政治コラム 太田の政界ぶちかましCOLUMN
NO.178 若者に激動の時代を生き抜く力を!/Z世代の日本とアメリカの課題
「Z世代」ということがよく取り上げられる。区切りは様々で日本では1999年から2015年生まれ。前世代のベビーブーマーに比べると未知なる世代である1965年から1980年頃までが「X世代」、1980年から1998年頃までが「Y世代(ミレニアル世代)」と呼ばれ、続くのがZ世代だ。デジタルネイティブで、生まれながらデフレのなかにあり、右肩上がりの賃上げを全く経験していない若者だ。かつ人口減少が2005年から始まり、少子高齢社会を眼前にして育っている。リーマンショックやコロナ禍を経験し、企業に対する期待感も低く、夢やロマンを追うより、冷静で現実主義的な傾向があるという。お金を稼ぐことよりも自由な時間を欲しい。「覇気がない」「挫折を乗り越える人間力がない」などと言われるが、競争よりも「優しい、いい子」が多いともいう。
アメリカのZ世代――。「Z世代のアメリカ」(三牧聖子著)によれば、区切りは「1997年から2012年の間に生まれた若者世代」で、ネット環境の中で育った「デジタルネイティブ」であり、「テロとの戦い」や「金融危機」など、「綻ぶアメリカ」を見ながら育った世代だ。アメリカが物質的・道義的に世界の安全や福利に特別な使命を負うとの従来の意識から「軍事介入・国防費増大よりアメリカの社会保障と国民福利の充実こそが重要である」との考え方に変化していると言う。多様性を重視し、環境や正義や人権をますます重視するゆえに、「社会正義(ソーシャル・ジャスティス)」世代とも呼ばれていると指摘する。また、中国のZ世代について、デジタルネイティブは変わりないが、彼らが享受しているデジタル空間は、「グレートファイアウォール(金盾)」と呼ばれる巨大な検閲と監視下にあり、「中国が右肩上がりの成長を遂げていた時代に生まれ、制限された言論空間を当然のものとして育った中国のZ世代は、その前の世代より外国に対する不信感やナショナリズムを強く持つとも指摘されている」と三牧聖子氏は危惧している。このように日米中のZ世代には、それぞれの特徴があり、違いがあるが、世界の平和と安定に向けて、人類の共通課題に持ち前の「現実主義」で、いい対話をしていくことが望まれる。
NO.177 個性と魅力を磨いて地方創生/観光・スポーツ・小さな拠点などに知恵!
「人口減少・少子高齢社会のなか、地方都市はどう活性化を図るか」「人手不足、原油高騰のなか、地方の産業はどう生き残りを図るか」――。この8月、9月、全国各地を何回も訪れ、「地方再生フォーラム」などに参加したが、抱える問題は共通し深刻化している。また8月末には宇都宮市のLRT(次世代型路面電車)開業式典にも参加。構想から実に30年、宇都宮と郊外の工業団地を結び、渋滞を解消し、新たな街づくりを行うもので、喜びが爆発する印象的な式典となった。地方創生・街づくりに、公共交通を再建することは、きわめて重要、全国に大きなインパクトを与えたと思う。トラック・バス・タクシーなどの2024年問題が課題となっているが、地方では高齢者の「足」がないことが、深刻になっている。地方の都市、町村それぞれの抱える問題は、違いを見せながらも共通している。岸田内閣は「デジタル田園都市国家構想」を目玉政策として掲げる。それをどう具体化して地方創生を図るか。総合的な戦略が大切だ。
その基本となるのは、私が国交大臣時代、2014年に打ち出した「国土のグランドデザイン2050~対流促進型国土の形成」だ。これは2050年を見据えて、我が国が直面する課題を克服し、未来を切り開く国土づくりの考え方を示したものだ。2050年には現在の居住地域の63%で人口が半分以下に減少、うち20%は無居住化するといわれている。このなかで、どう地方創生を果たすか――そのキーワードは「コンパクト+ネットワーク」。東京と同じような都市をつくるのではない。コンパクトに集約するとともに、個性ある都市をつくる。その個性ある都市と都市が連携し、人・モノ・情報が対流する国土づくりを目指す。各都市・各地域がそれぞれ個性を発揮して、違いがあるからこそ対流が起き、周辺との連携が始まるのだ。例えば私が先日、「フォーラム」に参加した愛知県豊橋市は農業も盛んで、自動車など製造業もある農工商バランスのある都市だ。それと産業の盛んな浜松市、リニアの駅もできる長野県飯田市を結んで相乗効果をもたらす狙いの三遠南信連携(三河と遠州と南信州)だ。今、着々と道路ができ、物流がより盛んになりつつある。
NO.176 目立つ降水量増大と線状降水帯/「流域治水」の着実な推進を!
