shiori.jpg評判を呼んだ連作短編集「本と鍵の季節」に出てきた高校で図書委員をつとめる堀川次郎と松倉詩門のコンビが再び登場する青春ミステリー。今度は長編。ごく普通の高校生活の中で出てきた事件を、友情も絡めて丁寧に解き明かしていく。

ある日、図書館の返却された本の中に、猛毒のトリカブトの花の栞を見つける。そして写真コンテストで金賞を撮った写真が保健室の隣に掲示され、その写真モデルはなんとトリカブト持ってジャンプしているものだった。撮影・岡地恵、モデル・和泉乃々花とあり、共に同じ高校に通う生徒だった。堀川と松倉のニ人は、校舎の裏でトリカブトが栽培されているのを見つける。また、瀬野麗が、校舎裏の花壇からトリカブトを抜いて埋める姿を目にする。そしてついに、嫌われていた教師が中毒で救急搬送されてしまう事態が生じ、学校内に不安が広がっていく。堀川と松倉に瀬野が加わり、真相を追っていく。「なぜ猛毒のトリカブトの花が栞に?」・・・・・・。緻密な謎解きが展開される。「わたしたちには人を殺せる"切り札"が必要だった」と言うのだが・・・・・・。

連続殺人事件があるわけでもない。血の臭いもなく淡い日常が続くが、その中に謎や不安の出来事があり、それぞれの人が、全部を晒すわけでもなく、半分は隠し、少しは「嘘」を交えて生きていく。そんなデリケートな「間合い」が、絶妙なタッチで描かれていく。


1668744387093.jpg「死刑のハンコ」失言などと言われ、法務大臣が更迭となった。「軽率」などではなく、人間存在の「軽さ」が問題であろう。「綸言汗の如し」だ。本書は今年90歳になった森田先生が、青年時代から学び続けてきた「中国の古典」を「再学習のすゝめ」としてまとめたもの。「中国古典は最も優れた人間の知性の総結集だと私は思っている」「中国の古典は汲めども尽きぬ知恵と知識の黄金の泉である。中国古典を学ぶことによって、われわれは、いかに生きるべきかを学ぶことができる」と言う。選び抜かれた箴言・金言・警句・格言は、あまりにも深く、重く、森羅万象の真実を突く。「軽さ」が指摘される政治家は特に、再学習が不可欠だろう。いやこれまで学んでこなかったが故に、政治世界が軽くなってしまったのではないか。人間哲学不在では、困難をきわめる複雑な社会の変革は成し遂げられない。

本書は「論語」「老子」「孟子」に始まり、「荀子」「韓非子」「孫子」「史記」「大学」「中庸」を紹介する。そしてアリストテレスの「ニコマコス倫理学」を挟み東西の哲学・思想が通底していることを示す。再び中国古典の「書経」「礼記」「詩経」「易経」「左伝」「墨子」「管子」「列子」「荘子」「菜根譚」「孝経」「忠経」「小学」を紹介し、再学習をすすめる。最後に私も感動した林大幹著「四十にして志を立つ安岡正篤先生に学ぶ」を紹介する。「政をなすに徳をもってす(徳のない政治は必ず堕落する)」「中庸は最善の道徳だ」「上善は水の若し」「儒教の精神である仁義礼智信――孔子は仁を、孟子は義を、荀子は礼を強調した」「人間関係において最も大切なものは礼節であると私は思う」「政治の目的は最高善の実現にある。今こそ、孔子、釈迦、アリストテレスの中庸・中道思想を現代に生かさなければならない」「荘子はすべての変化を支配する根本原理を『道』と呼んだ」・・・・・・。森田先生の姿に清々しい至誠を感じる。


kikaijikake.jpg2020年から始まったウイルスと人類の全面戦争。未知のウイルスと最前線で戦う医療従事者たちがいかに戦ってきたか、精神面も含めた体力ギリギリの「戦場」を描く。「ウイルスは人間の都合なんかに、一切忖度してくれない。あいつらは意思も、そして命すら持たず、ただ増殖するだけの有機機械。少しでも油断すれば、一気に社会を壊滅させるだけの力を持っている。そのことを絶対に忘れちゃいけない」「機械仕掛けの太陽は、これからも人間社会の中で燃え上がり続ける」――。

練馬にある心泉医大付属氷川台病院の勤務医で、シングルマザーの椎名梓、母親の春子と一人息子の一帆の3人暮らし。同じ病院に勤務する20代の女性看護師・硲瑠璃子、結婚寸前の恋人・定岡彰がいる。西東京市で医院を開業している72歳の医師・長峰邦昭。この3人を中心に、それぞれの悪戦苦闘、追い詰められた日々を描く。

