neosapiensu.jpgテクノロジーの進歩とともに「人間」はどうなるのか。人間の身体能力、コミュニケーション能力が拡張され、「人間拡張」はどこまで進むのか。そこに現れるのはネオ・サピエンス、そしてユートピアなのかディストピアなのか。人間拡張テクノロジーの第一線で活躍している研究者、AIやロボットそして脳科学、情報科学の専門家、ジャーナリストやミュージシャン、さらに為末大さんのようなパラアスリートと関わり、パラスポーツの義足の開発にも携わっているアスリートなど15人が、きたるべき「人間拡張」の未来について語る。

「人工的に6本目の指を装着する研究をしている。しばらく使用した後に第6の指を外すと、ちょっとした喪失感を感じるようになる。おそらく脳が身体の一部として理解するようになったのだろう。それは脳さえも拡張できる可能性があるということだ。人類にとってのオプションを用意するのが人間拡張工学の役割でありネガティブな未来だとは思わない(稲見昌彦)」「難病ALSにかかって、自らをサイボーグと呼び、人類で初めて人間と機械の融合という冒険に乗り出した。人間の脳は、見慣れない、よく知らないことを恐れるように神経回路ができている。それは生存のために必要な特性。AIが独立して発展すれば人間は最終的にはAIのペットになるが、AIの飛躍的発展に便乗させてもらって自分を拡張すること、つまりAIとパートナーを組んでいく人間中心のAIで、人間であることの意味を変えることだ(ロボット工学博士、ピーター・スコット・モーガン)」「人間がものに合わせるフェーズから、人間に物を合わせる段階に入ってきた。技術革新と人間の思い、この両輪が限界を拡張させていく構図はこれからも続いていく(為末大)」「制御系を常に自分の中に持つという人間性の拡張を先に完了しない限り、テクノロジーによる人間拡張は必ず人間否定になる。ものすごい能力を持った輝かしい存在が人間本来の姿ではないかと思う。今人間に必要なのは拡張ではなく、デトックス(解毒、体外に吐き出す)です(ミュージシャン平沢進)」・・・・・・。

「人間の意識を機械に移植する。『脳』は神格化されているところがあるが、電気回路に過ぎない。脳と同様の電気回路を作れば『感覚意識体験』は獲得できる。意識の移植が確立し機械の中で第二の人生を送ることが可能になるのはほぼ間違いない(脳科学者、渡辺正峰)」「医療分野における身体に埋め込むタイプのインプランタブルデバイスは進展している。体内の分子ロボットが検査から治療まで行うようになる(木下美香)」「サイボーグ技術とは、身体や生まれた場所によるしがらみから自己の創造性を解き放つ技術、人の可能性を拡張する(粕谷昌宏)」「全能へ向かう者の行く末と愚民の力。有限な地球を『人が住む物理的な球体』以上のものにしてはいけない。人類が滅びるまで宿命に抗ってほしい、これがニュータイプになりたかったおじいちゃんからの遺言です(富野由悠季)」「人間とテクノロジーの理想的な関係。人間がやりたくない、やるべきではない仕事はAIにやらせ、人間がやるべき他のことができるようにする(ケヴィン・ケリー)」「SF作品が夢見た人間拡張。文明の進歩そのものが人間拡張の歴史だったと考えれば未来を恐れることはない(SF作家・大森望)」「人間拡張と言う思想は、身体強化と人間の認識能力の拡大の2つの方向から語ることができる。その思想の現在地は複雑に入り組んでおり、人間拡張の見取り図を常に更新していかなくてはならない(塚越健司)」「コミュニケーションの不完全さを楽しみ、異質なものへの好奇心を(早稲田大学文化構想学部准教授ドミニク・チェン)」・・・・・・。

文筆家・編集者の吉川浩満さんは、人間拡張の4要素として「身体能力の拡張」「知覚の拡張」「認知能力の拡張」「存在の拡張」を示し、義足や眼鏡や顕微鏡、算盤やコンピュータ、リモート会議システム等が古来行われ開発されてきたとし、神学者のラインホールド・ニーバーの言葉を結びとして示す。「神よ、変えることのできない事柄については冷静に受け入れる恵みを、変えるべき事柄については変える勇気を、そして、それらニつを見分ける知恵をわれらに与えたまえ」・・・・・・。「攻殻機動隊は未来を作ることができるか(エッセイスト・さやわか)」・・・・・・。ユートピアでもなければディストピアでもない。しかし大変な時代であることは間違いない。


