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初代の水循環担当大臣として水循環を浸透

 水の「恵み」を活かし、「災い」から国民の命を守るため、水循環全体を視野に入れていくことが大事になる。太田あきひろは、そう考えてきた。
 2014年3月に成立した「水循環基本法」に基づき、太田が初代の水循環政策担当大臣に任命された。水の総合的政策の司令塔役を担うこのポストは、太田の考えを実現していく上で大きな意味を持つものになった。水循環とは、降った雨が地下に浸透し、河川を流れ、海に至って蒸発し、また雨が降るという一連の流れ。その全体に初めて焦点を当て、今後の水政策を展開する先頭に、太田が立つことになったのだ。

 水は貴い。人の営みに多くの「恵み」を与えてくれる。しかし日本では古来、水に恵まれたということもあってその意識に乏しく、"水も空気もタダ"という時代が長く続いた。しかし今や世界的な水の争奪戦が激化している。「流せば洪水、貯めれば資源」とも言われる。水循環担当大臣の役割は、水の貴さを深く、また具体的に浸透させることだと太田は考えている。
 一方、我が国では降水量は地域的、季節的に偏っており、しかも地形が急峻なため降った雨は一気に川から海に流れる。とくに近年は、水災害が集中化、局地化、激甚化している。水の「災い」から国民の命を守るための防災・減災対策も、太田が中心的に取り組んできたことだ。

 水循環の重要性について、太田はこれまでさまざまな機会で訴えてきた。
 2014年3月には、皇太子殿下をお迎えして国連大学で開催された「世界水の日」の式典で、海外からの参加者を含む約300名を前に基調講演を行った。太田は、洪水や津波、渇水など水に関わる自然災害が頻発する我が国で、古くから「無常」や「常住」の思想が生まれたことに触れながら、独自の水文化や技術が育まれたことを紹介。とくに、「川をなだめ」「自然と折り合い」ながら発展してきた共生の治水技術や、水道から直接おいしい水を飲むことができることなど、我が国の水技術の展開を説明した上で、我が国の技術を活用して、世界の水問題解決に取り組む決意を表明した。

 また2014年6月には、水循環基本法の施行(7月1日)を前に、隅田川や神田川、庁舎での雨水利用を進めている墨田区役所などの現地を視察し、中央大学理工学部の山田正教授やミス日本「水の天使」の神田れいみさんと、東京の治水・利水の歴史や環境など幅広く意見交換・対談を行った(対談の概要参照)。

 隅田川は高度経済成長期に水質が悪化し、悪臭を放っていたが、その後、利根川や荒川の水を隅田川に導入したり、下水道整備を進めることで水質がかなり改善した。今では川を巡る観光船も多く、水辺が貴重な空間として利用されている。太田は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、東京の水辺空間の魅力を活かしていくことが大事だと考えている。五輪の主な会場となる臨海部だけでなく、川沿いも含めた空間を活かして世界に誇れる水辺空間を実現するため、さらなる水質浄化や美しい景観づくりが必要となる。

 太田は国土交通大臣、そして水循環政策担当大臣として、安全・安心で魅力ある国土づくり、地域づくりにさらに全力で取り組んでいく。

 国連「世界水の日」での太田あきひろの基調講演概要を掲載します。

2014年世界水の日の太田国土交通大臣基調講演

世界水の日開催への祝辞

○マローン国連大学学長、ジャローUN-WATER議長、そして世界各国から、本日の国連世界水の日の式典にご参加いただいた皆様に、心から歓迎を申し上げます。

○また、本式典が、皇太子殿下のご臨席のもと開催されますことを、お慶び申し上げますとともに、この地東京での開催にご尽力されました国連並びに関係者の皆様に、厚くお礼申し上げます。

○そして、我が国に未曾有の被害をもたらしました東日本大震災から、3年経ちました。この間、復旧・復興のために、世界各国の皆様から温かいご支援を頂いていることに深く感謝申し上げます。

○国連がこれまで「世界水の日」に、水と人との関わりの様々な側面に焦点をあててきたことは、大変意義あることと認識しております。今年の「水とエネルギーのつながり」も、水に関する施策を進める上で重要なテーマとして注目されるべきものと考えます。

○本日ご列席の皆様は、世界で水に係わる様々な問題に取り組まれている方々や、水問題に関心の深い方々であり、我が国の水行政を担当する立場として、お話しをする機会を得たことは大変光栄に存じます。

日本の水思想 ~無常と常住~

①水と「無常」

○我が国は、世界有数の多雨地帯であるモンスーンアジアの東端に位置し、年間降水量は約1700ミリメートルです。世界平均の約2倍であり、水資源は豊富だと思われがちです。

○しかしながら、国土が東西及び南北にそれぞれ約3000kmに及び、また、その国土の真ん中に2000mを超える脊梁(せきりょう)山脈が聳(そび)えているため、降雨量は地域的、季節的に偏っています。しかも、地形が急峻であることから、降った雨は一気に海に流れます。

○このため、水資源を津々浦々で安定的に確保することに大きな労力を費やす一方で、降雨が短時間に集中した時には、大きなエネルギーとなって洪水が発生するといった特性も持っています。

○このような水災害や地震などの自然災害が頻発する災害大国である我が国では、人の力で制御することのできない自然の力を目の当たりにして、「無常」や「常住」という思想が生まれてきました。

○「無常」とは、この世の一切のものは生成と消滅を繰り返し、絶えず移り変わっていくということを指します。台風や津波などの自然災害に一瞬のうちに奪われる命のはかなさや、これらの現象・事象と相互関係にある人の人生の有為転変から、「無常観」が生まれました。

