政治コラム 太田の政界ぶちかましCOLUMN
NO.163 「首都直下地震」対応に総力を/東京都が「災害シナリオ」を発表
明年は関東大震災から100年となる。100年前のスペイン風邪の直後に起きたことを思うと、「コロナ」が収束していない現在、首都直下と南海トラフの地震に今こそ備えなければならないと強く思っている。今年3月の福島県沖地震では電力、新幹線、上水道が長期間にわたって止まった。とくに大丈夫だと思われていた新幹線が、橋脚の損傷で1か月余も正常運転できなかったことや、その直後に電力供給が危機的状況に陥ったことなどは衝撃的であった。また、この6月も能登半島をマグニチュード5.4、珠洲市で震度6弱の地震が襲い、その後も大きな余震が続いた。日本は地震の活動期に入っている。首都直下地震では総合的な防災対策、南海トラフなどの海溝型地震については津波対策に全力を尽くしたい。
今年5月、東京都は「首都直下地震等による東京の被害想定」を10年ぶりに見直し、発表した。東京の地下は、様々なプレートが沈み込む複雑な構造にあり、「マグニチュード7程度の地震が今後30年以内に70%の確率で起きる」と予測されている。都心や多摩など、南関東地域で発生が予測される地震のうち、最大の被害をもたらすのは「都心南部直下地震」としている。ここでM7.3、最大震度7の地震が起きた場合、23区の約6割を震度6強以上の揺れが襲い、死者数は最大6148人(揺れ等で3666人、火災で2482人)、負傷者は9万3435人、全壊・焼失による建物の被害は19万4431棟に及ぶ。避難者は約299万人、帰宅困難者は約453万人(10年前の予想は約517万人)だ。
今回の発表の特徴は2つある。第一は、2012年の前回想定で被害が最大とされた東京湾北部地震(発生確率が低いとして今回、対象から外した)の被害想定に比べ、死者数や建物被害ともに約3割から4割減少した(死者は9641人から6148人)ことだ。建物の耐震化、不燃化が進んだことと、木造密集地域の解消が進んだという2つの要因による。木密地域解消ではその対象となる面積がほぼ半減したことなどが功を奏しているとする。東京に住む私としては、木密解消計画が着手されてはいても、完成していないというのが実感だが、火災による死者が多いことを考えてもこれを更に進めることが大切だ。住宅耐震化が現状の92%から100%になれば、揺れ等による死者が半分以上減少する。高層マンション、超高層ビルが増加していることもあり、長周期地震動など新しい課題に対応する必要がある。家具の転倒・落下防止も死傷者を減らす大事なことだ。先日、今年の防災訓練では、これらを具体的に示し、従来の訓練とは全く違う実践的なものとするよう東京都にも要請した。企業も含め、対策に踏み込みたい。
NO.162 タイムラインで防災・減災の輪!/ハザードマップ、マイタイムラインの充実を
出水期の6月を迎えた。長期化するロシアのウクライナ侵略、続く原油・穀物・資材高騰、重症者が減少したとはいえ感染者が緩やかな減少の「コロナ」、バイデン大統領等の訪日による日米首脳会談・クアッド首脳会談、そして1か月後に迫る参院選――。そうしたなかでの出水期であり、備えが必要だ。ハード・ソフト両面にわたる流域治水に乗り出しているが、ソフト面ではハザードマップ、タイムライン、マイタイムラインをより広く、より実効性のあるものにすることが肝要となる。
5月10日、「タイムライン防災・全国ネットワーク国民会議」の設立総会が都内で行われた。河田恵昭関西大学特別任命教授、松尾一郎東大大学院客員教授等が主導し、北海道滝川市から九州の人吉市まで、全国34市区町村が参画する画期的な国民会議の設立だ。西田健三三重県紀宝町長が議長に選任され、アドバイザー、技術顧問も決定、私が特別顧問になった。頻発化・激甚化する風水害、懸念される大地震等に対処するために、「タイムライン国民会議」が地方自治体の輪を横に広げて連携するとともに、関係機関との連携や人材育成などの中身を充実させていく、大きな役割を果たすことになると期待される。
