512XDHhSEmL__SX348_BO1,204,203,200_.jpg少年たちを主人公にした短編集。「逆ソクラテス」「スロウではない」「非オプティマス」「アンスポーツマンライク」「逆ワシントン」の5編。スポーツ、いじめ、家庭に秘められた親と子の情愛、コーチや教師や親の至高の一言。いずれも印象的な逆転のドラマが描かれる。人間の心理の本質を突いているだけに実に面白い。爽やかでスカッとする。心に沁み入る。

この社会、とくに親や教師や特別に何でもできる"優秀"といわれる傲慢な生徒に対して、普通の少年仲間は弱者だ。「決めつけ」「先入観」「レッテル貼り」で身動きがとれず、固定化され、少年たちに重くのしかかる。いつも「だめな奴」「褒められず」に委縮する。ソクラテスは自分は何も知らないことを知っているという「無知の知」だが、少年たちに何でも知っているという「逆ソクラテス」の教師たちがのしかかる。5つの短編はそれを引っくり返す逆転劇が、それもじつに人間心理を見透かし、逆手をとっての知恵の戦いによって演じられるのだ。

「敵は、先入観だ。先生の先入観を崩してやろうよ」「未来のおまえは笑っている。それは間違いない」「潤、大事なことを忘れている。親だって人間だ」「先生はみんなに、相手を見て態度を変えるような人になってほしくない。イメージで決めつけていると痛い目に遭う」「授業を邪魔するのが好きな奴、迷惑かけても平気な奴、そのイメージは定着しちゃうよ。口には出さなくても心の中では可哀想にとみんな思っているかもしれない」「バスケの世界では、残り一分を何というか知っているか? 永遠だよ、永遠」「わたしがいじめられたら、いじめてきた相手のことは絶対に忘れないからね・・・・・・自分が誰かをいじめたらほかのみんなが覚えているぞ」・・・・・・。とてもいい小説。


41ZeODWsagL__SX305_BO1,204,203,200_.jpg「大人の男」がぐいぐいと、小気味よく、真っすぐに迫ってくる。「本当の自分と出会うことを、幸せと呼ぶ」――。自分と出会い、「ひとりで生きる」ときに、「人は一人では生きていけない。"依るべきもの"が見えてくる」ということだろう。

「出会い」がとても鮮烈で持続して深い。「この社会で生きて行くには、他人の十倍、いや百倍働け! 35歳までは土、日曜、祝日はないと思って働いて、ようやく人と並ぶんだぞ。30人足らずの会社の誰よりも働いていた。お洒落で、海が好きで、出張に同行すると駅弁を美味しそうに食べていた(〈もしあの出逢いがなかったら〉 島崎保彦さん)」「威勢を張るようなところが微塵もなく、それでいて、仕事にかかると見事なまでに演出家、脚本家が全力でかかるようになってしまう能力を持っていた。・・・・・・三浦寛二は最後まで、"男の中の男だった"からだ(〈言いだせなかった〉)」「本田(靖春)ほど編集者に愛された物書きは珍しい。・・・・・・若者よ。『拗ね者たらん』を読みなさい。そうすれば、君も少し大人の男に近づくだろう」・・・・・・。そして飼っている犬にも、常宿のホテルの部屋に現れる小さなクモにも、観察眼に情がある。

「大人の男」「大人の流儀」シリーズの第9弾。


刀と傘.jpg幕末から明治初頭の激動の日本。政治の謀略、激震の京都を背景にして起きる殺害事件の謎に挑む時代本格ミステリー短編集。佐賀、そして近代日本の司法制度の礎を築く江藤新平と尾張藩士であった鹿野師光が、それぞれの個性を生かして事件を解決する。いずれも動乱の時代状況を描くことと、ミステリー事件の謎解きが絶妙に組み合わされ面白い。

「佐賀から来た男」――攘夷思想が蔓延する京都で、開国交易論を声高に主張し薩長から睨まれ、越前藩主で賢候として名高い・松平春嶽の相談役を務めた五丁森了介が怪死する。大事な書簡を盗まれた責任を取って、五丁森は腹を切ったのだろうか。「弾正台切腹事件」――弾正台京都支店で大巡察・渋川広元が腹を切り喉を突いて密室で死亡する。自殺か他殺か。明治3年、横井小楠と大村益次郎暗殺に関する資料を探していた江藤新平の打った手は・・・・・・。そして土佐の脱藩浪士・大曽根一衛の心中に渦巻く「攘夷を旗印に維新回天を誓った者が、天下を獲るやその旗印を捨て欧米列強に媚び諂う。それが許されてよいのか」という鬱憤。「監獄舎の殺人」――明治5年、京都の府立監獄舎に収監されていた国家転覆を企てた平針六五が、死刑執行の日に毒殺される。なぜ・・・・・・。

「桜」――明治6年、京都室町下ルの妾宅で、市政局次官・五百木辺典膳と女中が刺殺され、妾がその賊を殺したという事件の真実は・・・・・・。一枚岩だった江藤と師光の間に亀裂が生じていく。「そして、佐賀の乱」――明治6年秋、征韓派と内治派の争いのなか西郷や江藤は政府を去る。佐賀の暴発の恐れがあるなか、江藤を佐賀に行かせず京都に留め置こうと考えた者がいた。明治7年2月、佐賀の乱、3月に土佐で江藤新平は捕縛される。

