政治コラム 太田の政界ぶちかましCOLUMN
NO.197 就職氷河期世代への粘り強い支援を/「就労」「年金」「社会参加」の拡充が必要
2024年の日本人の出生数がついに70万人を初めて切り、約68.6万人となったことが発表され衝撃を与えた。実に前年より4.1万人の減少、一人の女性が産む子どもの数の指標である合計特殊出生率も過去最も低い1.15となっている。一方、高齢者は増加、今年2025年は団塊世代が全て75歳以上となる節目の年だ。この団塊の世代は戦後直後の第1次ベビーブーム、1947年から1949年生まれを言うが、1949年生まれは約269万人だ。いよいよこの団塊世代が10年後は85歳以上となるが、日本の医療・介護・社会保障はますます深刻となる。そして最近の年金法改正論議等で大きな課題となったのが、就職氷河期世代の抱える問題。実にこの世代が第2次ベビーブームの人たちで、この世代が不遇のために、第3次ベビーブームのヤマが日本にできなかったのだ。
日本の難しさは、人口減少をもたらす出生率の減少、高齢者の増加、そして社会の支え手である働く世代の減少という、それぞれの要因の異なる3つの課題の同時進行にある。人口問題は政治・経済・社会に根底から影響を及ぼす。都市と地方、街づくりも、教育も、企業や経済、人手不足、消費マーケットも全て影響される社会の構造変化の基底を成す。常に注視し、対策を続けなければならない。
「次元の異なる少子化対策」として「こども未来戦略方針」を政府が打ち出したのは、2年前の2023年6月だ。「児童手当の所得制限撤廃、高校生まで支給」「出産費用の保険適用の検討」「子ども誰でも通園制度の創設」「産後パパ育休給付金引き上げ」などを示し、財源確保について「徹底した歳出改革を行い、消費税など増税を行わない」とした。真剣に進めてほしい。しかしこの「こども未来戦略方針」で強調したのは、「2030年代に入るまでが少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンスだ」という危機意識と、社会全体の意識改革だ。
それは「非婚」「晩婚」「晩産」「少産」の4つの壁を打ち破ることだ。子育て支援策はその一部に過ぎない。「非婚」については、若い世代の「雇用の安定、所得増加(賃上げ)」「結婚支援(出会い)」。「晩婚」「晩産」は日本の社会に根強い「仕事か、子育てかの選択」「出産退職による収入低下」の壁を破り、「共働き・共育て」社会の考えを徹底することがポイントとなる。「男性稼ぎ手モデル」から「共働き・共育てモデル」にすることで、スウェーデンなどは出生率が上がっている。「産後パパ育休」もその一つで、企業や社会全体の大きな意識改革がきわめて重要だ。力強い推進を求めたい。
NO.196 賃上げへの強い経済戦略こそ必要/「生命」「社会」のインフラ再建は急務!
参院選は自公与党が過半数割れという結果をもたらした。衆参ともに過半数を制する勢力がなくなり、政治の流動化が危惧される。経済再建、地方創生、トランプ関税など外交交渉をはじめ、安定した基盤をもつ政治勢力があってこそ、内政も外交もカジ取りができるが、それが難しい。「ポピュリズムとSNS」が席捲する参院選だったとの評が多いが、今後、その傾向は続くと見られる。
「ポピュリズムは、デモクラシーの後を影のようについてくる」(英国の政治学者マーガレット・カノヴァン)というが、いつの間にか多くの個人情報が集積され、「世論は操作」され、「フェイクに誘導」されるデジタル・ポピュリズムが加わってきている。その背景には、世界各国とも生活不安と格差拡大、移民・難民問題等がある。不安と不満がその温床となると言われるが、それだけでなく、「推し」と「いいね」の承認欲求と「エコーチェンバー」が結びつく複雑系が加わっている。
