活版印刷三日月堂.jpg川越にある昔ながらの活版印刷「三日月堂」に弓子が数年ぶりに戻る。川越運送店一番街営業所長の市倉ハルは息子・森太郎を北海道大学に送り出す。一番街のはずれで「桐一葉」(高浜虚子の「桐一葉日当りながら落ちにけり」)という珈琲店を経営する岡野。川越にある私立高校の国語教師・遠田と文芸部の村崎小枝、山口侑加。遠田と桐林泉。そして婚約する友明と雪乃。こうした登場人物はいずれも心の底に悩みをかかえながらもいい関係を結ぶ。

味わいのある活版印刷が1人1人を結び、互いの誤解を解き、生老病死の悲しみと温かい人間関係のなかで、「自分自身に生きる」喜びを見つけていくことになる。じっくりと生きる意味を問いかけていく。感動作。


貧困世代.jpgブラック企業、ブラックバイト、子どもの貧困、貧困女子・・・・・・。「現代の若者たちは一過性の困難に直面しているばかりではなく、その後も続く生活の様々な困難さや貧困を抱え続けてしまっている世代である。彼らは自力ではもはや避けようがない。日本社会から強いられた貧困に直面している」「貧困世代とは、概ね10代から30代を想定し、貧困であることを一生涯宿命づけられた人々である」という。

大人はこうした現在の若者の"しんどい"状況を正視し、総合的かつ具体的に支援をさしのべよ、という。5つの若者論の誤り――「働けば収入が得られるという神話(労働万能説)」「家族が助けてくれているという神話(家族扶養説)」「元気で健康であるという神話(青年健康説)」「昔はもっと大変だったという時代錯誤的神話(時代比較説)」「若いうちは努力をするべきで、それは一時的な苦労だという神話(努力至上主義説)」と上げている。デフレと雇用環境が大きいと思うが、「ブラックバイト」「奨学金問題」「住宅問題」等々にもふれている。


真実の10メートル手前.jpg米澤ミステリーの傑作「王とサーカス」は、フリーのジャーナリストの太刀洗万智が、記者に内在する「知る」「伝える」ということの宿命的苦悩を抱えつつ真正直に突き進む姿勢に心の共鳴盤が震えた。

本書はいずれも、その太刀洗万智が、苦悩を抱きつつ事件の真相に迫っていく6編。それぞれ全く異なった事件、異なる切り口、よくぞここまでと感心する。「真実の10メートル手前」「正義漢」「恋累心中」「名を刻む死」「ナイフを失われた思い出の中に」「綱渡りの成功例」――。太刀洗万智は浅薄なジャーナリズムに流されることを厳に戒めつつ、全く違った角度で事件に、被害者に、加害者のひきずる苦悩に、迫っていく。

太刀洗万智も作品も魅力的。


希望荘  宮部みゆき著  小学館.jpg「誰か」「名もなき毒」「ペテロの葬列」に続く、私立探偵・杉村三郎シリーズの第4弾。「聖域」「希望荘」「砂男」「二重身」の四編が収められている。

「砂男」は、妻の不倫で離婚し、義父の今多コンツェルンの仕事を失って故郷に帰った杉村三郎がある事件に遭遇。これが探偵事務所(なんと私の住んでいる東京北区所在)を開設するキッカケとなる。仲むつまじい巻田夫妻の夫・広樹が姿を消す――不可思議な事件。「希望荘」は、温厚な父が「昔、人を殺した」と信じられない告白をして亡くなったが、その真偽を調査してほしいという息子の依頼から始まる。四編とも面白い。後半に入って緊迫の急展開だが、人の善意、優しさ、温かさが伝わってくる。

どこにでもある庶民生活の日常のなかにも、人の心には狂気、猛獣がいる。どうしようもない、逃れられない宿命を背負わされて生きる。人間の抱え込む業、そして突如として噴出する不可解な行動。庶民の心に寄り添いつつ、粘り強く理詰めで事件を心の闇をはらすという解決に導いていく。


神奈備.jpg神の山・御嶽山。二つ玉低気圧が近づき猛吹雪となる御嶽山に、冬装備もなく登る17歳の少年・芹沢潤。それを助けようと追う強力の松本孝。登場人物はこの二人だけ。しかもわずか1日の出来事を、すさまじい迫力で描く。

めざすは御獄の頂上。ただ神に会うため。「神様、どうしてぼくは生まれてきたんですか? だれにも、母にさえ愛されずに生きなければならないのはなぜですか?」と思いつめた絶望の青年・潤。意識が朦朧となるなか、煩悶、回想、夢想が続く。

ただ一つの楽しみである自転車を愛する潤は、トゥール・ド・フランスのジャジャの最後の花道、「勝とうとする意思」を思ったり、やさしい祖父母を思い出したり、鬼のような母の呪縛に身震いしたりする。

神を信ずる潤、信じない孝だが、ともに大自然の懐に抱かれ帰る。極限状態のなかで人間と自然、生とは、神とは、業とは、死から生への三変土田の瞬間は何によってもたらされるのか――。死と隣りあわせの緊迫のなかで問いかける小説だ。

「御嶽の噴火によるすべての犠牲者、被災者、ご遺族、ご家族、そして、御嶽に関わって暮らすすべての方々に本書を捧げる」と扉にある。ご冥福を心よりお祈りする。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任、公明党前代表。前国土交通大臣、前水循環担当大臣。

現在、衆議院議員、党全国議員団会議議長、東京第12総支部長、首都直下地震対策本部総合本部長、現代中国研究会顧問など。

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