mousugusini.jpg「夜回り先生 いのちの講演」――。涙なしには聞けない。感謝なしには聞けない。30年前、全国最大で荒れに荒れていた横浜の公立夜間定時制高校に赴任してからずっと、夜11時過ぎから駅周辺などを歩きまわり、中学生・高校生たちに声をかけ、体を張って戦ってきた水谷先生。「君たちには、まだまだ長い明日があります。幸せないまと明日を作ることができます」「死を怖れず、死から逃げず、生き抜いてほしい」「生きていてくれて、ありがとう。いいもんだよ。生きるって」と言うメッセージを体当たりで伝え、「自らの力で昼の世界に戻った若者」と共に行動する。本当に凄まじく、すごい。

「人と人との直接の触れ合いを捨ててはならない」「コミニュケーションには4つある。直接会って話す、スマホ・携帯電話で話す、手紙を書く、ネットやSNSでつながる」だ。しかし、「携帯電話やインターネットは、情報を調べたり、伝えたりするために使うべきものに過ぎません。愛や友情や心や思いは通じない。相手の顔が見えないとどんなひどいことも書けてしまう。コミュニケーションは必ず、『直接会って話す』ことだ」と言う。徹底した現場での身体を使っての心の底からの実践。どのページからも、それが痛いほど伝わってくる。公明党の立党精神、「大衆とともに語り、大衆とともに戦い、大衆の中に死んでいく」は、こういうことだと心の底から思う。


sutoresunou.jpg「これほど快適に暮らせるようになったのに、なぜ多くの人が精神的な不調を訴えているのか」「スウェーデンでは8人に1人が抗うつ薬を飲んでいて、世界では2億8000万人がうつに苦しんでいる。こんなに快適に暮らせるようになったのに、私たちはなぜ気分が落ち込むのか」・・・・・・。「スマホ脳」の著者アンデシュ・ハンセン氏が、心と脳の仕組み、「ストレス」と付き合うための「脳の処方箋」を明らかにする。

その答えは明確だ。最も長く続いた狩猟採集民の時代。「私たちはサバイバルの生き残りだ」「生き延びて遺伝子を残せるように、脳が感情を使ってその人を行動させるのだ」「発作は扁桃体から始まる。扁桃体には周囲の危険を察知するという任務がある。危険の可能性にも反応し、身体を『闘争か逃走か』の態勢に備え、ストレスシステムのギアが入って心拍数が上がり、呼吸が速くなる」「脳は生き延びるために重要だと思う記憶を優先して保存する。忘れたい恐ろしい嫌な記憶は生き延びるための『重要な記憶』だ。危険を知らせる扁桃体はちょうど記憶を司る海馬の前に位置している。その物理的な近さからも、強い感情を湧かせる体験と記憶力が緊密に連携している」と言う。PTSDに苦しんでいる人だけではなく、私たちには辛い記憶がある。脳が、同じことが起きないよう私たちを守ろうとしているのだ。つまり「不安は自然の防御メカニズム」なのだ。そして、不安を感じたときに確実に効くのは「呼吸。吐く息が吸う息よりも長くなるように心がける」「辛さを言葉にしよう」と処方箋を示す。

そして「うつ」――。「うつとは、私たちを様々な感染から救ってきた『隠された防御メカニズム』なのだ」と言う。さらに「孤独」については「孤独でいると副交感神経が活発になるだろうと思いがちだが、全く逆で孤独は交感神経を活発にする。私たちは生き延びるためにお互いを必要とし、自然の脅威や災害に対して一緒になって生き延びてきたのだ。孤独はつまり脳に警戒体制の段階を引き上げさせる」「人との交流、社交は脳の見地からすると食欲と同じぐらい基本的な欲求だ」と言う。

さらに「うつを防ぐ方法」として「運動」を提唱する。「運動はドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリンのレベルを上げ、BDNFのレベルも上げ、長期的には炎症を抑える効果もある」と解析する。面白いことに、「なぜ人は歩かなくなったのか」についても、狩猟採集民はカロリー欲求を求め、運動して無駄にカロリーを燃やさないようにしてきたのだと述べる。人類史上で最も精神状態が悪いのは現在であり、何が「うつ」から守ってくれるのかといえば、「運動」と「仲間と一緒に過ごす」こと。これほど快適な暮らしをしているのに精神状態が悪いのは、結局のところ「自分たちが生物であることを忘れているからだと思う」と述べている。

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プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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