まずα株――「そんな室内で、さらに感染対策のためにN95マスク、アイシールド、ガウン、キャップ、防水ズボンなどのP Eを隙間なく着込まなくてはならないのだ。蒸し焼きにされているような心地になる」「今コロナ病棟から逃げ出せば、私は一生父の呪縛から逃れることができない。あそこでの勤務は私の心身を蝕んでいく。助けて、誰か助けてよ・・・・・・」「さっき、一人看取ったんだ。その分、一つだけ空床ができた。そこに患者を入れる。2時間あれば準備できるだろ」「新型コロナウイルスに対するワクチン、90%以上だよ、椎名先生。90%・・・・・・。来月にはアメリカでワクチン接種が始まる」「妊娠中の茶山の妻である礼子が一昨日の夜に発熱した」「普通の病棟業務にも耐えられなくて逃げ出したあなたなんかが、ここでやっていけるわけないでしょ。舐めないでよ。・・・・・・どうしたの、瑠璃子? なんか、・・・・・・別人みたい」・・・・・・。

そして20 21年、デルタ株――。「瑠璃子は父の話にただ耳を傾け続けた。『和郎は言っていたよ。看護師さん達がいたから、希望を失わないで頑張ることができた。あの人たちは、命の恩人だ』ってな」「軽中等症用ベッドより先に重症病床が埋まったっていうのか? そうです。以前の波とは、重症患者の数が桁違いです」「デルタ株の発生源とされているインドでは、全土がその感染爆発に呑み込まれ、酸素が足りなくなった」「都からの要請を受け限界まで病床数を増やす。患者さんが増えて、どんどん人手が必要になってる。入院できない。自宅で酸素が必要に。その酸素がない」「全国でノーマスクでワクチン反対を訴えるデモ。陰謀論の自家中毒によって先鋭化して、カルトと化しています。奴らの妄想の中では、ワクチン接種を推進する関係者は誰もが、大量虐殺者なんですから」・・・・・・。

そして20 2111月、南アフリカに始まるオミクロン株――。「これのどこが弱毒株よ。オミクロン株の最大の特徴である強い免疫逃避。防御壁が崩れ去り、無防備になった人々にオミクロン株は容赦なく襲いかかった」「ICUに入院した6歳の少年の病状は悪化の一途をたどっていた。なぜ日本では小児への新型コロナワクチン接種がこんなに遅れているんだ。このままでは未来ある少年の命が奪われてしまう」「追加接種が遅々として進まないことに焦燥し、行政が動くことをずっと待っていた医療現場は素早く対応した」・・・・・・。

すべての医療従事者、すべての国民が協力し、「力を合わせて有機機械と戦い続けてきたのだ」「この2年間で、C OVIDの致死率を大きく変えることに成功した。効果的なワクチンも治療薬もすでに手に入った。ウイルスとの全面戦争の出口が近づいている」と現在進行形で描いている。この約3年の医療現場を中心にした「戦場」がよくわかる。


rougai.jpg老害をまき散らす老人たちと、それにうんざりして「頼むから消えてくれ」とさえ思う若年層。両者の活劇のような物語を書けないものかと、かなり前から考えていた――。そう内舘さんは言う。

物語の舞台は埼玉県川越市に隣接する「岩谷市」。老害の主人公は、戸山福太郎。双六やカルタ、トランプなどのゲーム製作販売会社の前社長。娘婿に社長に譲ってからも出勤、長い昔話、手柄話を繰り返し周りを困らせている。彼の仲間も老害の人ばかり。俳句と絵自慢の吉田夫妻、クリーニング屋で病気の事ばかり語る「病気自慢」の竹下勇三、「死にたい死にたい」とすぐ言う春子、その息子の嫁・里枝は「孫自慢」ばかり。福太郎、吉田夫妻、竹下、春子はあたかも"老害クインテット"。あるある話満載。自分もまた、と思う。

そして、ついに福太郎の娘・明代がとうとうキレて、日ごろは言えない本音を父親に叩きつける。「80代半ばの父親は反省し、二度とやらないと謝罪。その哀れっぽい姿に、娘は言い過ぎたと落ち込む」のだ。これもあるある。ところが父親は、裏で老獪な逆襲を企んでいたのだった。老害の人を集めてサロンをつくってしまう。

「でもね、これも本で読んだわ。昔話をすると体にドーパミンが出て、気分が良くなるんだって」「死にたいとか食べたくないとか言うと、周りが心配してくれて、嬉しいだけなんですよ。生きたいんだね。本音は」「先日、福太郎さんが『遠慮して謝って生きている年寄りは悲しい』って。その通りです。でも、私も年寄りと暮らすイラだちで・・・・・・」「悲しい話は一人で耐えることもできるが、嬉しい話や喜びの話は、誰かに言わないと耐えられない」「仕事というものは、抗うつ薬なのだ。----仕事ではなくサロンに客として来る老人たちにとっても、『教育(今日行く)』『教養(今日用がある)』の場だ。家にも社会にも居場所がない者でも、サロンに行けば必ず誰かがいる。・・・・・・抗うつ薬だ」――。

