本と鍵の季節.jpgふと遭遇した出来事に、「なぜ」と問いかけることが、問題の深淵を覗くことになる。高校2年生の図書委員仲間の松倉詩門と僕(堀川次郎)。二人には、いつも奇妙な謎めいた相談事が持ち込まれる。快活だが裏を疑い策略的思考をもつ松倉、性善説的な真に受けたまま思考を掘り下げていく堀川は、互いを刺激し合いつつも信頼のなかで問題を解決していく。全6編。

「913」――。「金庫をあけるのを手伝ってほしい」と浦上麻里先輩に依頼を受け意外な結末に。「ロックオンロッカー」――。二人である美容院に行くことになったが、ふとした店長の一言が引っかかる。「貴重品は、"必ず"、お手元にお持ち下さいね」・・・・・・。そこから事件がひも解かれてゆく。「金曜に彼は何をしたのか」――。金曜日の夜、学校の職員室の前の窓が割られた。犯人に仕立て上げられた男のアリバイはあるのか、何をしていたのか。

「ない本」――。3年生の香田が自殺した。彼から遺書を預かっていたのに止められなかった男の苦悩から発せられた行動は・・・・・・。「昔話を聞かせておくれよ」――。6年前に死んだという親父の残した宝物を探す。さわやかさを感ずる結果と思わせるが、次の「友よ知るなかれ」で、松倉の家庭の秘密が明らかにされる。

二人の距離感をもった心の交い合いは、大人のもの。


サピエンス全史(上)(下)  ユヴァル・ノア・ハラリ著.jpgまさに壮大なサピエンス全史、人類が進化し文明が発展してきたという進歩史観等の楽観的な前提自体を覆すサピエンス全史となっている。7万年前、アフリカの片隅で生きていくのに精一杯の"取るに足りない動物"であったホモ・サピエンスが、全地球の主として"万物の霊長"を自称し、食物連鎖の頂点に立って環境を征服。いかに都市を築き、帝国を打ち立て、広大な交易ネットワークを築き上げてきたか。しかしヘブライ大学歴史学教授のユヴァル・ノア・ハラリ氏は歴史を俯瞰しつつ、最後に2つの痛烈な疑問を突きつける。「私たちは以前より幸福になっているのか」「正真正銘のサイボーグ、バイオニック生命体に変身する超ホモ・サピエンス時代に突入する瀬戸際にある」である。「人間の力は大幅に増したが、個々のサピエンスの幸福は必ずしも増進しなかったし、他の動物たちには甚大な災禍を及ぼした」「私たちは何を望みたいか、望んでいるかもわからない。不満で無責任な神々ほど危険なものがあるだろうか?」と結ぶ。

「20万年前東アフリカでホモ・サピエンスが進化する」「7万年前、認知革命が起こる。虚構の"言語"が出現し、歴史的現象が始まる」「虚構、架空の事物について語り、創作する能力、言語が拡大する」「7万年前の認知革命から、1万2千年前の農業革命の期間、狩猟採集民は豊かな暮らしだった。大型動物が死滅していく」「農業革命で大変化。定住、家畜化、栽培化、人口増、贅沢の罠、家畜化された動物の悲劇、空間の減少と季節等の時間軸、神話と法制度が導入される」「書記体系(記号を使っての情報保存)、文字・数の体系の衝撃、秩序としてヒエラルキーと差別が生ずる(人類の想像上の産物)(カーストも白人・黒人も男女も)」・・・・・・。そして「最強の征服者・貨幣を生む(BC3000年紀半ばにメソポタミアで銀のシェケル誕生)」「グローバル化を進める帝国のビジョン」――。ここまでが上巻だ。

下巻は「宗教という超人間的秩序」「無知の発見と近代科学の成立」「科学と帝国の融合(なぜヨーロッパは世界の覇権を握れたか)(19世紀のヨーロッパの支配は産業・科学・軍事複合体)(征服の精神構造)」「拡大するパイという資本主義のマジック(東インド会社のやったこと)(自由主義資本主義の強欲)」「国家と市場経済がもたらした世界平和」・・・・・・。サピエンスは「何をやってきたのか」「何を望むのか」――。副題は「文明の構造と人類の幸福」。


