政治コラム 太田の政界ぶちかましCOLUMN
NO.187 南海トラフ地震への更なる備えを!/30m超える津波にハード・ソフト対策
この8月、かつてない猛暑に襲われた日本列島は、日向灘地震、東北に上陸した台風5号による記録的大雨、お盆の帰省・観光を大混乱させた台風7号襲来、更に10号の列島縦断という災害に見舞われた。気象変動の今、災害列島日本の防災・減災にはさらなる強化が必要となる。
8月8日、日向灘を震源とするM7.1の地震が発生、宮崎県日南市では震度6弱、宮崎市などで震度5強を観測した。日向灘を震源とする地震で震度6弱以上を記録するのは1919年以降で初めて、M7以上は1984年以来の規模だ。津波も発生、宮崎港では最大50cmを観測した。日向灘は、南海トラフ地震の監視領域内で、M6.8以上だったことから、評価委員会が開かれた。そこで南海トラフ地震における大規模地震の発生可能性が、平常時と比べて相対的に高まっていると判断され、備えを呼びかける「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表された。2019年の運用開始以来、初めてのことで、各テレビ画面でも常に注意喚起が告知された。これを受けて、各自治体では改めて備えの確認が行われることになった。
政府は15日、「発生から1週間、想定震源域で異常は観測されなかった」として、「臨時情報」は終了した。対象の29都府県707市町村に備えの再確認を求めてきたが、高知県など4県24市町村で139箇所の避難所を開設(読売新聞調べ)、また備蓄の確認、入院患者の上層階への移動など様々な協力をいただいた。大事なことは国民がこの期間に家具の固定や耐震診断、避難経路の確認など地震への備えをすることだ。人間には「現状維持バイアス」「自分だけは助かるという楽観バイアス」があり、なかなか動かない。災害対策は「自分ごと」と捉えることが大切だが、今回も「家具の転倒防止対策の確認をした」は8%に止まったという(東大総合防災情報研究センターの調査)。「突然、臨時情報が出ても何をしたらいいかわからない」「宿泊のキャンセル、物資の買い占めで困った」との声も寄せられており、情報発信のあり方と、日頃からの防災対応の徹底の仕方という課題が浮き彫りにされた。更なる工夫が必要だ。
日向灘は、南海トラフ地震の震源域の西の端だ。今回は、翌日の9日夜、南海トラフの東側に位置する神奈川県でM5.3の地震が発生したことから、南海トラフ地震への不安が更に広がった。南海トラフ沿いでは、100~150年の周期で大規模地震が繰り返し起きている。フィリピン海プレートの沈み込みに伴うプレート境界型の巨大地震だ。直近では1946年の昭和南海地震(M8.0)、1944年の昭和東南海地震(M7.9)、その前は1854年の安政東海地震(M8.4)、その約32時間後に発生した安政南海地震(M8.4)がある。それ以前は1707年、東海道沖から南海道沖を震源域として発生した宝永地震(M8.4~8.9)がある。注目すべきは、周期性。そして東海・東南海・南海、それに日向灘を入れた「連動」が特徴だ。
南海トラフ地震で脅威となるのは津波だ。予想される最大は、高知県で34m、静岡県で33m、東京都の伊豆諸島、小笠原諸島で31m、 7~8階建てのビルの高さに相当する。更に問題となるのは、津波の到達時間がわずか数分という海岸地域が多いということだ。防災・減災、国土強靭化を柱に掲げた私が国交大臣の時も、津波対策に全力を上げた。防波堤の強化、海岸沿いを走る高速道路の高さを確保するとともに、逃げて駆け上がれる場所をつくった。津波避難タワーを造る、逃げる"命の山"を確保する、できない所は歩道橋を拡大・強化して津波を避けるように工夫した。高台や山への駆け上がる訓練を日常化する・・・・・・。ありとあらゆる手段を使い、この10年、各市町村での津波対策は進んでいる。
南海トラフ地震防災対策推進地域を中心に、全国では既に550棟の津波避難タワーの整備が進められており、堅固な既存の中・高層建物を一時的な避難のための施設として利用する津波避難ビルの指定も約15000棟近くにのぼる。また、道路の高架区間等への避難施設の設置が、約800箇所を目標に進められ、住民の避難のみならず緊急車両等の通行の早期確保にも寄与する高規格道路のいわゆるミッシングリンクの解消も、全国約200区間で進められている。さらに、避難が難しい保育園・幼稚園や老人ホームの高台移転も図られている。海岸堤防については、倒壊による地震後の津波の浸水を防ぐため約3,500kmの堤防耐震化が進められており、これまで約2,300kmで整備を終えている。
危機管理の世界では、「憂いなければ備えなし」という。行政はもちろん企業や国民ひとりひとりが現状を正しく認識し、ハード・ソフトの両面からの更なる対応が求められる。