政治コラム 太田の政界ぶちかましCOLUMN
NO.191 「介護」「認知症」急増への対応急務/社会で支える体制への「勝負の10年」
今年は昭和100年、戦後80年の節目の年。2025年は団塊世代が全て75歳以上となり、空き家が全国で約950万戸、認知症高齢者数が471万人、軽度認知障害(MCI)高齢者が564万人と推計されている。認知症は合わせると1000万人を超えることになる。そして10年後の2035年、団塊世代が全て85歳以上となり、団塊ジュニア世代は60歳を超える。いよいよ高齢社会の険しい山に向かうことになる。まさに介護の課題、認知症の課題にどう対応するか――。制度の改革、各人・各家族はどう備えるか。この10年は「勝負の10年」ということになる。
介護の現状はどうか。昨年8月時点で、介護が必要な要介護・要支援の認定者数は約718万人に及ぶ。65歳以上に占める割合は約20%となる。75歳以上になると要介護認定率は2倍以上になるといわれており、今後、要介護者が急激に増えると見込まれる。「すべての人が介護に直面する」「介護は急に訪れる(脳梗塞、転倒など)」「後遺症が残り、常時車椅子など家族の生活は一変する」ことを、健康の時から考えねばならない。高齢者の貯蓄格差は大きいし、しかも、単身世帯が増えており、頼れる人がいるか否かで明暗が分かれてしまう。そうした多様かつ深刻な介護急増の現実を直視し、備えに全力を上げるべき時が今だ。
ところが訪問介護をはじめとして人手不足が進んでいる。介護人材不足で介護事業所の倒産・休廃業が増え、2023年は過去最多。ヘルパーの高齢化、公務員ヘルパーの欠如、介護保険料の地域格差も大きい。介護報酬の引き上げ、介護従事者の処遇改善、医療行為ができる介護福祉士の拡大をはじめ、社会全体で介護を支えるための政策を財源も含めて総動員しなければならない。まさに要介護者急増に対する「勝負の10年」だ。
認知症高齢者の急増も大きな課題だ。今年、認知症高齢者数が471万人、MCIも加えると1000万人を超える。70歳代後半では10人に1人だが、80歳代前半になると10人に2人に増え、85歳からは実に10人に4人と急増する。90代前半になると10人に6人という。アルツハイマー型認知症が、脳の老化現象の現れと理解すれば、95歳以上になると10人に8人が認知症というのもよくわかる。
認知症とは、認知機能が障害を受け、脳の神経細胞が壊れて記憶などの認知機能が低下し、日常の生活に支障をきたすようになった状態だ。アルツハイマー型認知症、血管性認知症、これにレビー小体型認知症、前頭側頭型認知症を加えると92.4%になる。この中で圧倒的多数を占めるのがアルツハイマー型認知症で67.6%に及ぶ。しかもアルツハイマー病の一番のリスク・ファクターは年齢であるゆえに、老年期のアルツハイマー型認知症だけが増えるが、脳の老化現象の現れだと理解すると、「認知症は病気でない」(奥野修司著)と言えることになる。「認知症になったら理性や人格が壊れ、何もわからなくなってしまう」「認知症になったら終わり」では断じてないということだ。
公明党が推進してきた「認知症基本法」が超党派で2023年に成立、これに基づき、昨年12月に政府は認知症施策基本計画を閣議決定した。この基本計画のポイントは「認知症の人を含めた国民一人一人がお互いを支え合いながら共生する活力ある社会(共生社会)の実現を推進すること」――。まさに共生社会の実現をめざす上で「新しい認知症観」を打ち出していることだ。「認知症で何もわからなくなってしまう」「終わり」ではないし、相応の「仕事もできる」のだ。それを踏まえて、都道府県と市町村で認知症施策推進計画を策定(努力義務)をする。その計画を認知症の本人と家族の声を聞き、それを起点につくる。とくに本人の声の反映が特徴だ。そのうえで国民の理解、バリアフリー、社会参加など基本的施策を推進することになる。そのためにも、自治体で関係機関との連携や相談業務を担う「認知症地域支援推進員」らが中心になって、認知症の方の相談に乗る「ピアサポート活動」や、体験を共有する「本人ミーティング」の取り組みを進めていく。
認知症といえば、「周辺症状」といわれる「徘徊」「物盗られ妄想」「暴言・暴行」が深刻な問題とされるが、先述の奥野修司氏によれば、これらは人間関係のズレから生まれたものがほとんどで、改善・軽減ができることを実例をもって紹介している。この周辺症状は、まさしく「病気」の症状ではないということだ。
認知症急増という現実に対し、「新しい認知症観」に立つことの大事さ、国民の意識変革が急務となっている。