majoto.jpg驚くべき特殊能力を持つ羽原円華が謎を解く「ラプラスの魔女シリーズ」第3弾。親子2人で暮らす中学生の陸真の父・月沢克司が、川で遺体となって発見される。克司は元警察官で、全国に指名手配されている犯人の顔写真を覚えて、街で見つけ出すスペシャリスト、「見当たり捜査員」だった。陸真は羽原円華と出会い、「あたしなりに推理する。その気があるなら、ついてきて」と言われ、一緒に動き始める。円華は美しい魅力的な女性だが、驚くべき特殊能力を持ち、危険をものともせず謎の解決に切り込んでいく。そして、17年前のT町一家3人強盗殺人事件に関係していることに至る。この事件は迷宮入りとなっていたが、10年以上経ってから匿名の情報提供があり、追い詰められた犯人が海に身を投げ終決していた。しかし、父親の克司は違和感を持って事件を追い続けていたようであった。円華は.「あのニ人――陸真と照菜ちゃんに、お父さんの本当の姿を見せてやりたい」と思う。照菜ちゃんは、円華が面倒を見ているエクスチェンジドで、声は出せないが極めて優れた記憶能力を持っていた。

AIによる監視システムが強化されていく日本。「ゲノム・ モンタージュがあれば、今の世の中それがどこの誰かを付き止めるのは実に容易い」「社会システムに革命を起こす。その革命とは、全国民のDNA型データベースの構築だ」・・・・・・。しかし熟練の「見当たり捜査員」は、ゲノム・モンタージュを超えることが描かれている。

最後まで緊迫した攻防が続く。とともに、疑問が全てスッキリ解き明かされるのが心地良い。

 


pettosyop.jpgIWGPシリーズも18巻目になる。次々と起きる、変化する社会の問題に、マコトとタカシが立ち向かう。自由自在の知恵が問題を解決する。常に新鮮で面白く痛快だ。まさに私の地元、豊島区池袋、北区滝野川、板橋区が舞台だ。

今回は4つの短編。「常盤台ヤングケアラー」――。母は大山のスナックで働き、認知症のうえ脳梗塞となった祖母を中三の春ごろから介護するヤングケアラーのサチ。介護で休学中の女を狙い、夜の池袋でつきまとう風俗アプリ専業の男たち。「アプリ狩り」に動くタカシたち。

「神様のポケット」――。留学生も含む外国人労働者の多い池袋。バングラデシュの好青年クマールが、「賽銭泥棒」として逮捕される。真犯人をとらえるべく奔走する。

「魂マッチング」――。ゼロワンがマッチングサイトで付き合おうとした女性は、美人局を手広くやっている兄弟の手駒にされていた。

「ペットショップ無惨」――。悪辣なペットショップ、その背後にある「ゆりかごから墓場まで」を謳うペット総合ビジネスと戦う動物愛護団体。その依頼を受けたマコト。県立の動物愛護センターで殺処分の実態を見て言葉を失う。帝王切開後に放置された犬、不安症で壊れた犬、子どもを産む機械に変えられた犬。「この可愛くて残酷な世界。ビジネスという名のもとに、命を売買しているおれたち人間。おれはこれまでと同じ目で、ペットショップを見られないだろう」「人間ならダメで、動物ならいいなんていい草は、もう今の時代には通らない」と描く。


syousetukano.jpg「短篇の名手が『書くこと』をテーマに紡いだ豊饒の十作」と帯にあるとおり、すきのない考え抜かれた文章で、引き込まれる。面白い。

最後の「小説家の一日」では、長野県の八ヶ岳を終の住処にする作者が、毎日の生活の中ではっと浮かんだ言葉をメモとしてストックしていることが描かれている。そして「そのあと、小説の書き出しが浮かんできた。恭子さんが髪を留めていた大きめのバレッタ、あれの描写から始めようと海里は決めた。書き出しの文章が確定したときには、プロットの輪郭もほとんどできていた。こういうときがいちばん楽しい。書き出すとまた苦しむこともあるのだが、今はとにかく浮き立っている」とある。書き話すことの多い私だが、納得。動いている中にひらめきがあり、一瞬のうちに話が出来上がる。その通り、本書で際立つのは、「書き出しの見事さ」だ。一気にその世界に引き込む鮮やかなインパクトだ。「三月三日 やばい。もう会いたい。別れてから五分経ってないね。さくらが乗った新幹線・・・・・・(緑の象のような山々)」「それは五センチ四方くらいの、薄ピンク色の紙だった。『付箋』と呼ばれるものの一種であることを後日・・・・・・(園田さんのメモ)」「選考会は長引いた。私以外の三人の選考委員が推す小説を、私がどうしても評価できなかったからだ。でも最終的には折れて、その小説が新人賞に選ばれた(つまらない湖)」といった具合だ。

不倫の話がいくつも出てくる。身勝手で、妊娠となるや、たじろぐ男。腹を決める女。学校でひどいいじめにあっている女性の心象風景を描いた「窓」。「料理指南」では、年上の女性を愛する女性の心に浮かぶ母も使った「はい、おしまい!」の言葉。「凶暴な気分」は、きっと誰にもある修羅の命が絶妙に描かれている。

