海に向かう足あと.jpg大学でヨット部だった6人。照明デザイナーの村雲佑をキャプテンとするクルーたちは、資金を工面してエオリアン・ハープ号を買い、翌年のゴールデンウィークに開催される外洋レースの参加を決める。小笠原諸島の近くの三日月島をスタートして江ノ島でフィニッシュするレースだ。ヨットに魅せられた6人とその家族や恋人等の日常生活はそれぞれ異なる。家や職場を離れることも多く特異でもある。

「幸せとは何だろう」――。風、波、太陽、星など大自然を呼吸するクルーたちの至福が伝わってくる。「本当に好きなことを見つけて夢中な人は幸せだからあんなに楽しそうだし、幸せだから他人に寛容なのだと思った」「命のある誰かを生きがいにしてはいけない・・・・・・」「これまで旅立てなかったのは、心に刻んだ情景を一緒に見たい人がいなかったからだと気づいた」・・・・・・。

しかし、レース直前、突然の破局が訪れる。核攻撃によって東京壊滅。自然のなかでの人間の日常生活の安寧の対極の事態。「我々がやってきたことの報いだな・・・・・・歴史にも学ばず、警告にも耳を貸さず、現実に起きていることに目を閉ざしてきた、その結末ということか」「結局、我々は『よりよいこと』を選択せずに、可能性を遮断し、ここまで来てしまったのだ」との警告が響く。


ガラパゴス・クール.jpg「日本の取り組みのフロンティアは世界の取り組みのフロンティアでもある」――日本再建イニシアティブの「日本再発見」プロジェクトを更に進め、21世紀日本の可能性と跳躍を追求する。世には学者・評論家の本は多いが、本書は激烈な社会の各界で活躍している現場のフロントランナーが11のプログラムを率直に語り、きわめて刺激的で面白い。

「日本のフロンティアは日本の中にある。しかし世界のフロンティアもまた日本の中にある」「ガラパゴス化をグローバル化し、また、世界の需要や文化をインバウンド化、つまり日本社会に内実化させてこそ、ガラパゴス化から普遍的な価値を引き出すこともできる。それによって、日本の個性と多様性を世界とともに発見し、その過程で日本が自ら再発見するガラパゴス・クールのダイナミックスも生まれるだろう」「これは(グローバル・シビリアンパワー2.0)は、従来の"グローバル・シビリアン・パワー"を下敷きにしつつ、国際社会の"自由で開かれた国際協調秩序"を維持、強化するため、より課題先取り型で、より積極的(プロアクティブ)で、かつより筋肉質の外交姿勢を志向し、世界の平和と安定のための国際的役割を探究し、国際的アイデンティティーを追求する戦略である」「そこでの日本の取り組みの特徴は、シビリアンパワー、開かれた海洋、自由主義、市民社会の独自性と活力、個々人の創意工夫と遊び心、スモール・イズ・ビューティフル、"自然体のまこと(真・誠)"、そして何よりも個性と多様性といった特質によって陣取られることになるだろう」などという。

芸術・文化、デザイン、ライフスタイル、医療、科学、イノベーション、外交など各界のフロントランナーの発言・提言は、激しい競争の中にいるだけに鋭く、現実の行動を促している。


素敵な日本人.jpg9つの短編集。1つ1つが全く角度・色合いも違う。ミステリーもあれば、温かなもの、ジーンとくるものもあるし、コミカルなものもある。短編の面白さを味わう。

最初「正月の決意」――。町長が神社の賽銭箱の前で倒れており、教育長が行方不明。発見者は死を決意していた夫婦。そして・・・・・・。「どうして私たちのような真面目な人間が死ななきゃいけないの?そんなの、絶対に変・・・・・・。私たちも、これからは負けないでもっといい加減に、気楽に、厚かましく生きていきましょう」。

最後は「水晶の数珠」――。父親が息子にかける厳父の愛。こんな形で表現されるのか・・・・・・。

「レンタルベビー」や「サファイヤの奇跡」では、脳や次代の生命科学と人間が愛情をもって提起され、「壊れた時計」「クリスマスミステリ」はまさに謎解きの本格的ミステリー。

「素敵な日本人」という表題とは? 騙し方、騙され方、人生への甘さと、バタくささ、無言の抵抗や愛情、季節や自然との一体感・・・・・・。9編全てを読み終わってみると、たしかに、そんな「素敵な日本人」が浮かび上がってくる。


木炭・石炭・シェールガス.jpg「文明史が語るエネルギーの未来」が副題だ。19世紀の頃は日本でも西欧でも木材が利用され国土は荒れ地となっていた。今、再生エネルギーが注目されているが、太陽光も風力もエネルギー効率は低く、生態系をかつてとは別の形で破壊するリスクもある。「各エネルギー源は、全てそれぞれ独自の大きな欠点・問題を抱えており、魔法の杖、救世主のスーパースターはどこにもない」「将来のエネルギーはベストミックスしかないが、それはベストというより、より最悪でない組み合わせでしかない」「進むべき案内板はエネルギー源の動的な多様化と省エネだ」という。

「再生可能エネルギーの世界史」を語ったあと、「第一の反革命――再生エネルギーは環境に悪い」「第二の反革命――シェールガス革命」「第三の反革命――"石油の世紀"の終焉」を指摘する。CO2削減効果の高い化石燃料利用技術、石炭火力の発電効率向上技術、コージェネレーションなどの技術革新の現状等にも言及する。さらに、「デンマークを見習え」「ドイツは時代を先取りしている」「グリーン・ニューディール政策」などの言説の"言い過ぎ""誤り"をも指摘する。あわせて、「日本の天然ガス輸入価格は世界一高い」とし、経済への影響の深刻さ等々を述べる。

エネルギーと環境に関しての「思い込み」「認知バイアス」を歴史と原理に基づいて剔抉している。


蜜蜂と遠雷.jpg「こんなにも世界は音楽に満ちている」――。宇宙の深遠、自然のなかでの息づかい、生命の鼓動が伝わってくる。光と音と静寂。自然との対話。心通う人間の覚醒と蘇生。心の中の大きな景色を弾き出すピアノ・・・・・・。ピアノコンクールを舞台にして、若者の伸びやかな感受性と未来性が輝きわたる広がりある傑作。

養蜂家の父とともに各地を転々、ピアノも持たず、常識を覆す破天荒な演奏で衝撃を与える破壊力抜群の天才少年・風間塵16歳。天才少女としてデビューしながら、母の死とともにピアノが弾けなくなってしまった栄伝亜夜20歳。名門ジュリアード音楽院の俊英・マサル・C・レヴィ・アナトール19歳。そして音大出身で妻子持ちのサラリーマン高島明石28歳。芳ケ江国際ピアノコンクールに集った若者が才能をぶつけ合い競い合う。互いが刺激を与え合い、化学変化を起こして高めていく臨場感と緊迫感はすさまじい。すがすがしい人間讃歌が響く。

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プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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