参院選で問われるべきは「この国をどうしたいか」と「未来に責任」であったはずだ。「安全・安心の勢いのある国づくり」――。私がめざしてきたごく当たり前の主張だ。直面しているのは「給付か減税」かというテーマではなく、「防災・減災の安全な日本」「医療・介護・子育て等の安心の日本」「長いデフレを脱却して、ポジティブな経済への勢いのある日本」をめざして進むことこそ政治の役割だと思う。
「勢いのある国づくり」――。それは賃上げをもたらす成長戦略だ。日本は世界に類例のない長期にわたるゆるやかなデフレに沈んできた。しかし今、「賃金は上がらないものだ」「物価は上がらないものだ」「金利は上がらないものだ」という3つのノルムを脱し、円安等も影響して物価高騰に苦しんでいるものの、賃金が3年連続で上がるようになった。「デフレからインフレ」へ、「人手余りから人手不足」へという大きな構造変化を直視し、力強い経済への大きなチャンスを迎えている。「物価を上回る賃金上昇」への成長戦略を総動員することこそ「勢いのある日本」の柱だ。
NO.195 SNS社会こそ人間力アップの教育!/デジタル教科書への慎重な分析を
急進展するAI・デジタル社会、広がるSNS。チャットGPT、量子コンピューターなどテクノロジーの進展は加速度を増している。一方で、サイバーテロ、闇サイト、フィッシング詐欺等も横行し、AI・デジタル社会の脆弱性、負の側面を露呈している。こうしたなか「教育」では、GIGAスクールを更に進めて「デジタル教科書」の拡大が大きな議論となり、オーストラリアでは昨年11月、16歳未満の子どものSNS利用を禁止するなど、子供のSNS規制の議論が世界で本格化している。「デジタル社会と子どもの教育」の問題は、「教育の深さが日本の未来を決定する」ことからいって、現在の日本が直面している最重要問題の一つである。
デジタル教科書は、紙と同じ内容をデジタル化したもので、2019年度から制度上使用できるようになった代替教材。24年度から小中学校の英語と算数・数学の一部で導入されている。中央教育審議会の作業部会は、紙と同様にデジタル教科書が「正式な教科書」として位置づけることを念頭に意見を聴取しており、今秋までに結論をまとめ、来年の通常国会で必要な制度改正を行うことをめざしている。現在は英語のデジタル教科書が100%の学校で用いられ、音声、チャンツ、辞書、デジタルノートなどでデジタルが使われている。算数・数学は約50%の学校で用いられ、回転図形や確率、速さ・容積のシミュレーションなどで進められている。
この英・数については、使っている生徒からは「授業内容がよくわかる」という声があり、「主体的な学び」「対話的で協働的な学び」を行っているとの回答が寄せられていると言う。英語における音声とか、数学における三次元空間理解や図形拡大機能など、その面において「理解が進む」という。しかし、数学の立体図形の回転ばかりが強調されているとの声もあり、英・数のわずか6年の実証でデジタル教科書の拡大が図られるわけではない。更なる検証・調査の蓄積・分析が必要だ。デジタル教科書推進WGが中間まとめで、「教育課題・授業全体として、紙・デジタル・リアルを適切に組み合わせてデザインすることが重要」、「紙かデジタルかの『二項対立』ではなく、どちらの良さも考慮し、実態に応じて適切に取り入れ生かしていくべき」と言い、紙とデジタルのハイブリッドな形態の教科書イメージを示しているが、足して二で割る妥協案にならないことが重要だと思う。
NO.194 南海トラフ地震への備え強化を/津波対策にハード、ソフト総動員!