「タイムライン」は2013年、私が国交大臣の時に決定した。台風などの襲来に対し、5日前にはどうする、3日前、24時間前、6時間前・・・・・・。時間軸で国、地方自治体、鉄道等の交通、学校、福祉などの公共的施設、企業や町会等が連携、それぞれの動きを事前に練り上げていくものだ。災害を時間軸で考え、「いつ」「誰が」「何を」を合言葉に災害対応に関わる機関が集い、策定・合意し行動する防災対応計画だ。2012年、アメリカのハリケーン・サンデイでニューヨークで対応したものを、現地を視察するなど知恵を出して日本型に作り上げてきたものだ。国交省、河田先生、松尾先生などがこの9年、全国の河川で具体化して今日に至っている。広域避難や垂直避難等の具体化の詰めや、それに先立つハザードマップのさらなる充実、各人が市町村のタイムラインのなかでどう動くかを準備するマイタイムラインも、私自身がかかわりスタートさせた。地震についても、津波タワーの設置や瞬時にどう逃げるかの時間軸をつくり訓練も推進してきた。
NO.161 世界の「経済」「安保」に大変化/物価高騰、円安の底流にデフレ基調
今年は戦後77年を迎える。昭和20年(1945年)生まれの私は77歳になる。くしくも1868年、明治となって1945年までが77年。数合わせに過ぎないといえばその通りだが、第1の77年は近代日本を創り上げ、そして没する歴史であった。富国強兵、近代化を志向し、精神の骨格は緩やかな神仏儒の習合の潜在意識のうえに、国家神道で形づくろうとした。そして戦後、日本は経済を最優先とし、復興から豊かな国家の建設に邁進した。哲学不在が続いた。
しかし、高度成長を果たした経済は今、世界に類例のない長期にわたる緩やかなデフレに苦しんでいる。人口減少・少子高齢社会、AI・IoT・ロボット・デジタル化への急進展、頻発する大災害という構造変化に直面している。そして世界的なコロナの感染症に覆われた。さらに自由と民主主義の秩序をつくり上げてきた国際社会は、思いもよらぬ大国による侵略戦争が行われるというあり得ぬ事態に驚愕するに至った。これが日本を取り巻く第2の77年の今だ。戦後築いてきた世界の経済・社会、外交・安全保障の枠組みが、大きく変化しており、だからこそ、その克服、新たな挑戦が、この2020年代の「勝負の10年」だ。
経済を中心とした米中対立が、今回のロシアのウクライナ侵攻によって、日本を含む西側諸国に対する中国・ロシアという対立図式が起ち上がってきた。そして現代の戦争がハイブリット戦争というだけでなく、より広範な情報戦争・軍事の戦争・経済戦争の複合的戦いとなっている。戦後77年、世界の平和と安全に重要な役割を果たしてきた国連も、安保理自体が十分には動かぬ状況となる危機を迎え、国連改革が求められている。世界の平和・安全、広くは経済やSDGsに協調する世界の枠組みに、きしみが生じている。重大な事態といってよい。
NO.160 CO2削減のカギ握るEV、スマートシティ/未来に向けた「グリーン」「デジタル」の成長戦略
ロシアのウクライナ侵攻から1か月余――。ウクライナの必死の抗戦でロシア軍の苦戦も伝えられ、停戦協議も始まっているが、ロシアの蛮行は続いている。許されないことだ。今回の暴挙は、国際社会が長年築いてきた「力ではなくルールに基づく国際秩序」を、大国自らが覆す許されざる出来事だ。日本をはじめ国際社会は決然と対峙することを常に示し.結束・対応しなければならない。
同時に、なおコロナ禍にある日本は、油断することなく感染抑制、生活・医療・企業支援を続けるとともに、急浮上している原油・エネルギー等の資源価格や資材の高騰に迅速に対応することが不可欠である。こうした急変する世界的な外交・経済社会の変化に対して、その構造変化を看取し、時間軸をもっての対応を常に考えなければならない。この10年は、ますます大事な10年となっている。
