未来をはじめる  宇野重規著.jpg「『人と一緒にいること』の政治学」が副題。政治学というより「政治とは何か」について女子中・高校生に対して行われた全五回の講義。大変面白く有意義。納得する。

H・アーレントの言葉で締めくくられている。「世界に住んでいるのは一人の人間ではなく複数の人間である」――。複数の人間がいれば、意見は違う。人と人には違いがあるからこそ、世界があり、喜びも対立もあり、そこに政治が生まれる。「世界に存在する多様な人間のあり方を否定するのが暴力であり、複数の人が一緒に生きていこうとするのが政治であり、それが脅かされることで大量虐殺を繰り返したのが20世紀だった」と宇野さんはいう。そしてH・アーレントの「人間が生まれてきたのは始めるためである」を引く。「誰かと何かを始めなければ、世の中は変わらない」「人間が自由になるためには、他の人と共に活動し世界をつくっていく。人間は何かを始めるために、生まれてきた」という。

当然、人は制約のなかで生きる。時代の制約、世界も日本も激しい状況変化のなかにある。AI・ロボットの急進展、人口減少・少子高齢社会、そのなかでの生き方も働き方も、人と人との関係性も変化していく。そのなかでの「自由」とは「平等」とは・・・・・・。

本書の素晴らしさは、そのなかに出現した思想家をじつに解り易く紹介していることだ。「トクヴィルのアメリカのデモクラシー――自国・フランスと違う貴族も平民もない平等」「マルクスの問題提起――経済発展にともなう不平等をなんとかしたい」「ロールズの正義論――平等な自由の原理、機会均等の原理、格差原理(最も恵まれない人の利益を最大化しよう)(運と選択の問題)」「自己破滅系の迷惑・自爆タイプのルソーの一般意志――自由に議論して共通の意志を共有したい、逆に全体主義思想にも連なる」「理性の人・カント――自分の頭で考え自分の責任で決める、理性で決める」「矛盾する社会のなかで止揚するヘーゲル――ルソーとカントもわかるが少しずつ自由を学び成長する。他人とどうつながるか」・・・・・・。

加えて、「選挙について、選挙制度について考える」「民主主義を使いこなすには」が講義されている。「一緒に社会を変えていこう」「未来をはじめよう」――励ましの政治学だ。


災害と生きる日本人.jpg「『震災後』ではなく『災間』を生きる日本人」から対談が始まり、日本の歴史と日本人の持つ人生観、自然観、共生する知恵を縦横に語る。7、8世紀に編まれた万葉集は知識人特有の高級な知識ではない。「民衆が発してきた声なき声であり、叫びであり・・・・・・万葉集の言の葉は深層心理、無意識下に着実に溜まっていく」「日本人が原初的な時代にもっていた心そのものを、自身の心の鏡を写すように、いつでも見ることができる」「私たちは『雑』の中に、まるで雑踏の中に身を隠すような安心感と安堵感を得ながら入りこんでいける。これが万葉集」「『人類の救済の泉』として輝き続ける万葉集」と結ぶ。

対談は縦横無尽、豊富な具体的話題・事例、知性の深い探索で面白い。「災害と鬼とヤマタノオロチ」「政治家と行政官は哲学と知性をもて」「天上世界に土足で踏み入った原子力発電の過ち」「吉田兼好の生と死を対角線上に示した三角形の生命観」「権力者をせせら笑い、突き放す『東海道中膝栗毛』(日本人の家族的"王道")」「万葉集の基底部に流れる先へ進み、つながっていく幸福観」「ウソと偽りは全く違う(ウソとアソ(遊)は同じ)、物事はウソと偽りと本当の三段階」「仏教の四恩思想、上杉鷹山の"衆生の恩"(君子は民に奉仕する義務を負う)」「万葉の時代の防人の自我の閉じ込めと皇御軍」「仙台藩に1000両貸し付けた男」「縄文時代のドングリ経済(担保と金融)」「減価償却を発明した二宮尊徳」「戦死者を"数"で認識する為政者(1人の人間を無視する勘違い)」「哲学を生んだインドの風土、不毛の大地・中国が生んだ儒教、秩序とロゴスへの信頼」「徳の名が付く天皇、武の名が付く天皇」「詩心と哲学こそが国を強くする」「政治を動かす人間には、理・知・情・欲が大事。理知と、とくに情欲の塩梅。そこに詩や歴史、哲学がある」「日本にあった歌人政治」・・・・・・。

まさに現代に活かす先人の知恵、日本人の精神。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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