政治コラム 太田の政界ぶちかましCOLUMN
NO.193 脱炭素と電力安定供給の両立追求/再エネの拡大に国挙げ支援を!
地球温暖化対策とエネルギー問題は表裏一体の関係にある。トランプ米大統領が「パリ協定」からの離脱やエネルギー政策の大転換を図り、ロシアのウクライナ侵略、中東の戦闘など国際情勢の緊迫はエネルギー供給の激動をもたらしている。日本が脱炭素とエネルギーの安定供給の両立をいかに果たすか、きわめて重大に局面にある。そんななか、この2月、政府は「地球温暖化対策計画」と、電力や資源の中長期的な方針「エネルギー基本計画」を閣議決定した。
3年半ぶりに改定した地球温暖化対策では、2013年度比で2030年46%削減の次の温室効果ガス削減目標を設定。 2050年ネットゼロに向かうべく2035年度60%削減、2040年度73%削減を目指すとした。厳しい削減目標が産業界などに課せられることになる。
日本の排出削減の進捗目標は、2013年から2050年ネットゼロに向けて直線的に弛まず着実に進めるというものだが、世界各国に比べて最も真面目に取り組んでいるといってよい。現実に2022年度の日本の温室効果ガス排出・吸収量は約10億8500万トン(CO2換算)となり2021年度比2.3%減少、2013年度比で22.9% (約3億 2210万トン)減少となっている。地球全体では日本の排出・吸収量は全体の3%であり、排出量世界1位の中国は削減に消極的であり、2位の米国はパリ協定から脱退、欧州各国も削減計画に届いていない。世界的な大きな問題だ。
大きな課題は電力需要の方は増加が見込まれることだ。特にAI・デジタル時代の加速するなか、データセンターや半導体工場の新増設等による産業部門の電力需要は大幅に増加する。生成AIによりデータセンターの電力需要は増加するが、これがないとデジタル化社会は進まない。熊本、北海道などで展開される半導体製造に必要な電力は膨大だし、鉄鋼の石炭を活用した高炉から電炉による生産への転換、EVの増加でも電力需要が増加する。成長産業には脱炭素電源が不可欠なのだ。省エネが進んでも2040年には現在より最大2割増になると推定される。
この大幅な電力需要増に対応するためにどうするか。まずは徹底した省エネ対策だ。省エネの技術開発を進め、工場・事務所の省エネ設備の更新や家庭向け高効率給湯器、外断熱をはじめとして住宅等の省エネ化を促進する。日本全体のCO2排出量の約15%を占めるのが家庭部門、その削減には住宅の省エネ化が鍵となる。光電融合技術、省エネ型半導体の開発など、省エネのあらゆる開発を総動員することが不可欠だ。
NO.192 インフラの老朽化対策に全力上げよ/下水管の点検・補修の技術開発を
衝撃を与えた埼玉県八潮市の県道陥没・トラック転落事故から1か月が経過した。当初直径10m程度だった穴は新たな陥没などで最大幅40m、深さ15mに拡大し、住宅のすぐ前まで迫った。陥没が広がる危険があり、県は一時周辺住宅に避難を求め、12市町村の約120万人に下水道利用の自粛、節水への協力要請をした。2月中旬に、下水道(洗濯や入浴)の使用自粛や避難地域を解除したが、復旧工事は今も続いている。原因は下水道管の破損。管径4.75m、1983年に整備されたもので、3年前に調査したが補修が必要な腐食は確認されなかったという。
国土交通省は全国の口径2m以上など同様の大規模な下水道管路の緊急点検(約420km)を要請。管路の腐食などの異状が3か所で確認され、対策を施した。更に2月21日には、地下管路の点検、技術開発、リスク情報の共有など施設管理のあり方を検討する有識者委員会を開始した。地下の空洞化をどう防ぐか、地下管路の点検・補修の強化をいかに図るか、具体的行動に踏み出さなければならない。
