政治コラム 太田の政界ぶちかましCOLUMN

NO.195 SNS社会こそ人間力アップの教育!/デジタル教科書への慎重な分析を

2025年6月 6日

GIGAスクール.jpeg急進展するAI・デジタル社会、広がるSNS。チャットGPT、量子コンピューターなどテクノロジーの進展は加速度を増している。一方で、サイバーテロ、闇サイト、フィッシング詐欺等も横行し、AI・デジタル社会の脆弱性、負の側面を露呈している。こうしたなか「教育」では、GIGAスクールを更に進めて「デジタル教科書」の拡大が大きな議論となり、オーストラリアでは昨年11月、16歳未満の子どものSNS利用を禁止するなど、子供のSNS規制の議論が世界で本格化している。「デジタル社会と子どもの教育」の問題は、「教育の深さが日本の未来を決定する」ことからいって、現在の日本が直面している最重要問題の一つである。

デジタル教科書は、紙と同じ内容をデジタル化したもので、2019年度から制度上使用できるようになった代替教材。24年度から小中学校の英語と算数・数学の一部で導入されている。中央教育審議会の作業部会は、紙と同様にデジタル教科書が「正式な教科書」として位置づけることを念頭に意見を聴取しており、今秋までに結論をまとめ、来年の通常国会で必要な制度改正を行うことをめざしている。現在は英語のデジタル教科書が100%の学校で用いられ、音声、チャンツ、辞書、デジタルノートなどでデジタルが使われている。算数・数学は約50%の学校で用いられ、回転図形や確率、速さ・容積のシミュレーションなどで進められている。

この英・数については、使っている生徒からは「授業内容がよくわかる」という声があり、「主体的な学び」「対話的で協働的な学び」を行っているとの回答が寄せられていると言う。英語における音声とか、数学における三次元空間理解や図形拡大機能など、その面において「理解が進む」という。しかし、数学の立体図形の回転ばかりが強調されているとの声もあり、英・数のわずか6年の実証でデジタル教科書の拡大が図られるわけではない。更なる検証・調査の蓄積・分析が必要だ。デジタル教科書推進WGが中間まとめで、「教育課題・授業全体として、紙・デジタル・リアルを適切に組み合わせてデザインすることが重要」、「紙かデジタルかの『二項対立』ではなく、どちらの良さも考慮し、実態に応じて適切に取り入れ生かしていくべき」と言い、紙とデジタルのハイブリッドな形態の教科書イメージを示しているが、足して二で割る妥協案にならないことが重要だと思う。

運動会.jpeg

現代社会は、「本も読まない、新聞も読まない」「テレビも観ない」「Facebookでさえも古い、もっと短く刺激的なツールを求める」ように動いている。タイパ、コスパは更に進展し、若者はドラマも倍速で視聴する時代だ。フェイク情報も多く、SNSの攻撃性は目立っているし、「いいね」の快感依存は強い。懸念する問題はあまりにも多く、だからこそデジタル社会のなかでの子どもの教育が重要となる。

紙媒体の重要性について指摘する声は多い。言語脳科学の酒井邦嘉東大教授は、NTTデータ経営研究所などと共同研究を行い、「紙の手帳に予定を書き留めると、スマートフォンなどと比較して記憶の想起に対する脳活動が定量的に高くなることを発見した」と指摘し、「紙の媒体は脳の働きを活発化する。学習に最も適しているのは紙媒体」と述べている。また米の神経科学者メアリアン・ウルフ氏は、「紙の本は『深く読む脳』を育むが、デジタルで読む脳は連続で飛ばし読み、斜め読みになり、文章全体ですばやくキーワードを拾い、結論を急いでしまう。短絡的で真の理解ができない」と言う。スマホとタイパ、コスパの時代であればこそ、紙媒体の重要さを指摘しているのだ。

著書(新井紀子氏).jpegしかも、紙であれば良いというのではない。国立情報研究所の新井紀子教授は「学びの本質は読解力の向上だが、今、若者の読解力が著しく低下している」「狭い画面のデジタル教科書では集中力や理解が阻害させてしまう」と警鐘を鳴らし、読解力を獲得する具体的教育実践を行っている。「AI vs 人間」ではなく「人間 × AI」であり、AIを使いこなす人間に育てる教育が大事だというのだ。

デジタル社会への進展は不可避で加速することを考えると、「デジタル教科書」問題は、「紙かデジタルか」だけではなく、脳を活発化させ、読解力を強化するために、より深い教育をいかに行うかが重要だと思う。加えて、AI・デジタル社会のスキルを獲得すること、そしてあふれるデジタル情報の真偽を見きわめ、デジタルを使いこなす「情報(モラル)教育」「人間力アップの教育」への挑戦に期待する。

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