○13世紀に、鴨長明が「方丈記」という随筆の中で、当時続けて起こった地震、洪水、渇水で多くの命が失われた悲惨な状況を災害記録として書き留めており、長明はその有様を憂い嘆き、冒頭で、この世の人と住まいを、川の流れや泡になぞらえています。
○それは「川の水は絶えることなく流れ続け、しかも過ぎ去った水が二度と戻ることはない。川に浮かぶ泡も、現れては消え、同じ所に留まることはない」としています。長明は川の有様を通じて、世の中に存在するものは絶えず移り変わっていく「無常」な存在であり、はかないものであることを言わんとしました。

②「無常」と「常住」の交差点

○一方、「無常」に対する概念として、「常住」という言葉があります。それは、変化しないで常に存在し永遠不滅であることを指します。人は、毎日の暮らしや将来の姿を考える際には、「無常」という概念を否定し、常にそうあってほしいという願望意識で「常住」を追い求めるものであります。

○このように、私たちは「無常」と「常住」の間に位置づけられ、その二つの世界の間の、定めることのできない「無限」の点に揺らぎながら生きています。日本人は厳しい自然の中で、「無常」と「常住」の間に「中庸」を見出し、長い歴史の中で経験と技術を積み重ねつつ、水との折り合い方を学び、我が国の水文化を築いてきました。

○今回のテーマである、「水とエネルギーとのかかわり」においても、「無常」の彼方に「常住」を求めるのではなく、「無常」の中に「常住」を実現すること、つまり「無常」と「常住」の交差する位置(点)を模索することで、豊かな暮らしへの道を歩んできました。

日本が誇る水技術

○このような水への思想をもとに、我が国では昔から度重なる洪水や渇水の被害を軽減するため、努力と工夫を重ねてきた結果、河川を制御しようとするのでなく、河川をなだめ、自然と折り合い、自然との共生を考えながら様々な形で技術を獲得してきました。

○例えば、今日の東京の繁栄の基礎を築いた「利根川の東遷」があります。1600年代の江戸時代初期に、もともと東京湾に注いでいた利根川が氾濫を繰り返したことから、およそ60年かけて東京を迂回するように東側に付け替えて、太平洋に直接注ぐ河川の大工事が行われました。
水の膨大なエネルギーを東京から遠ざけて、「災い」を「恵み」に転じ、新田開発や舟運、都市的土地利用を可能としました。

○また、我が国が近代化の歴史を歩み出した1868年の明治維新以降、国土発展、国力増強をしていく中で、新たな水需要を満たすために、ダム等の水資源開発施設の整備が進められました。ダムの水力発電は、戦後の復興期のエネルギー需要を支え、現在でも重要なクリーンエネルギーです。近年は、大規模な施設でなくても、身近に存在する水を利用して行う小水力発電の導入促進に取り組んでいます。

○さらに、都市用水の確保による上水道の普及により、生活環境が劇的に向上しました。女性は過酷な重労働である水仕事から解放され、社会参画が可能となるとともに、安全な水道水が乳幼児死亡率を大幅に改善しました。

○現在、我が国の水道は97%を超える普及率となっており、外国人も含め全国どこでも直接飲むことが出来る質を確保しています。東京などで高度浄水処理された水は、美味しい水と評判で、ペットボトルでも売られています。

○このような水とのかかわりは、我が国の様々な水文化としても説明することが出来ます。
▶ 水に神が宿ると考えた水神(すいじん)信仰は、雨乞い、大水・疫病防止、豊作を祈るお祭りとして、
▶ 日本人の食生活を支える米づくりは、水利用の典型であり、我が国の基盤をなす水田文化として、
▶ 水が清らかで美しい様子は、「山紫水明」という言葉に形容した風景として、
▶ 良質な水が使える恩恵は、世界遺産となった食文化として
伝承されてきています。

○しかしながら、人の営みは良いことばかりをもたらすわけではありません。戦後の急激な社会経済成長は、環境に大きな負荷をもたらし、1960年代初頭、東京のシンボルである隅田川は、水質汚濁により「死の川」となりました。
このため下水道整備に取り組んだ結果、我が国の各地の水質は飛躍的に改善し、1978年には隅田川でレガッタが行われるまでになり、また毎年夏に行われる花火大会は、日本有数の一大風物詩となっています。

○このように、下水道の普及は生活環境の改善に大きく寄与するとともに、近年では、下水汚泥や下水熱を再生可能エネルギーとして活用するなど、低炭素社会に向けた取り組みを進めています。

○そして、地球規模で起きている気候変動による影響についても考えなければなりません。最近の我が国でも災害が、局地化、集中化、激甚化しており、これまでとは異次元の現象が起きています。これらの現象がより深刻化する恐れがあり、将来を見据えつつ、防災・減災対策を強化していく必要があります。

○このため我が国では、情報通信技術を活用した観測・予測体制の整備や、既存のダムを運用しつつ、洪水調節機能強化などを行う「ダム再生」など、先進的な技術を活用した取り組みを進めています。

日本での経験を踏まえた国際貢献について

○これらの我が国の水技術は、自然と向き合い、自然から学ぶとともに、国土に働きかけながら築いてきたものであり、その過程を含め、世界での水に関する取り組みにおいても、大いに参考になるものと考えます。

○我が国はこれまで、「国連水と衛生に関する諮問委員会」や「世界水フォーラム」等国際的な議論の場や、我が国の経験と実績を活用した国際協力の取り組み、官民が連携した取り組み等を通じて、水と衛生分野、防災分野の問題解決に向けた支援を行っています。今後も引き続き、我が国の水技術を活用した支援を行い、世界の水問題解決に取り組んでまいります。

本式典への期待について

○最後に、本式典において発信される世界へのメッセージが、世界での水に対する取り組みに大きく寄与することを期待しています。

○ご静聴、誠に有り難うございました。

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