年齢がいけば、誰しも「老害」に陥る。読みながら考えるだけでも良い。「社会に少しでも還元し、伝える年齢だと気づく。『自分磨き』ではなく『利他』ができないか。小さいことでも主体的にそれができれば、力が湧くはず」と内舘さんは言う。


nihonjin.jpg「第7回世界価値観調査から見えるもの」が副題。この調査は、世界各地の個人を対象に、1981年以降おおむね5年おきに実施されている世界最大規模の意識調査。世界120もの国や地域で、同じ質問をする形でこの40年間で7回、世界の人々の意識を調査してきた。調査項目は290に及び、内容は生活意識や労働意識、政治意識、ジェンダー意識など多岐に渡っている。時系列データの蓄積が特徴であり、日本では電通総研が日本代表として参画している。

2つの大きな価値観シフトが世界各国で確認されている。一つは「伝統的価値観」から「世俗的価値観」へのシフト。もう一つは「生存重視」の価値観から「選択の自由と自律性に重きを置く自己表現重視」の価値観へのシフトだ。生存重視から自己表現重視ヘのシフトはこの50年世界に広がっている。また各国で「格差と分断」が生じていることや、結婚や家族、ジェンダーと性的指向に関する価値観に劇的な変化があり、環境問題意識も世界的に高まる傾向が確認されている。日本においてもそれは実感するところだ。

幸福感や生活満足度については「日本は88.3%が『幸せ』だが先進国の中では相対的に低めである」「非常に幸せが29.9%、やや幸せが58.4%となっている」「日本の生活満足度は満足が2020年は77.2%2005年の80.9%に次いで高い」となっている。仕事への意識は変化している。「仕事」について「重要」「やや重要」の割合は81.3%であり、77カ国中71位、「生活において仕事よりも余暇時間を重視する傾向」が見られる。日本人は勤勉を尊び、組織への帰属意識が強いという一般的なイメージとは合致しない。「働くことがあまり大切でなくなる」という変化に、年齢の高い人は「悪いこと」と思うが、若い人は「気にしない、良いこと」が増えている。仕事優先と言う価値観が弱くなっている日本人ということだろう。

伝統的価値観の指標には「ナショナルプライド」や「権威の尊重」なども含まれるが日本では低い。「日本人としての誇りを感じる」との回答は78.9%77カ国中67位、「権威や権力が尊重されることは良いこと」との回答はわずか1.9%77カ国中77位となっている。また生活において政治は「重要」とする回答は65%77カ国中6位、政治に「関心がある」との回答は60.1%77 カ国中8位と高い水準にある。しかし若年層ほど政治ヘの関心は低く、1829歳で38%30代や40代でも半数を切る状況だ。さらに注目すべきは、デモへの参加経験が5.8%77カ国中69位、政治に関するネットでの情報検索経験は16.8%47カ国中29 位、ネットやSNS上で政治的・抗議活動の組織化経験も0.8%45カ国中42位。政治行動は極めて低いことが明らかになる。

地球環境問題については意識が高まっているが、「経済成長率が低下して失業がある程度増えても、環境保護が優先されるべき」との設問に対して、環境保護が優先されるべきだとの回答は、77カ国中52カ国で過半数を占めているが、日本は74位と低位になっている。

最近問題となっている日本人の宗教の認識については、「神の存在を信じる」との回答は39.5%75カ国中72位、「自分は信心深い」は14.4%77カ国中77位の最下位。「生活で宗教が重要だと思う」は14.7%77カ国中76位となっている。宗教の認識は極めて低い。

安全保障の論議が行われているが、国際比較で日本は際立っていることがある。「仮に戦争が起こる事態になったら、自分の国のために戦いますか」という質問に対して「はい」と答えた人は2019年の時点で13%と日本は低く、国際比較では最下位だった。さらに見逃してはならないのは、「わからない」という回答が38%で国際比較で極めて多いという事実である。戦後長らく戦争のない世界に住み、考えたことがない、あるいは判断がつかない人が多いからではないか。今年のウクライナ戦争で変化があるのだろうか、調査を知りたいところだ。

日本は民族性もあろう、歴史もあろうが、「環境か経済か」についても「わからない」が33%と多く、国際的にも抜きんでている。このドラスティックに変化する世界の中で、この点をどう考えるかも、重要なことだと思う。

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プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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