時代のなかで引き起こされた5つの事件。江藤と師光は真相を究明するが、事件関係者にはいずれも宿業のような物悲しさがある。


脱プラスチックへの挑戦.jpg「脱炭素社会」と「脱プラスチック社会」をめざす。「気候変動」という言い方ではなく「気候危機、気象異常事態」と言おう。「産業革命の際に仕込んだ時限爆弾である『温室効果ガスによる温暖化がティッピングポイント(臨界点)に達してしまう』のが早いか、それとも私たち人類が叡智を結集して『ソーシャル・ティッピングポイントと呼ばれる社会の大転換を起こす』のが早いかの競争である」という。副題に「持続可能な地球と世界ビジネスの潮流」とある通り、「脱プラスチック社会」をめざして、各国が各人が各企業やNPOがいかに努力し、挑戦しているかを紹介する。

まず気候――。産業革命前と比して平均気温は1度上昇し、パリ協定では上昇を2度未満に収め、さらにまずは1.5度未満をめざすとした。「気候変動が社会・経済に深刻な影響を与える」としたが、今は違う。地球が限界となり不可逆の過程に突入するという危機である。ヨハン・ロックストローム博士らは「プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)」を主張する。大きなコストがかかり、人が住みにくくなるというのではなく、ホットハウス・アースに向かう不可逆で破滅的な変化をもたらし、自己強化型のフィードバックメカニズム(熱を海が95%吸収しているが、海の吸収が激減し、氷が融け、それが太陽光を吸収しやすい海へと逆転する)になってしまう。今はこの逆転のスイッチを押してしまう(2度の上昇)ことをさせないギリギリの地点だという。10メートル以上の海面上昇、大洪水と大干ばつで食料生産危機、疫病、最も人が住めるのは南極圏・北極圏。そして循環型の経済にしないともたない。「今後10年間の行動がカギを握る」ということであり、「運命を決める時」だ。これは2015年に定められたSDGsの基礎となる。そのなかに廃棄物問題、プラスチック問題があるというわけだ。

プラスチック――。「世界のプラスチック生産量は年間4億トン。毎年910万トンが海に流出(500ミリリットルのペットボトル5000億本分)」「このまま増え続けると、海洋のプラスチックごみは、2050年には魚や貝の合計より重くなる」「とくに20~30年間に小さく危険なマイクロプラスチックになる。それが食物連鎖で濃縮され、人間の体内まで届けられる」「世界でプラごみ回収の試みが始まっている(ボイヤン・スラットのオーシャン・クリーンアップなど)」「世界各国で使い捨てプラスチック規制が始まっている」「企業も脱プラへの競争が始まり、化石燃料からのダイベスト(投資撤退)だけでなくプラスチックのダイベストも」「日本はプラスチック廃棄物の4分の3が焼却されており、リサイクルではない」「日本環境設計はケミカルリサイクルで世界注目の技術をもっている」などが語られる。また、いわき市の小松事務所の生分解性プラスチック容器技術群も注目されている。

SDGsのウェディングケーキが示すように、自然環境(14番、15番、6番、13番)が17の土台、幹となっている。「環境も経済も大事ですね」という両立ではないフェーズに世界は突き進んでいる。


ハビタブル.jpg「系外惑星が示す生命像の変容と転換」が副題。太陽とは別の恒星をめぐる惑星である「系外惑星」――。初めて発見されたのが1995年、太陽系とは似ても似つかぬ至近距離で恒星を周回する加熱された「ホット・ジュピター」。2010年代初頭には発見数は500個を超え、2019年では4000個近い系外惑星が確認されている。そこで、海を持ち生命を宿す系外惑星は多数存在するのか。適温と水(液体)が存在できる軌道の範囲を「ハビタブル・ゾーン」というが、地球サイズや少し大きい惑星(スーパーアース)で、「ハビタブル・ゾーン」にあるものは何十個と発見されているという。大変な勢いだ。

しかし、そこで「地球のような生命、地球のような生物の進化と環境」の呪縛から脱せよ。太陽系の構造が惑星系の標準的姿とする「太陽系中心主義」や、生命を宿す天体に対する考え方も地球のような惑星と考える「地球中心主義」、生命は必然的に人類という到達点に向けて進化する「人間中心主義」から離れよ、という。太陽系の地球しか知らなかった私たちは、「第2の地球」や「地球に似た惑星」を探しがちだが、"異界"の現実・真実を求めるべきだ。そして今がコペルニクスやガリレオの時代のような大転機だという。本書を読んで納得する。それは私たちの存在がノーマルに定置されることになる。

系外惑星研究は、宇宙科学と生命科学を結節する。井田教授のいう宇宙の始まりや天文学・物理学の「天空の科学」と、医学・脳科学・環境科学・地球科学などの「私につながる科学」が交錯する研究分野の進展だ。「天空の科学」では、ブラックホール、ダークマター(実在)、ダークエネルギー(仮説)、ビックバン宇宙、ヒッグス粒子(質量を与える)、超ひも理論等が概説されるが、これがきわめて解り易く面白い。「私につながる科学」では、地球科学における革命・プレートテクトニクス理論、地震、気候変動と地球の温暖化(科学と政治のせめぎ合い)、地球の経験した気温変化と人類自らが原因となった短期の環境変化、遺伝と生命の進化、ゲノム解析、キリスト教とダーウィン進化論の対立、生命の起源・・・・・・。そして「天空と私が交錯する『ハビタブル天体』」では、系外惑星の発見のみちのり、ハビタブル惑星の発見、赤色矮星の惑星、エンケラドス・エウロパ・タイタン等のハビタブル衛星、地球外生命、地球外知的生命と意識の起源等が語られる。

地球も生命の進化も、別様のかたちがいくらでもあり得るという新たな地平が勢いをもって開かれている。

<<前の5件

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任、公明党前代表。元国土交通大臣、元水循環担当大臣。

現在、衆議院議員、党全国議員団会議議長、東京第12総支部長、首都直下地震対策本部総合本部長、現代中国研究会顧問など。

太田あきひろホームページへ

カテゴリ一覧

最新記事一覧

私の読書録アーカイブ

上へ