道路の陥没は全国で年間約1万件。東日本大震災、熊本地震など大規模地震を除くと、管路施設に起因した道路陥没件数は、約2600件程度(2022年)。道路陥没の深さ50cm以下が86%、50~100cmが12%、100cmを超えるものは2%。浅いものが圧倒的に多い。記憶にある2016年の博多駅前道路陥没事故も、この2月の名古屋市の陥没事故も工事中の道路陥没で管路施設に起因したものではない。
老朽化を見ると、管路施設から40年を経過すると、陥没件数、発生割合は急増する。50年位が目安となる。下水の流路の勾配が著しく変化する場所では、硫化水素の発生により腐食の恐れが大きい。下水道の管路は全国で現在49万kmある。50年経過した管路は2022年に3万km(7%)だが、10年後の2032年に約9万km、20年後の2042年には約20万kmにはね上がる。今後50年を経過した管路が急増していく。どのように対応していくのか、メンテナンス、老朽化対策が不可欠となる。点検の頻度、ドローンなど点検技術の開発、人手不足時代での技術者・職員の確保、補修技術の研究・開発など、官民あげて課題に取り組むことになる。今回の緊急点検では、マンホールの目視点検、管口カメラによる点検を行なったが、路面下の空洞を電磁波を使って探査するなど、あらゆる面での更なる技術開発が必要となる。私が国交大臣であった約10年前、都内で補修工事の現場を視察した。地面を掘り起こさずに、下水道管のリニューアルができる革新的な技術「SPR工法」を目の当たりにして、世界に誇る技術に感動した。
NO.191 「介護」「認知症」急増への対応急務/社会で支える体制への「勝負の10年」
今年は昭和100年、戦後80年の節目の年。2025年は団塊世代が全て75歳以上となり、空き家が全国で約950万戸、認知症高齢者数が471万人、軽度認知障害(MCI)高齢者が564万人と推計されている。認知症は合わせると1000万人を超えることになる。そして10年後の2035年、団塊世代が全て85歳以上となり、団塊ジュニア世代は60歳を超える。いよいよ高齢社会の険しい山に向かうことになる。まさに介護の課題、認知症の課題にどう対応するか――。制度の改革、各人・各家族はどう備えるか。この10年は「勝負の10年」ということになる。
介護の現状はどうか。昨年8月時点で、介護が必要な要介護・要支援の認定者数は約718万人に及ぶ。65歳以上に占める割合は約20%となる。75歳以上になると要介護認定率は2倍以上になるといわれており、今後、要介護者が急激に増えると見込まれる。「すべての人が介護に直面する」「介護は急に訪れる(脳梗塞、転倒など)」「後遺症が残り、常時車椅子など家族の生活は一変する」ことを、健康の時から考えねばならない。高齢者の貯蓄格差は大きいし、しかも、単身世帯が増えており、頼れる人がいるか否かで明暗が分かれてしまう。そうした多様かつ深刻な介護急増の現実を直視し、備えに全力を上げるべき時が今だ。
ところが訪問介護をはじめとして人手不足が進んでいる。介護人材不足で介護事業所の倒産・休廃業が増え、2023年は過去最多。ヘルパーの高齢化、公務員ヘルパーの欠如、介護保険料の地域格差も大きい。介護報酬の引き上げ、介護従事者の処遇改善、医療行為ができる介護福祉士の拡大をはじめ、社会全体で介護を支えるための政策を財源も含めて総動員しなければならない。まさに要介護者急増に対する「勝負の10年」だ。
認知症高齢者の急増も大きな課題だ。今年、認知症高齢者数が471万人、MCIも加えると1000万人を超える。70歳代後半では10人に1人だが、80歳代前半になると10人に2人に増え、85歳からは実に10人に4人と急増する。90代前半になると10人に6人という。アルツハイマー型認知症が、脳の老化現象の現れと理解すれば、95歳以上になると10人に8人が認知症というのもよくわかる。
NO.190 人手不足時代は経済・社会の大変化/賃上げ、高付加価値化が重要!