我が国がめざす「2050年カーボンニュートラル」。その実現に向けて、昨年改定した地球温暖化対策計画では、2030年度に温室効果ガスを13年度比で46%削減、さらに50%削減の高みに向けて挑戦するという目標を掲げている。脱炭素社会、グリーン社会実現の成否がかかる2030年までは、まさに20年代こそ「勝負の10年」だ。
その達成のためには、産業部門に次いで排出量が多い運輸部門の削減がカギを握っている。運輸部門の排出量は我が国全体の約2割。そのうち自動車からの排出量が約9割と大半を占めている。
しかし、我が国の新車販売台数のうち、環境性能に優れた電動車(電気自動車・EV、ハイブリッド車・HV、プラグインハイブリッド車・PHEV、燃料電池車・FCV)の占める割合は約35%。EVだけで見ると、わずか0.5%にとどまっている。ヨーロッパや中国に比べ、普及が大きく遅れている状況だ。2030年度の削減目標、さらに「2050年カーボンニュートラル」を達成するためには、ガソリン車やディーゼル車から電動車への転換にアクセルを踏み込まなければならない。
NO.159 水際対策の緩和を具体的に速く!/目立つ留学生、技能実習などの遅れ
ロシアのウクライナ侵攻の暴挙は、断じて許せないことだ。国際社会と結束して、ロシアへの非難、強力な制裁措置を行い、人道支援を含むできる限りの支援を機敏に実行しなければならない。
新型コロナとの闘いが始まって2年。猛威を振るった「オミクロン株」の感染がピークを打ったように言われるが、依然として感染者数は多く、警戒を緩めてはならない状況だ。ワクチンの3回目接種の加速、増えている重症者への医療体制の確保は緊急を要することだ。政府・自治体・医療関係者の努力もあって、何とか1日100万回の目標を掲げて接種が行われ、自衛隊を使っての東京・大阪の大規模接種会場も開設された。とくに医療体制の確保が緊要だが、現場からは、ひっ迫が続き「限界に近い」との悲鳴が聞こえる。象徴的な例は、消防庁が救急患者の受け入れ先がすぐ決まらず4回以上照会をかけた「搬送困難の事例」が、2月20日までの1週間で6064件、過去最多となっているという。心筋梗塞などコロナ以外も冬場で多く、搬送状況だけを見ても、救急医療のひっ迫は相当のものだ。自宅で不安のなかで過ごしている感染者も多く、治療薬や飲み薬が現場に一日でも早く届けられること、医療提供体制の確立を強く求めたい。3月はまさに正念場だ。
一方、今後の経済・社会活動の再スタートの構えもきわめて重要だ。2022年度予算が2月22日、例年にない速さで衆院を通過し、参院での審議に移っている。一般会計総額は過去最大の107兆5904億円。コロナ対策、成長と分配に力を注ぐ予算となっている。医療提供体制の確保や国産ワクチン・治療薬の研究開発強化に力を入れ、5兆円の予備費を計上。成長戦略として「デジタル」「グリーン」を掲げ、分配戦略として介護・保育現場で働く人の給与を3%引き上げ、成長分野を支える人材育成など「人への投資」が柱となっている。私が長年訴え続けてきた「防災・減災」の関連予算も3兆8736億円となった。経済・社会を元気にするためにも早い執行が重要だ。
こうしたなかで、喫緊の課題となっているのが、水際対策の緩和だ。岸田首相は2月17日、「観光客を除くビジネス目的の短期滞在者、留学生、技能実習生らの入国を3月1日から緩和、1日当たりの上限を5000人に拡大する」と発表した。「日本は厳しすぎる」との声が世界からも上がっていただけに必要な措置である。ここで大事なのは現状把握と具体的な実行措置だ。日本での全産業の外国人労働者は、これまで約172万人といわれる。そのうち定住者・永住者等約54.6万人を除くと、留学生(留学生のアルバイト等)約37.0万人、技能実習約40.2万人、いわゆる専門的・技術的分野で就労目的で在留が認められる者が約36.0万人の3つが主なものだ。