童の神.jpg935年平将門の乱から1017年藤原道長が太政大臣になる平安時代後期。京、山城、大和、摂津、丹波の地域――。朝廷を背景にして源頼光、その配下の渡辺綱、卜部季武、碓井貞光、さらには坂田金時らは、京人(みやこびと)として、周辺を「童」と蔑称(童は辛、目、重と分けられ、目の上に墨を入れられ重荷を担ぐ奴婢)し、制圧しようとした。摂津竜王山に移った滝夜叉、北に盤踞する丹波大江山の粛慎(鬼)、南に勢力を拡大する大和葛城山の畝火(土蜘蛛)らは三山同盟して立ち向かう。その中心に押し上げられたのが越後藩原郡の豪族の出の桜暁丸(おうぎまる)。花天狗とも酒呑童子とも呼ばれた桜暁丸は、皆が手をたずさえて生きられる人の世をひたすら求めて戦う。「京人は我らを鬼と呼ぶ。土蜘蛛と呼ぶ。そして童(わらわ)と呼び蔑む。理由などない。己が蔑まれたくないから誰かを貶める」「胸を張ってくれ。我らは何も汚れてなどいない。父母を想い、妻を想い、子を想い、仲間を想う。我らは誰よりも澄んだ心を持って生きたはずだ」「生きるのだ、何があろうと生き抜け。そして愛しき人と子を生し、我らの心を紡いでいこう」――。

桜暁丸らの死闘は壮絶なものがあるが、朝廷側にも童(わらべ)と呼んだ渡辺綱、同じ抑圧された側から加わった相模足柄山出身の民・坂田金時らがおり、桜暁丸らとの心の交流が描かれる。大江山の酒呑童子の側から時代を剔抉する力作。


ノースライト.jpg離婚して一人暮らしの一級建築士の青瀬稔。吉野陶太夫妻から「信濃追分に80坪の土地がある。あなた自身が住みたい家を建てて下さい」というたっての希望を受け、浅間山を望み北からの光を思う存分取り込んだ(ノースライト)斬新な木の家を建てる。建築士としても静かな評価が広がっていく。しかし、そのY邸を訪れると、家族が住んだ気配もなく、ただ一脚の古い椅子だけが残されていた。その椅子はなんと「ブルーノ・タウトの椅子」であり、そして肝心の家族はどこに消えてしまったのかわからない。ミステリーとはいっても、建築の美しさ、人の心の美しさが浸み込んでくる長編だ。

ナチス・ドイツから逃れた建築家ブルーノ・タウトは白川郷の合掌造りや桂離宮の建築美を褒め称えた。「日本の美」は、自然と人間との調和、物と心のバランスの中にある。タウトは言う。「桂離宮を見て、泣きたくなるほど美しい」――。建築家の求める「唯一絶対の美」「絶対美と呼べるものの在り処を知っていて、美しいものを創造しようと、自分の心を埋める作業。終わりなき作業」と、人間の求める「恩」「心の通い合いの世界」が交差していく。


世界史の大逆転.jpg国際情勢が変化激しく混沌としているなか、二人の対談はきわめて刺激的、鋭角的で面白い。「ここ数年の世界で起こりつつあるのは、何十年に一度の巨大な地殻変動ではないか。かつて我々が"常識"であると思ってきた流れが、予測を裏切るようなかたちで、ことごとく逆転しはじめたのだ。こうした構造的変化の本質を知るにはどうすべきか(宮家)」「こういうときに役に立つのが、地政学と思想史だ(佐藤)」という。変化は「移民と格差拡大」「トランプ大統領誕生」「米朝首脳会談」「米中対立」「核抑止から核拡散の時代」「トランプのエルサレム首都認定」「ヨーロッパの"脱石油"」「AIの急進展」「到来した"新・帝国主義の時代"」等が、因であり果である。

地政学で見ることはきわめて重要。ヨーロッパも中東も、そのなかでのサウジアラビアやイラン、勿論東アジアもだ。「混迷する中東」「ヨーロッパの脱石油、EVへの転換――エネルギーの脱中東依存、脱ロシア、そして"アメリカ離れ?"」。そして「北朝鮮をめぐっての韓国、中国、ロシアの思惑」・・・・・・。さらに「プレスビテリアン(長老派)としてのトランプ」「劇的に変化したアメリカの対中政策(貿易戦争ではない)」「"神"がいない国(中国)の体制の強さとナショナリズム」「エネルギーのベストミックスをエコノミスト、学者、軍事専門家らの知見でめざせ」・・・・・・。

バランスが崩れて混迷する世界。日本の戦略、外交でも核でも、エネルギーでもAIでも、したたかな戦略のあり方を示唆している。「国際情勢のルールが変わった」が副題。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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