「人手不足」時代がやってきた。「人手不足時代に個人と企業はどう生きるか」「私たちは働き方をどう変えるべきか」が本格的に問われている。2024年問題は、建設や運送業などの深刻化する人手不足問題。2025年問題は、団塊の世代が全て75歳以上となり、認知症が約700万人、空き家が全国で約950万戸となる問題だ。
現在、論議されている「年収の壁(103万、106万、130万円等)」――。「壁があるために働き控えが発生している」という問題だが、「壁を超えると所得税が発生する」「壁を超えると扶養控除、配偶者特別控除がなくなる」「壁を超えると社会保険料の負担が生ずる」という直接の問題だけでなく、背景には人口減少・少子高齢社会、人手不足時代において、「個人と企業はどう生きるか」「働き方をどう変えるべき」かという根源的、構造的な問題がある。ポピュリズム的妥協ではない深く広範な熟議を望むものである。
人手不足といっても一様ではない。冨山和彦氏は近著「ホワイトカラー消滅」のなかで、人手不足はローカル産業で生じ、グローバル産業では人余りが顕著に生ずることを指摘する。グローバル産業では、デジタル化の進展で、これまでの「少しでも良い大学を出て漫然とホワイトカラーサラリーマンになる」「雇用を守るために従業員に低賃金を我慢させ、余剰人員を抱えたまま、低価格戦略、低付加価値労働生産性戦略をとる」という経営はこれから通用しない。「競合他社にはできないコアコンピタンスによって、戦うフィールドと戦い方を選べば、高付加価値ビジネスモデルで戦っていける」「漫然とホワイトカラーの人は淘汰される」「経営はDXとCXで変えられる」と言う。キーワードは高付加価値労働生産性。人手不足時代の働き方は、コペルニクス的大転換が求められていると鋭く言う。
NO.189 政治の信頼回復に全力を!/日本再起動、課題解決に知恵を結集
「与党過半数割れ」「立民大幅増、国民躍進」「政権枠組み流動化も」――10月27日投開票の衆院選は厳しい審判が下された。自民党は「政治とカネ」の問題を受けて大敗し、自公政権は目標の過半数(233議席)に届かなかった。自民党は政治資金問題があった前議員らを非公認とする対応をとったが、及び腰の印象を与えたうえ、選挙戦最終盤には、非公認候補が代表を務める党支部にも公認候補向けと同じ2000万円を支給したことが批判を浴び、逆風が強まった。街の現場でも、あの最後の3日間、一気に不信と怒りの空気が広がったことを実感するほどだった。庶民の現場と苦楽を共にする政治家、その声を代弁する「代議士」の原点が揺らぎ、怒りの火となったことをよくよく銘記しなければならない。
「信なくば立たず」――。政治改革は政治家改革である。公明正大な政治、矜持を持つ政治・政治家を再建することだ。直ちにそれを今後の国会でまず行い、「信頼回復」に全力を上げなければならない。とくに、「政治とカネ」については、世間の常識と政界の常識がズレている。透明性、会計処理、人との付き合いに至るまで、世間の常識とのズレに気付き改めることだ。
今回の衆院選は、「政治とカネ」一色となったが、日本の今行うべき課題は、緊急性をもつものばかりだ。選挙中に各社が行った世論調査、「あなたは何を最も重視して投票しますか」でも、国民の関心事は明確だ。例えば共同通信社の10月19、20日の調査では最も多いのが「景気・雇用・物価対策」で57.9%、次に「年金や社会保障」が39.1%、「子育て・少子化」が20.5%、「外交・安全保障」が16.5%、「政治のカネ」の問題は19.1%となっている。「防災対策」6.6%、「原発・エネルギー」6.2%と続いている。これらにはまさに長期デフレ、人口減少・少子高齢社会の進行、災害の頻発等による日本と地方の衰退への不安が現れている。
「日本再起動の10年に」――。私は2020年初頭から願望してきた。しかし、コロナ禍により3年間は阻まれた。そして昨年来、やっと動かなかった経済が動き出した。この20年余り、「賃金は上がらない、物価は上がらない、金利は上がらない」ものだというデフレの3つのノルムにあった日本と日本人の意識が、「物価が上がる」「賃金が上がる」ように動き始めた。2年続けて賃金が上がった。いよいよ来年4月こそ「物価を上回る賃金上昇」のホップ、ステップ、ジャンプの3年目に入る。3回続けば本物になり、デフレは完全脱却となる。最低賃金上げの流れもつくっている。賃上げが大変な中小企業への様々な支援を公明党はとくに具体的に進めてきた。半導体をはじめ新たな牽引力産業にも政府上げて推進している。ここが今後の政治の最も重要なことだ。