「誰か」「名もなき毒」「ペテロの葬列」に続く、私立探偵・杉村三郎シリーズの第4弾。「聖域」「希望荘」「砂男」「二重身」の四編が収められている。
「砂男」は、妻の不倫で離婚し、義父の今多コンツェルンの仕事を失って故郷に帰った杉村三郎がある事件に遭遇。これが探偵事務所(なんと私の住んでいる東京北区所在)を開設するキッカケとなる。仲むつまじい巻田夫妻の夫・広樹が姿を消す――不可思議な事件。「希望荘」は、温厚な父が「昔、人を殺した」と信じられない告白をして亡くなったが、その真偽を調査してほしいという息子の依頼から始まる。四編とも面白い。後半に入って緊迫の急展開だが、人の善意、優しさ、温かさが伝わってくる。
どこにでもある庶民生活の日常のなかにも、人の心には狂気、猛獣がいる。どうしようもない、逃れられない宿命を背負わされて生きる。人間の抱え込む業、そして突如として噴出する不可解な行動。庶民の心に寄り添いつつ、粘り強く理詰めで事件を心の闇をはらすという解決に導いていく。