「死刑のハンコ」失言などと言われ、法務大臣が更迭となった。「軽率」などではなく、人間存在の「軽さ」が問題であろう。「綸言汗の如し」だ。本書は今年90歳になった森田先生が、青年時代から学び続けてきた「中国の古典」を「再学習のすゝめ」としてまとめたもの。「中国古典は最も優れた人間の知性の総結集だと私は思っている」「中国の古典は汲めども尽きぬ知恵と知識の黄金の泉である。中国古典を学ぶことによって、われわれは、いかに生きるべきかを学ぶことができる」と言う。選び抜かれた箴言・金言・警句・格言は、あまりにも深く、重く、森羅万象の真実を突く。「軽さ」が指摘される政治家は特に、再学習が不可欠だろう。いやこれまで学んでこなかったが故に、政治世界が軽くなってしまったのではないか。人間哲学不在では、困難をきわめる複雑な社会の変革は成し遂げられない。
本書は「論語」「老子」「孟子」に始まり、「荀子」「韓非子」「孫子」「史記」「大学」「中庸」を紹介する。そしてアリストテレスの「ニコマコス倫理学」を挟み東西の哲学・思想が通底していることを示す。再び中国古典の「書経」「礼記」「詩経」「易経」「左伝」「墨子」「管子」「列子」「荘子」「菜根譚」「孝経」「忠経」「小学」を紹介し、再学習をすすめる。最後に私も感動した林大幹著「四十にして志を立つ安岡正篤先生に学ぶ」を紹介する。「政をなすに徳をもってす(徳のない政治は必ず堕落する)」「中庸は最善の道徳だ」「上善は水の若し」「儒教の精神である仁義礼智信――孔子は仁を、孟子は義を、荀子は礼を強調した」「人間関係において最も大切なものは礼節であると私は思う」「政治の目的は最高善の実現にある。今こそ、孔子、釈迦、アリストテレスの中庸・中道思想を現代に生かさなければならない」「荘子はすべての変化を支配する根本原理を『道』と呼んだ」・・・・・・。森田先生の姿に清々しい至誠を感じる。