政治コラム 太田の政界ぶちかましCOLUMN
NO.188 本「読まない」が6割に急増/「読解力」「共感力」「想像力」を育む読書を!
「月に1冊も読書しない」が6割超に急増――。文化庁が9月17日に公表した2023年度の「国語に関する世論調査」でそんなデータが明らかになった。2008年度から5年ごとに行われる調査で、1か月に大体何冊ぐらい読んでいるかとの問いに、「読まない」と答えた人が62.9%、 18年度の47.3%から15.3ポイント上昇した。2008年度46.1%、2013年度は47.3%とほぼ横ばいとなっており、今回大幅に増えたことがわかる。「1、2冊」が27.6%、「3、4冊」が6.0%だった。男女の差はなかったという。
読書量について、「以前より減っている」と答えた人は69.1%で、前回から1.8ポイント増えている。一方で、本を読まない人にSNSやインターネットで記事などの情報を読む頻度を聞いたところ、「ほぼ毎日」との回答が75.3%あった。「読書離れ」が全世代で進んでいる一方、「本以外の文字・活字離れ」はそれほど進んでいない。以前は、「仕事や勉強が忙しくて本を読む時間が少ない」という人が多かったが、現在はスマホやタブレット等によって読書時間が奪われていることが明らかになったわけだ。
最近、「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」(三宅香帆著)がベストセラーとなっているが、三宅さんは「読書離れの原因は日本人の『長文離れ』にある」「ショート動画や画像を投稿するSNSが爆発的に流行し、スマホで文脈のない短文や動画・画像の情報を得ることに慣れてしまった」と「長文離れ」を指摘する。
同著で三宅さんは「読書には、自己や社会の複雑さに目を向けつつ、読者が予期していなかった展開や知識や教養、歴史の文脈性を得ることができる」とする。しかしネットは「情報を求め、自分の欲しい知りたいことだけを知る」となる。そこでは「読書はノイズ(関心のない情報)」なのだと言う。だから短い情報を求め、「長文離れ」となっているのだ。
それは「タイパ・コスパ」の風潮にもリンクするし、フェイク情報に踊らされる危険性にも、「いいね」を求める同調性にも連なる根深い問題であることがわかる。読書離れ、読書習慣の喪失は深刻な事態を招く危機にある。
読書は、身近では得られない幅広い知識を得ることだけでなく、思考力や他者との共感力、更には創造力や想像力を涵養し、人格形成に大きく影響を及ぼす。一冊の出会いが人生を大きく変えることもある。しかし、スマホ・SNSのデジタル社会への進展は加速する。
衝撃を与えた「AI vs 教科書が読めない子どもたち」の著者である数学者の新井紀子さんは、「AIは数学の言語に置き換えた計算機。私たちの知能の営みは全てを論理と確率、統計に置き換えることはできない。AIに決定的に欠けているのは『意味』を記述する方法がないことだ」と指摘する。さらに現在の日本の中高生を調査すると、「中高生の多くは教科書を正確に理解する『読解力』を獲得していない」という驚愕の実態が判明したという。そして読解力を得るために「RST(リーディングスキルテスト)」という世界にないプロジェクトに踏み込んでいる。
米国の神経科学者メアリアン・ウルフは、本を「深く読む」ことの重要性を指摘する(「デジタルで読む脳×紙の本で読む脳」)。そして「紙の本は『深く読む脳』を育むが、デジタルで読む脳は連続で飛ばし読み、斜め読みになり、文章全体ですばやくキーワードを拾い、結論を急いでしまう。短絡的で真の理解ができない」と言う。コスパ・タイパ時代を反映し、さらに加速することになるのだ。さらに、見る・聞く・話す・嗅ぐ等の遺伝子が、人間には遺伝子的にプログラムされているが、文字を読むための遺伝子は備わっておらず、年代に合わせた大人・親からの忍耐強い文字教育があって初めて「読む脳」「深く読む脳」の回路が育っていく。とくに初等教育が大切だと言う。
ツイッターで育った世代は、難解な文構造や比喩には苦労し、離れていく。書くことも劣化し、難しい散文にはなじみが薄くなり、「認知忍耐力」「認知的持久力」を獲得できないことになる。ただしデジタル化は必然とするならば、「読み書き能力ベースの回路(とくに子ども時代)」と「デジタルベースの回路」の両方の限界と可能性を理解し、「バイリテラシー読字脳の育成」を提唱している。著作表題の「X」は掛け算のことだ。
「スマホ脳」「ストレス脳」などのベストセラー作者アンデシュ・ハンセンは、「スマホは私たちの最新のドラッグである(報酬中枢を煽る)」「スマホの便利さに溺れてはているうちに脳が蝕まれていく。うつ、睡眠障害、記憶力・集中力の減退、学力低下、依存......」「インターネットは深い思索を拡散してくれない。表面をかすめて、次から次へと進んでいくだけだ」と警告を発し続けている。
AI・スマホ・SNS時代、デジタル時代の加速するなか、「読書」の重要性は限りなく大きい。「読解力」だけではなく、「共感力」「創造力」「想像力」「フェイクニュースの犠牲を避ける推論・思考力」「洞察力」を育てていかなければ、AI時代はディストピアになりかねない。「若者の読解力が劣化している」「デジタル社会が、刺激を常に求め、注意力、集中力を散漫にしている」「加速するタイパ・コスパ社会」は既に眼前にある。
「読み聞かせ運動」「朝の10分間読書運動」「産後すぐの母子に絵本を送るブックスタート運動」「早寝・早起き・朝ごはん運動」「文字・活字文化の普及・啓発運動」「減少する書店への支援(万引き防止)」など、私自身、直接推進してきたことだが、それは読書は「......ねばならない義務」ではなく「楽しみ」でなければ進まないと思ってきたからだ。政府も「読書活動総合推進事業」を進め、図書館、学校、民間団体などが連携しての読書運動を推進する様々な取組みをしている。しかし、今回の調査結果を見て、一段と大きな熱量で「読書運動」に総力を上げなければならないと強く思う。
最後にもう一つ、今回の調査結果で気懸りなことがある。それは70代が1か月に読む冊数においても少なく、なかでも「本以外の文字・活字による情報を読む機会」が70代において大幅に少なくなっていることだ。70代は最も本もスマホも見ないのだ。「疲れる、気力がない」ことはわかる。しかし一方で、比較的に時間はある。地域のカルチャースクールなどでも、高齢者が知的好奇心をもって集う場面も多く目にする。スマホもYouTubeも周りが手伝って使えるように支援してもらえば、楽しくなるはずだ。孤独は高齢者にとって最もマズイ。そんなごく日常的なささやかな支援が大きな成果を生むと思う。