えるべきは『何が必要か』ではなく『何をしたいか』だ」「必要なことをAIやロボットがやってくれる社会になると、『自分が何がやりたいか』を見つけることだ。そういう教育環境を整えないと、本当にみんなネコになっちゃうかもしれない」と言い、「求められるのは、『ひとり遊びの才能』だ」と言っている。その意味で大学の先生が果たす役割も「知る喜びを教える『DJ』としての大学教員」と語っている。
AIは、単なる「道具」よりは身体的な存在であり、大事なのはうまく使うこと。使うかどうかしだいでAIは知能の格差を広げる。「西洋哲学が入り、人間中心主義になって『必要とされる人間』でなければ価値がないと考えるようになった。だから人間から『必要性』を奪うAIの存在に不安を感じるのだろう。しかし自分でピアノを弾けるのと、ロボットが弾くのを聞くのは違う。絵葉書きの写真を見るのと自分で撮った写真は違う。結局、AIという道具を主体的に使い自己主体感のある自分で作る喜び、充足感、『ひとり遊び』の喜びが大事」と言い、西洋文明の人間中心主義が、AIの出現によって「西洋的アイデンティティ・クライシス」が起きると予想する。そして「近代哲学の『悩むのが偉い』『自由に必要とか、悩みが不可分のもの』を切り離せるチャンスが来るかも。無駄に悩むのが知性だという勘違いの時代は終わる」「自己実現をしたいと悩むこと、自分探しなどしないで、やりたいことを探せばいい。AIと友達になれば孤独感はない」と言う。
「可能性の広がる良き時代」が来る、大乗的生き方で進もうというエールを感じる。
人類史上最大の帝国・元の侵略を退けた立役者である伊予の河野六郎通有の苦闘と人間愛への信念をダイナミックに描く。元の襲来を迎え撃つ御家人たちの姿が生々しく活写される力作。
源頼朝から「源、北条に次ぐのは河野よ」と称えられたほどの伊予の名門・河野家は、承久の乱で京方に加担し惨敗、所領のほとんどを幕府に没収された上、一族の内紛により没落、今や辺境の貧乏御家人となっていた。河野通有は伯父・通時との確執・緊張関係、一族の疑心暗鬼を抱えながらも、河野家再興へ努めていた。またその頃、西域(るうし)出身で金髪、碧眼の奴隷の娘・令那、同じ奴隷で高麗の農民出身の繁を周りの反対もかかわらず抱え込んだ。
そうした不安定な状況の中、元が巨大な船団を抱えて侵攻(1281年、弘安の役)、幕府から守りに着くよう命が下る。今は一族で骨肉の争いに明け暮れている場合ではない。通有は河野家をまとめ上げ、元を迎え撃つべくやっと作り上げた巨大な三百石船・道達丸をもって博多湾に向かうのだ。そこにはその数約ニ万人、 西国の御家人がこぞって集い、半里にも及ぶ石築地(防塁)が築き上げられていた。
「神風」によって勝利を得たと言われるが、それは最終であって、そこに至る間の戦いはまさに壮絶。世界どの地でも、元に抗したものは焦土と化した。陸に上げてしまえば絶望的。「河野は正気か・・・・・・」――河野だけは石築地の前に出て浜に陣取った。河野の後築地と呼ばれるものだ。そこに元が「水平線を縁取るような黒い線が見えた。徐々に線は面へと変貌を遂げていく。青々とした大海が破られたかのような錯覚を起こした・・・・・・白波が喰われているようだ」「ついに来たか」・・・・・・。繁が叫ぶ。続いて占拠された志賀島への攻撃。ここでも河野は中道を突破するだけでなく、海からも同時に攻める作戦を立て、先陣を務める。捨て身の戦いの今際の際に、伯父の通時は河野家の内紛の真実を語る。通有にとって、初めて聞く真実に驚愕し涙する。そして志賀島で元を撃破、日ノ本軍は大勝、河野家は喝采で迎えられ激賞される。
「なぜ、人と人は争わねばならないのか」「なぜ元は次々に他国に侵攻、拡張しようとするのか」「なぜ人はわかりあえないのか。親兄弟身内でも」――こうした問いかけが「内紛、戦争」のたびに問いかけられ、河野一族に連なる踊念仏の創始者・ 一遍(別府通秀)がたびたび登場し、通有と語り合い無常感の深みを増す。そして元との最終決戦。そこで吹く野分。さらに通有は"人命"を救う驚くべき行動をとっていくのだ。なんと恩賞どころか正反対の憂き目にさらされ・・・・・・。
蒙古襲来――日本を覆う絶望的危機感の中でこそ顕われる魂の噴出を、爽快に思う。