政治コラム 太田の政界ぶちかましCOLUMN
NO.190 人手不足時代は経済・社会の大変化/賃上げ、高付加価値化が重要!
「人手不足」時代がやってきた。「人手不足時代に個人と企業はどう生きるか」「私たちは働き方をどう変えるべきか」が本格的に問われている。2024年問題は、建設や運送業などの深刻化する人手不足問題。2025年問題は、団塊の世代が全て75歳以上となり、認知症が約700万人、空き家が全国で約950万戸となる問題だ。
現在、論議されている「年収の壁(103万、106万、130万円等)」――。「壁があるために働き控えが発生している」という問題だが、「壁を超えると所得税が発生する」「壁を超えると扶養控除、配偶者特別控除がなくなる」「壁を超えると社会保険料の負担が生ずる」という直接の問題だけでなく、背景には人口減少・少子高齢社会、人手不足時代において、「個人と企業はどう生きるか」「働き方をどう変えるべき」かという根源的、構造的な問題がある。ポピュリズム的妥協ではない深く広範な熟議を望むものである。
人手不足といっても一様ではない。冨山和彦氏は近著「ホワイトカラー消滅」のなかで、人手不足はローカル産業で生じ、グローバル産業では人余りが顕著に生ずることを指摘する。グローバル産業では、デジタル化の進展で、これまでの「少しでも良い大学を出て漫然とホワイトカラーサラリーマンになる」「雇用を守るために従業員に低賃金を我慢させ、余剰人員を抱えたまま、低価格戦略、低付加価値労働生産性戦略をとる」という経営はこれから通用しない。「競合他社にはできないコアコンピタンスによって、戦うフィールドと戦い方を選べば、高付加価値ビジネスモデルで戦っていける」「漫然とホワイトカラーの人は淘汰される」「経営はDXとCXで変えられる」と言う。キーワードは高付加価値労働生産性。人手不足時代の働き方は、コペルニクス的大転換が求められていると鋭く言う。
一方で、ローカル経済では人手不足の危機に直面する。ローカル経済の担い手はエッセンシャルワーカーだ。インフラを担う建設や交通・物流、医療、介護、観光、公共サービス、小売、農水産業。すでに仕事はあるが担い手がいなくて倒産、廃業、災害復旧が進まないなどの事態が顕在化している。「地方には仕事がない」という時代は過去のものであり、従来のやり方のままではなく、付加価値労働生産性を創り出すことが不可欠の時代となっている。これまでのデフレ時代は需要不足が深刻だったが、これからはエッセンシャルワーカーなどを中心に、サービスなどの需要が豊富にあるにもかかわらず、担う人手が足りない供給面の制約が問題となる。
「ほんとうの日本経済」(坂本貴志著)でも、企業が必要な労働力を安い賃金でいくらでも確保できる時代が一変したと指摘する。人手不足がエッセンシャルワーカーなどで深刻化し、「需要不足から供給制約へと様相が激変」「地方、中小企業、エッセンシャルワーカーから賃金上昇の動きが広がる」「その賃金上昇がインフレ要因になっていく」ことを指摘している。現実に「人手不足は賃金不足」であり、賃金上昇がコストの価格転嫁を促し、緩やかなインフレの定着へと進んでいく。当然、企業の高付加価値化と省人化への変革、地方都市自体の「コンパクト+ネットワーク」、集住と連携革命が不可欠となる。人手不足時代は人の取り合いとなる時代だ。企業にも働く各個人にとっても厳しい時代が本格化するが、上記の富山和彦氏も、坂本貴志氏も、それを踏まえたうえでスキルアップ、高付加価値化によって乗り越えることができると提言している。
物価が上がっているが、2年連続して給料がアップし、来春に「物価上昇を上回る賃金」が実現すれば、いよいよデフレを完全脱却し、日本経済はやっと次のステージに昇ることができる。私は人手不足時代は「高齢者・女性・若者の活躍」「外国人労働者」「デジタル化」によって乗り越える。高齢者も女性も就業率では今や世界のトップクラスとなっており、これからは「数」ではなく「質」、低賃金のアルバイトの働き方を脱することが大切だと言ってきた。また少子化対策として、「非婚」「晩婚」「晩産」「少産」の4つの壁を打ち破ることが大切であり、とくに若い世代の「所得増(賃上げ)」と「昭和の時代からの男性稼ぎ手モデル」から「共働き共育てモデル」に国民的意識改革が重要だと言ってきた。今、議論されている「年収の壁」もこうした日本の未来を踏まえての「生き方」「働き方」からの本格的議論が行われることを期待している。