政治コラム 太田の政界ぶちかましCOLUMN
NO.196 賃上げへの強い経済戦略こそ必要/「生命」「社会」のインフラ再建は急務!
参院選は自公与党が過半数割れという結果をもたらした。衆参ともに過半数を制する勢力がなくなり、政治の流動化が危惧される。経済再建、地方創生、トランプ関税など外交交渉をはじめ、安定した基盤をもつ政治勢力があってこそ、内政も外交もカジ取りができるが、それが難しい。「ポピュリズムとSNS」が席捲する参院選だったとの評が多いが、今後、その傾向は続くと見られる。
「ポピュリズムは、デモクラシーの後を影のようについてくる」(英国の政治学者マーガレット・カノヴァン)というが、いつの間にか多くの個人情報が集積され、「世論は操作」され、「フェイクに誘導」されるデジタル・ポピュリズムが加わってきている。その背景には、世界各国とも生活不安と格差拡大、移民・難民問題等がある。不安と不満がその温床となると言われるが、それだけでなく、「推し」と「いいね」の承認欲求と「エコーチェンバー」が結びつく複雑系が加わっている。
参院選で問われるべきは「この国をどうしたいか」と「未来に責任」であったはずだ。「安全・安心の勢いのある国づくり」――。私がめざしてきたごく当たり前の主張だ。直面しているのは「給付か減税」かというテーマではなく、「防災・減災の安全な日本」「医療・介護・子育て等の安心の日本」「長いデフレを脱却して、ポジティブな経済への勢いのある日本」をめざして進むことこそ政治の役割だと思う。
「勢いのある国づくり」――。それは賃上げをもたらす成長戦略だ。日本は世界に類例のない長期にわたるゆるやかなデフレに沈んできた。しかし今、「賃金は上がらないものだ」「物価は上がらないものだ」「金利は上がらないものだ」という3つのノルムを脱し、円安等も影響して物価高騰に苦しんでいるものの、賃金が3年連続で上がるようになった。「デフレからインフレ」へ、「人手余りから人手不足」へという大きな構造変化を直視し、力強い経済への大きなチャンスを迎えている。「物価を上回る賃金上昇」への成長戦略を総動員することこそ「勢いのある日本」の柱だ。
「防災・減災の安全な日本」――。私は「脆弱国土を誰が守るか」と、防災・減災、老朽化対策、メンテナンス、耐震化に全力を注いできた。気象変動のなか、雨の降り方は激甚化・集中化・広域化している。首都直下地震、南海トラフ地震にも備えないと、1755年11月のポルトガルの首都リスボンを襲った大地震で最も栄えたポルトガルの時代が終わったごとく、壊滅的ともいえる大被害を受ける。防災・減災とともにかつての笹子トンネル天井板落下事故、今年の埼玉県八潮市の県道陥没事故を見ても、道路・橋梁・上下水道等は50年を経過したものも多く、老朽化対策に注力しなければならない。「公共事業悪玉論」「コンクリートから人へ」のスローガン政治ではなく、「命を守るインフラ整備」に努めてきたが、これから更に人手不足が加速化する今こそ、社会インフラの整備への積極財政が大切だ。しかもインフラ整備は「便利」と「安全」を確保するだけでなく、その「インフラのストック効果」によって生産性を上げる「日本経済のエンジン」となることを忘れてはならない。
「医療・介護・子育ての安心の日本」――。今年は団塊世代が全て75歳以上となり、認知症高齢者数が471万人、軽度認知障害(MCI)高齢者が564万人、要介護・要支援の認定者数は約718万人に及ぶ。要介護・要支援の人の65歳以上に占める割合は約20%だが、75歳以上になると、それが2倍以上になり、今後、要介護者が急激に増えることが見込まれる。参院選挙中にも多くの人にお会いしたが、「すべての人が介護に直面する」「介護は急に訪れる(脳梗塞、転倒)」などを実感する。ところが現場では訪問介護をはじめ全てのエッセンシャルワーカーの人手不足が進み、受け入れ側の病院の倒産・閉鎖、介護事業者の倒産・休廃業が増えている。ヘルパーの高齢化、公務員ヘルパーの欠如、介護保険料の地域差も大きい。病院の人手不足、高度機器の高価化、診療報酬の問題・・・・・・。医療・介護は「命のインフラ」だが、それが危機に瀕している。社会全体で医療・介護を支えるための政策を財源も含めて総動員しなければならない。
「安全・安心の日本」のためには、医療・介護などの「命のインフラ」、道路・河川堤防などの「社会インフラ」を堅固にする必要がある。そのためにもやっとデフレを脱した日本経済の「賃上げのための力強い経済」が重要となる。「安全・安心の勢いのある国づくり」への骨太の強い踏み込みを求めたい。