ノースライト.jpg離婚して一人暮らしの一級建築士の青瀬稔。吉野陶太夫妻から「信濃追分に80坪の土地がある。あなた自身が住みたい家を建てて下さい」というたっての希望を受け、浅間山を望み北からの光を思う存分取り込んだ(ノースライト)斬新な木の家を建てる。建築士としても静かな評価が広がっていく。しかし、そのY邸を訪れると、家族が住んだ気配もなく、ただ一脚の古い椅子だけが残されていた。その椅子はなんと「ブルーノ・タウトの椅子」であり、そして肝心の家族はどこに消えてしまったのかわからない。ミステリーとはいっても、建築の美しさ、人の心の美しさが浸み込んでくる長編だ。

ナチス・ドイツから逃れた建築家ブルーノ・タウトは白川郷の合掌造りや桂離宮の建築美を褒め称えた。「日本の美」は、自然と人間との調和、物と心のバランスの中にある。タウトは言う。「桂離宮を見て、泣きたくなるほど美しい」――。建築家の求める「唯一絶対の美」「絶対美と呼べるものの在り処を知っていて、美しいものを創造しようと、自分の心を埋める作業。終わりなき作業」と、人間の求める「恩」「心の通い合いの世界」が交差していく。


世界史の大逆転.jpg国際情勢が変化激しく混沌としているなか、二人の対談はきわめて刺激的、鋭角的で面白い。「ここ数年の世界で起こりつつあるのは、何十年に一度の巨大な地殻変動ではないか。かつて我々が"常識"であると思ってきた流れが、予測を裏切るようなかたちで、ことごとく逆転しはじめたのだ。こうした構造的変化の本質を知るにはどうすべきか(宮家)」「こういうときに役に立つのが、地政学と思想史だ(佐藤)」という。変化は「移民と格差拡大」「トランプ大統領誕生」「米朝首脳会談」「米中対立」「核抑止から核拡散の時代」「トランプのエルサレム首都認定」「ヨーロッパの"脱石油"」「AIの急進展」「到来した"新・帝国主義の時代"」等が、因であり果である。

地政学で見ることはきわめて重要。ヨーロッパも中東も、そのなかでのサウジアラビアやイラン、勿論東アジアもだ。「混迷する中東」「ヨーロッパの脱石油、EVへの転換――エネルギーの脱中東依存、脱ロシア、そして"アメリカ離れ?"」。そして「北朝鮮をめぐっての韓国、中国、ロシアの思惑」・・・・・・。さらに「プレスビテリアン(長老派)としてのトランプ」「劇的に変化したアメリカの対中政策(貿易戦争ではない)」「"神"がいない国(中国)の体制の強さとナショナリズム」「エネルギーのベストミックスをエコノミスト、学者、軍事専門家らの知見でめざせ」・・・・・・。

バランスが崩れて混迷する世界。日本の戦略、外交でも核でも、エネルギーでもAIでも、したたかな戦略のあり方を示唆している。「国際情勢のルールが変わった」が副題。


未来をはじめる  宇野重規著.jpg「『人と一緒にいること』の政治学」が副題。政治学というより「政治とは何か」について女子中・高校生に対して行われた全五回の講義。大変面白く有意義。納得する。

H・アーレントの言葉で締めくくられている。「世界に住んでいるのは一人の人間ではなく複数の人間である」――。複数の人間がいれば、意見は違う。人と人には違いがあるからこそ、世界があり、喜びも対立もあり、そこに政治が生まれる。「世界に存在する多様な人間のあり方を否定するのが暴力であり、複数の人が一緒に生きていこうとするのが政治であり、それが脅かされることで大量虐殺を繰り返したのが20世紀だった」と宇野さんはいう。そしてH・アーレントの「人間が生まれてきたのは始めるためである」を引く。「誰かと何かを始めなければ、世の中は変わらない」「人間が自由になるためには、他の人と共に活動し世界をつくっていく。人間は何かを始めるために、生まれてきた」という。

当然、人は制約のなかで生きる。時代の制約、世界も日本も激しい状況変化のなかにある。AI・ロボットの急進展、人口減少・少子高齢社会、そのなかでの生き方も働き方も、人と人との関係性も変化していく。そのなかでの「自由」とは「平等」とは・・・・・・。

本書の素晴らしさは、そのなかに出現した思想家をじつに解り易く紹介していることだ。「トクヴィルのアメリカのデモクラシー――自国・フランスと違う貴族も平民もない平等」「マルクスの問題提起――経済発展にともなう不平等をなんとかしたい」「ロールズの正義論――平等な自由の原理、機会均等の原理、格差原理(最も恵まれない人の利益を最大化しよう)(運と選択の問題)」「自己破滅系の迷惑・自爆タイプのルソーの一般意志――自由に議論して共通の意志を共有したい、逆に全体主義思想にも連なる」「理性の人・カント――自分の頭で考え自分の責任で決める、理性で決める」「矛盾する社会のなかで止揚するヘーゲル――ルソーとカントもわかるが少しずつ自由を学び成長する。他人とどうつながるか」・・・・・・。