日常には終わりはない。苦楽が押し寄せ、その都度、決断を下さなければならない。神経の行き届いた無駄をそぎ落とした文章で、女性の日常の心象風景をキリッと描き出している。


dousuruzaigen.jpg少子化対策、子育て支援、全世代型社会保障、防衛費増、防災・減災強化、DX ・ GX社会・・・・・・。いずれも財源がいる。あらゆる経済政策には財源の裏付けが必要となる。増税についての議論が喧しいが、そのなかでの「どうする財源」(財源について考えると、貨幣と資本主義の本質が見えてくる)の著作。「貨幣論で読み解く税と財政の仕組み」が副題となっている。

「『財源』とは、『貨幣』のことである。そして貨幣とは、負債の特殊な形式のことである」「資本主義においては、民間銀行が、企業の需要に対する貸し出しを通じて、貨幣(預金通貨)を『無から』創造する。貨幣は、民間銀行の貸出しによって創造され、返済によって破壊される」「資本主義における政府の場合、中央銀行が、政府の需要に対する貸出しを介して、貨幣を『無から』創造する。政府が財政支出を行うと、民間経済に貨幣が供給される。政府が徴税によって貨幣を回収し、債務を返済すると、貨幣は破壊される。税は、財源(貨幣)を確保するための手段ではなく、その破壊の手段である。政府が債務を負うことで、財源(貨幣)が生み出されるのである」と言う。増税をする必要はなく、それをすれば逆効果を生むという貨幣論だ。「将来世代にツケを残してはならない」とよく言われるが、インフレが起きる可能性があり、この「高インフレ」こそが今の世代の負担になる。「財源を税によって確保(あるいは倹約)しなければならないと言う考えは、資本主義以前の、貨幣を創造する能力を持たない封建領主の考え方なのだ」と言う。

コロナ禍の緊急事態に際して「思い切った財政出動。高橋是清のように」と私は言った。井上準之助の緊縮財政の時、満州事変が起き、国内では不満が充満し昭和恐慌となる。高橋財政が軍備増強、戦争への道を加速させたといわれるが、高橋は財政赤字の拡大をもたらしたが増税を認めなかった。軍部からの軍事費の要求を拒否し、それが暗殺の引き金ともなった。また、戦後のインフレは戦争による供給力の破壊、まさにコストプッシュ・インフレだ。下村治は、「実際の生活水準を落とすのではなく、生産力を高めて生活水準に適合させていくというのが現実的な方策である」と考えた。石橋湛山も同じ考えだった。「積極財政によって供給力を増強し、実体経済の需給不均衡を解消するのが、正しいコストプッシュ・インフレ対策だ」と考えたのだ。

日本は、極めて長い緩やかなデフレに苦しんできている。「財政支出の伸び率は、名目GDPのみならず実質GDPの成長率と強い相関関係を示している」「主要31カ国の財政支出株の伸び率とGDP成長率の相関関係(1997~2017)を見ると、日本がほとんど財政支出を増やさなかった緊縮財政国家だったということがわかる」と言う。貨幣論の根源から体当たりで切り込んでいる。


edoissinn.jpg明暦3(1657) 1月の明暦の大火、振袖火災――。徳川家光が1651年に没し、牢人が溢れて政情不安のなか、由井正雪の乱(慶安の変)が起きる。そして明暦3年、118日から20日にかけて、2度にわたる火災によって江戸市内の大半は灰燼と帰す。第4代将軍家綱の下、老中は武蔵国川越城主・松平伊豆守信綱、阿部忠秋56歳、34歳とまだ若い酒井忠清の3人。62歳の信綱は知恵伊豆と言われ、頭脳の鋭敏さ、些事を捉えて大事を伺う想像力、説得力は抜きん出ていた。

復興に乗り出すが、米や材木が高騰する。牢人も騒ぐ。大老・保科正之によって天守は再建せず、本丸御殿のみ再建することが決まる。信綱は、何かと横ヤリを入れる吹上にある紀伊、尾張、水戸の御三家の屋敷を郊外へ移転させること、吉原を移転させること、他の大名や旗本、御家人も郊外に移転させることなどを次々に決め、江戸そのものの一新、大規模区画整理事業に乗り出す。それはまた、牢人たちに仕事、食い扶持を与え、喧嘩や強盗、詐欺や恐喝の頻発する江戸の治安を回復することでもあった。隅田川に橋をかけることによって、東岸地域の向島、本所、深川などは一気に江戸となり、西の地域も大きく広がった。それら具体的展開には、花川戸の長兵衛を「斥候」として使ったりもした。

表の顔は決して「豪胆」ではなかったという。「姉の声がまた頭蓋の内部に満ちた。『臆病者はそれゆえに、たくさんものを考える。あらかじめ精一杯思索する。長四郎、そなたは日本一の臆病者になりなされ』」・・・・・・。家光の小姓から立身出世した老中・松平伊豆守信綱の切れ者ぶりを描く。

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プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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