今年の夏はとにかく暑い。そして豪雨に見舞われている。少し前までは"ゲリラ豪雨"が騒がれたが、今は「線状降水帯」。2013年8月の広島を襲った豪雨では、バックビルディング現象により積乱雲が次々と発生して「線状降水帯」が形成されたと言われ、それ以降、「線状降水帯」が毎年のように使われる。明らかに雨は頻発化・激甚化・広域化している。今年も5月末以来、豊橋・浜松などの東海、秋田、九州北部地域、山口、岩手など豪雨による被害が続いている。日本だけではない。世界でも山火事、洪水が相次いでいる。気候変動は新しいステージに入ったと覚悟することが大事だ。
地球温暖化による降水量への定量的影響評価を気象庁気象研究所等が実施している。それによると1980年代よりも、現時点の降水量は、約6.5%~約15%増加していると算出、将来はさらに現時点より4.4%~19.8%増加する可能性があると指摘している。また1時間100mm以上の雨は1980年代よりも2倍に増加しているという。時間雨量50mmの雨とは、車のワイパーは効かず、マンホールから水が噴き出すほどの雨だが、より強度の強い雨ほど増加率が大きい傾向にあるということは大変なことだ。
この新たなステージに対応するために、国交省が2020年から始めたのが「流域治水」だ。河川を流域全体で捉えるというのは河川工学の鉄則だ。堤防を強化して河川を強引に抑え込むのではなく、「堤防を整備する」「川底を掘る」「川幅を広げる」「放水路をつくる」「ダム・調節池・遊水地をつくる」を流域全体で組み合わせて整備する。加えて、防災・減災の為のまちづくり、流域からの流出抑制、避難体制など、流域のあらゆる関係自治体・各組織が連携をとって総合的な対策をする。それが「流域治水」だ。集水域における森林整備、砂防対策、治水ダム、河川区域における治水・利水ダム、遊水地の掘削、堤防強化、氾濫域における排水施設整備やタイムライン・マイタイムラインの運用などハード・ソフト一体で多層的に進めるものだ。
NO.175 「人手不足」時代への政策総動員を/3Kから「給料、休暇、希望」の新3Kへ
「人手不足」時代がやってきた。「2024年問題」といわれる建設・運送業などの職人不足、ドライバー不足が深刻化しているし、保育でも介護でもそれは顕著だ。コロナ禍が終わり、世界からの観光も急拡大してきたが、受け入れる方のホテル、旅館、観光業界は人手不足。コロナ禍で失った働き手を取り戻すのに懸命に努力している。地方行政の現場で、業務委託を行政改革の観点もあって増やしているが、受け入れる側に人員が集められない。「人がいない」というだけでなく、「手のかかる仕事」を担う人がいなくなっているのだ。2025年は、団塊の世代が全て75歳以上になり、全国の空き家が900万戸、認知症の人が700万人を超える。労働力人口は毎年、60万~80万人という規模で減っていくという。少子化対策も、外国人労働者問題も、2024年問題も、2025年問題も、建設や運輸、介護や観光の「人手不足問題」も全部つながっている。しかもますます緊迫していく。この社会の構造的変化を直視して、どう対処していくか。徹底した取り組みが急務となっている。
しかも「人手不足」構造にはミスマッチが多い。「人手不足」に対処するためには「女性の活躍」「高齢者の雇用」が重要であるということはいうまでもない。今年6月、政府が発表した「こども未来戦略方針」で強調されているが、「共働き・共育て」の社会に社会全体が真剣にカジを切らないといけない。日本の女性の場合、子育ての負担が大きく、子どもが産まれて退職する人は3割にも及び、生涯の逸失収入は1.3億円だという。子育てにはカネがかかる現状を緩和、男性の育児休業を現実に推進し、女性も会社・組織に戻って活躍する社会にしなければ、日本の「人手不足」は止められない。一方、65歳以上の「高齢者」といっても、自分でも実感しているが、70代は昔の70代とは体力的にも違う。働く意欲も高いし、人生100年時代にあっては、多くの70代は働きたい。しかし、いい働く場がない。経験を生かせるのに、それに見合った仕事が創られていない。社会は用意し、自らが創っていく両面が重要だ。
NO.174 少子化対策に「共働き・共育て」/若い世代の所得増と雇用の安定を!
政府は6月13日、「次元の異なる少子化対策」の実現に向けた「こども未来戦略方針」を決定した。「来年10月から児童手当の所得制限を撤廃し、高校生まで支給。第3子以降は月3万円」「26年度をめどに出産費用の保険適用の検討」「就労要件を問わず時間単位の保育所利用を可能とする『子ども誰でも通園制度』の創設」「25年度を目標に『産後パパ育休』の給付金を引き上げ、男性の育休取得も促進する」などを示した。その財源確保については「徹底した歳出改革を行い、消費税など増税は行わない」とした。このように、報道等を見ると子育て支援策や児童手当増などの具体的施策や財源などに論議が集中しているようだが、より重要なことは、これらの政策一つ一つではなく、少子化対策に踏み込む考え方、その理念を通じて、社会全体の意識改革を促そうとしたことだ。
その意識改革は「30年代に入るまでが少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンスだ」という認識の共有だ。そして、その理念として、「若い世代への所得を増やす、将来の見通しが持てる雇用」「女性に育児負担が集中している実態を変え、『共働き・共育て』に職場も地域全体も支援(社会全体の構造・意識を変える)」「全てのこども・子育て世帯を切れ目なく支援する」を明示している。この意識改革が国、企業、社会全体に行き渡り、次元の異なる少子化対策が進んでいくかどうか。国あげての正念場だ。
日本の難しさは、人口減少をもたらす出生率の減少、高齢者数の増加、そして社会の支え手である働く世代の減少という、それぞれ要因の異なる3つの課題の同時進行にある。昨年の出生数は、統計上初めて80万人を割った。2024年問題が叫ばれ、残業規制が厳しく行われることになり、建設業やトラック、タクシーなど輸送業が苦境に陥ると危惧されている。それは2024年の問題ではなく、2024年からずっと人手不足時代が続くということだ。若い人が担う社会保険制度の持続性にも影響する。さらに人手不足とともに、忘れてはならないことは、国内マーケット規模が減ってしまう、消費需要の低下だ。経済への影響は大変なものになる。しかも、人口減少は時間との戦いであり、出生率が回復しても、すぐには人口減少は止まらない。 15から49歳再生産年齢は減少し続けるためだ。今後の日本の景色は深刻だ。