加えて、「選挙について、選挙制度について考える」「民主主義を使いこなすには」が講義されている。「一緒に社会を変えていこう」「未来をはじめよう」――励ましの政治学だ。


災害と生きる日本人.jpg「『震災後』ではなく『災間』を生きる日本人」から対談が始まり、日本の歴史と日本人の持つ人生観、自然観、共生する知恵を縦横に語る。7、8世紀に編まれた万葉集は知識人特有の高級な知識ではない。「民衆が発してきた声なき声であり、叫びであり・・・・・・万葉集の言の葉は深層心理、無意識下に着実に溜まっていく」「日本人が原初的な時代にもっていた心そのものを、自身の心の鏡を写すように、いつでも見ることができる」「私たちは『雑』の中に、まるで雑踏の中に身を隠すような安心感と安堵感を得ながら入りこんでいける。これが万葉集」「『人類の救済の泉』として輝き続ける万葉集」と結ぶ。

対談は縦横無尽、豊富な具体的話題・事例、知性の深い探索で面白い。「災害と鬼とヤマタノオロチ」「政治家と行政官は哲学と知性をもて」「天上世界に土足で踏み入った原子力発電の過ち」「吉田兼好の生と死を対角線上に示した三角形の生命観」「権力者をせせら笑い、突き放す『東海道中膝栗毛』(日本人の家族的"王道")」「万葉集の基底部に流れる先へ進み、つながっていく幸福観」「ウソと偽りは全く違う(ウソとアソ(遊)は同じ)、物事はウソと偽りと本当の三段階」「仏教の四恩思想、上杉鷹山の"衆生の恩"(君子は民に奉仕する義務を負う)」「万葉の時代の防人の自我の閉じ込めと皇御軍」「仙台藩に1000両貸し付けた男」「縄文時代のドングリ経済(担保と金融)」「減価償却を発明した二宮尊徳」「戦死者を"数"で認識する為政者(1人の人間を無視する勘違い)」「哲学を生んだインドの風土、不毛の大地・中国が生んだ儒教、秩序とロゴスへの信頼」「徳の名が付く天皇、武の名が付く天皇」「詩心と哲学こそが国を強くする」「政治を動かす人間には、理・知・情・欲が大事。理知と、とくに情欲の塩梅。そこに詩や歴史、哲学がある」「日本にあった歌人政治」・・・・・・。

まさに現代に活かす先人の知恵、日本人の精神。


キャッシュレス覇権戦争  岩田昭男著.jpgすさまじい囲い込み、キャッシュレス覇権戦争の大嵐が吹いている。今再び始まっている「100億円還元、ペイペイ祭り」「消費税増税にともなうポイント還元」などは最も身近なものだが、世界全体は「GAFAがすべてを支配する」「米中巨大資本の覇権争い」「狙われる個人情報」「キャッシュレス先進国に躍り出る中国」「信用スコアの衝撃」「信用格差社会」「丸裸にされる消費者、データ監視社会」「どう自分を守るか」の大攻防戦の渦中にある。クレジットカード、電子マネー、キャッシュレス化を30年追い続けた著者の率直な指摘だ。

「VISAなどクレジットカード、Suicaなどの電子マネーなど、キャッシュレス決済にペイペイの100億円還元祭りなどが加わった。しかし注目を浴びたのは高額商品の売れる家電量販店ばかりだった」「LINEペイ、楽天ペイ、ドコモのd払い、アマゾンペイ、ペイペイ、アリペイなどQRコード決済は百花繚乱で激しい囲い込みに入った」「国で進められるキャッシュレス化。2015年の日本は18.4%、韓国89%、中国60%、アメリカ45%」「国でのポイント還元とカード会社等の反発」「キャッシュレス社会はアメリカのVISAから始まった」「クレジットスコアとサブプライムローン、リーマンショックの密接な関係」「昨年11月、1日で3兆を売り上げたアリババのネット通販」「爆発的に普及した中国のスマホ、それに乗ったQRコード決済アリペイ、ウィーチャットペイ」「アメリカのクレジットスコアを"進化"させたゴマ信用とスコアの高さのインセンティブ、信用スコアと監視社会・中国」「2017年からスタートしたJスコアの6ランク」「信用スコアに参入するソフトバンク・ヤフーのペイペイ、NTTドコモのドコモレンディングプラットフォーム」「"データ経済圏"を確立したGAFA」「度重なるフェイスブックの情報流出問題」「米IT企業の行為を阻止する規制――欧州のGDPRという反撃」「個人情報保護に動くアップル」「監視社会と監視ビジネス」・・・・・・。

「自分の情報は自分で守る時代へ」――便利であると同時に、安心できるキャッシュレス決済をどう実現していくか、ドタバタしないで、考え抜いて。

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プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任、公明党前代表。前国土交通大臣、前水循環担当大臣。

現在、衆議院議員、党全国議員団会議議長、東京第12総支部長、首都直下地震対策本部総合本部長、現代中国研究会顧問など。

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