東海沖から九州沖を震源域とするマグニチュード(M)9級の「南海トラフ地震」について、政府の中央防災会議の作業部会は3月31日、新たな被害想定をまとめた報告書を公表した。津波や建物倒壊により最悪のケースで、死者数は最大29.8万人、全壊焼失棟数は235万棟、経済的な被害・影響額は292.2兆円に上る。海岸堤防整備など対策は進んだものの2012年~13年の前回想定(32.3万人、238.6万棟、237.2兆円)から微減にとどまった。
南海トラフ地震は静岡県沖から宮崎県沖にかけた海溝型地震。東海、東南海、南海地震の単独、2連動、3連動(日向灘を加えれば4連動)の巨大地震だ。この南海トラフ沿いでは、100~150年の周期で、大規模地震が繰り返し起きている。直近では1946年の昭和南海地震(M8.0)、1944年の昭和東南海地震(M7.9)、その前は1854年の安政東海地震(M8.4)、そのわずか32時間後に安政南海地震(M8.4)が起きており、注目すべきはその周期性と各地震の連動性だ。今後30年以内の発生率は「80%程度」と高く、昨年8月には日向灘でM7.1の地震が起き、地震への備えを求める初の「臨時情報(巨大地震注意)」が出されたところだ。
私自身、対策を進めてきたという実感があるのに、被害想定が微減に止まったのはなぜか。それは津波の浸水などの「想定の見直し」と、津波から「逃げる」ことの想定に幅があること、そして残念ながら防災対策推進計画の目標が達成されていない(住宅の耐震化等)ことにある。「想定の見直し」は、「津波の浸水想定、震度の見直し(地質、地形の高精度化で深さ30cm以上の浸水域が3割増など)」と、今回新たに「震災関連死」を考慮したこと、さらに「時間差をおいて発生する地震の被害(いわゆる半割れ)の複数パターンを組み合わせた」ことだ。より詳細に分析しているわけで、これに基づいた新たな対策推進基本計画を今夏に作る予定だ。
防災対策は進んできたのか。海岸堤防の整備率は約39%(平成26)から約65%(令和3年)、住宅の耐震化率は約79%(H20)から約90%(R5)、災害拠点病院等の耐震化率は約89%(H29)から約95%(R4)、公立学校の耐震化は現在99.9%ができている。液状化のハザードマップの公表率は約21%(H30)から約100%(R3)、住宅の防災意識向上につながる訓練を実施した市町村の割合は約79%(H30)から約86%(R6)、企業のBCP策定率は大企業で約54%(H25)から約76%(R5)となっている。この10年で進捗していることがわかるが、地震の切迫度を考えると更なる取り組みの加速が不可欠だ。
NO.193 脱炭素と電力安定供給の両立追求/再エネの拡大に国挙げ支援を!
地球温暖化対策とエネルギー問題は表裏一体の関係にある。トランプ米大統領が「パリ協定」からの離脱やエネルギー政策の大転換を図り、ロシアのウクライナ侵略、中東の戦闘など国際情勢の緊迫はエネルギー供給の激動をもたらしている。日本が脱炭素とエネルギーの安定供給の両立をいかに果たすか、きわめて重大に局面にある。そんななか、この2月、政府は「地球温暖化対策計画」と、電力や資源の中長期的な方針「エネルギー基本計画」を閣議決定した。
3年半ぶりに改定した地球温暖化対策では、2013年度比で2030年46%削減の次の温室効果ガス削減目標を設定。 2050年ネットゼロに向かうべく2035年度60%削減、2040年度73%削減を目指すとした。厳しい削減目標が産業界などに課せられることになる。
日本の排出削減の進捗目標は、2013年から2050年ネットゼロに向けて直線的に弛まず着実に進めるというものだが、世界各国に比べて最も真面目に取り組んでいるといってよい。現実に2022年度の日本の温室効果ガス排出・吸収量は約10億8500万トン(CO2換算)となり2021年度比2.3%減少、2013年度比で22.9% (約3億 2210万トン)減少となっている。地球全体では日本の排出・吸収量は全体の3%であり、排出量世界1位の中国は削減に消極的であり、2位の米国はパリ協定から脱退、欧州各国も削減計画に届いていない。世界的な大きな問題だ。
大きな課題は電力需要の方は増加が見込まれることだ。特にAI・デジタル時代の加速するなか、データセンターや半導体工場の新増設等による産業部門の電力需要は大幅に増加する。生成AIによりデータセンターの電力需要は増加するが、これがないとデジタル化社会は進まない。熊本、北海道などで展開される半導体製造に必要な電力は膨大だし、鉄鋼の石炭を活用した高炉から電炉による生産への転換、EVの増加でも電力需要が増加する。成長産業には脱炭素電源が不可欠なのだ。省エネが進んでも2040年には現在より最大2割増になると推定される。
この大幅な電力需要増に対応するためにどうするか。まずは徹底した省エネ対策だ。省エネの技術開発を進め、工場・事務所の省エネ設備の更新や家庭向け高効率給湯器、外断熱をはじめとして住宅等の省エネ化を促進する。日本全体のCO2排出量の約15%を占めるのが家庭部門、その削減には住宅の省エネ化が鍵となる。光電融合技術、省エネ型半導体の開発など、省エネのあらゆる開発を総動員することが不可欠だ。