国土学再考.jpg「公」と新・日本人論という副題がついている。「国土学事始め」に続く第2弾。
「城壁を必要とした国」と日本のように「城壁を全く必要としなかった国」とが、繰り返し、分析され、解説される。
どうしてこんなに経済も社会も世界に比して競争力を失い劣化しているのに、日本はあいまいな、不正確な、情緒的な論議しかできないのか。


国土への働きかけによって人類は今日の生存と生活を確保してきたのに、日本は公共事業悪玉論、道路やダムはムダといったひずんだ言論がまかり通るのか。どうして空港も港湾もハブが逃げているのに危機感をもたずにいられるのか。脆弱な国土である日本を治山、治水、耐震事業のなかで、まさに国土に働きかけることによって守ってきたのに、その営為がなぜ平然と無視されてしまうのか。
「文明の生態史観」「文明の環境史観」「泥の文明、砂の文明、石の文明」「縮み志向の日本人」「人生地理学」――今日まで私は多くの書と人に接し、日本と日本人と日本国土と文明と文化を考えてきたが、大石さんは、これらに真正面から正確に問いかけをしている。そして日本人の情緒主義・臨機主義・円満主義の思考癖を十分認識しつつ、新しさを尊び、喜ぶ文化、人間中心ではないエコロジカルな人間主義、他との共生など日本人のアイデンティティを世界に発信しようと訴える。同感である。


論争 若者論.jpg
「31歳フリーター。希望は、戦争」(赤木智弘)に始まるこの2年の若者論考。ホームレスになってしまった30代の若者には、バブル崩壊後、チャンスそのものがなく、「働こうとしない」ではなく、企業の側が働かせようとしない、これが苦境の因という。

 


また「仲間がいない」「コミュニケーション能力がない」「覇気がない、生命力がない若者が増えている」「不安定、辛い、単純作業で低収入から抜け出せないホームレス予備軍(製造業で派遣・請負で働く)が100万人」「若者が路上生活者になる危機」「ルールに縛られない、多様性を求める平成的価値観は、昭和的価値観とは違う」「加藤容疑者を雇用問題や格差社会の被害者にする最大公約数的な物語づくり作業に手を貸すな」「制度的にできることと、どうしようもないこととある。モテル、モテナイの面倒まで見る国家などあるのか」――など。
論文・対談13本。19人が語っている。


090213-book.JPGすさまじい本だ。いや戦争の現実がすさまじい。悲惨、残酷、地獄ということだ。若き通信兵だった合津さんが、ソ連軍侵攻による敗戦と、それに続くシベリア抑留体験を綴った迫真のドキュメント。60年たってこれだけ生々しく語れるのは一体どういうことなのか。細胞にまで刻まれてしまったということではないのか。コッポラの「地獄の黙示録」だ。武田泰淳「ひかりごけ」だ。


若き兵士が8月15日をどう迎えたか。生きたか。生と死の記録というにはあまりに言葉及ばぬ悲惨、残酷な現実。凍土のシベリアの夜中、死んだ友を離れてシラミが暖かい合津さんに移動する。希望のないという日々がどれだけ想像を絶する絶望に人をたたき落とすか。
読み終わって、表紙の白樺の絵を5分間ほど、ながめていた。


利休にたずねよ.jpg命の艶やかさを秘めた利休の茶の湯......。侘び茶といえど、侘び、寂び、枯(からび)だけでなく、凛とした品格が備わり、優美な艶が加わる。それが利休の美のようだ。侘びた枯のなかにある燃え立つ命の美しさを愛した利休は、「利を休め」とよく名付けてくれたと得心したとある。
女と黄金にしか興味のない下司で高慢な天下人・秀吉の貪りと賤しさを利休は軽蔑し、それ故に秀吉は、妥協しない美の権威者・利休に腹を切らせた。

しかしそれは、権力者と、宗教・哲学的人間との根源的対立まで行き着くといえるのではなかろうか。
妥協を厳然と拒絶した利休は腹を切る。腹を切って利休は生きる。この時代、茶の湯は戦乱激しきなか心をなだめ、人間の根源に静謐をもって迫り、そして人と人とを結ぶ場としてあった。今、思えばそれは茶の湯が流行・バブルの時代でもあり、動乱の世であればこそ、その対極に人は走ったともいえようか。

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プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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