政治コラム 太田の政界ぶちかましCOLUMN

NO.168 必要な安保、人口減少への国民理解/世界調査から見る日本人の考え方

2022年12月 5日

「民の憂い募りて国滅ぶ」「民の欲する所 天必ず之に従う」という中国古典の言葉を政治活動のなかで大事にしてきた。「現場の変化を察知するセンサーを持て」ということも心掛けてきた。民意を察知することの大事さ、庶民の現場感覚の重要さだ。ところが先日、「仮に戦争が起こる事態になったら、自分の国のために戦いますか」との世界価値観調査の質問に、「はい」と答えた人は、2019年の調査時点で、日本は13%と際立って低く、77か国中最下位だったという報告に接した。しかも見逃してはならないのは、「わからない」という回答が38%もあり、これは国際比較で極めて多いという事実である(「いいえ」は50%)。日本人の意識には、あの昭和の戦争の戦禍から反戦意識がきわめて強い。国際的に見ても、日本人はかなり強いレベルで戦争を忌避している。そして戦後長らく戦争のない世界に住み、考えたことがない、あるいは判断がつかない人が多いことが現れている。

海保①.jpgこの調査は、世界各地の個人を対象に、1981年以降おおむね5年おきに実施されている世界最大規模の意識調査。世界120もの国や地域で、同じ質問をする形でこの40年間で7回、世界の人々の「世界価値観調査」として実施してきた。調査項目は290に及び、内容は生活意識や労働意識、ジェンダー意識、国際社会意識など多岐に渡っている。時系列データの蓄積が特徴であり、日本では電通総研が日本代表として参画している。そして、二つの大きな価値観シフトが世界各国で確認されている。一つは「伝統的価値観」から「世俗的価値観」へのシフト、もう一つは「生存重視の価値観」から「選択の自由と自律性に重きを置く自己表現重視の価値観」へのシフトだ。調査結果を見ると、世界的に、「格差と分断」が生じていることや、結婚や家族、ジェンダーと性的志向に関する価値観に劇的な変化があり、環境問題意識も高まっている。日本でもこのことは実感するところだ。日本で特徴的な傾向は、仕事への意識が変化している。「仕事」について「重要」「やや重要」の割合は81.3%で、 77か国中で71位、「生活において仕事よりも余暇時間を重視する傾向」が見られ、「仕事優先」という価値観が弱くなっているようだ。「ナショナルプライド」や「権威の尊重」なども日本は低い。「権威や権力が尊重されることは良いこと」との回答はわずか1.9%77か国中で77位の最下位だ。政治への関心も低く、とくに政治行動は極めて低い。

海保 洋上視察①.jpgこの国会期間中、政府として年末までに改定する国家安全保障戦略など安保関連三文書の議論は最大課題だ。政府の「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」は1122日、防衛力を5年以内に抜本強化するよう求めた報告書を公表した。ロシアのウクライナ侵略、北朝鮮の度重なるミサイル発射、尖閣諸島周辺への中国の領海侵入など、従来とは全く異なる状況があるだけに、備えは重要だ。有識者会議は、「反撃能力の保有と増強が不可欠」「産学官一体で防衛力強化につながる研究開発を推進」「南西諸島の港湾や空港などの公共インフラを自衛隊や海上保安庁が使えるように整備」「能動的なサイバー防御を実施し、司令塔機能を大幅に強化」などとともに、「財源は国民全体で負担することを視野」と提言している。ウクライナ危機では「世界は自ら助くる者を助く。自分の国は自分で守る気概が不可欠」ということを学んだと思う。東アジアの安全保障の緊張は、かつてないほどであり、今行われている報道各社の世論調査でも、安全保障体制の強化は過半数をはるかに超えている。その安全保障論議を徹底的に行うことが期待されるが、一方で、冒頭に述べた「自分の国のために戦う」ことが際立って少なく、「わからない」がこれまた際立って多いということも見過ごせない。政治の国民への説明、国民的合意の形成に、他国にも増して努力が必要ということだ。同時に、それを担う自衛隊や海上保安庁の志気が高まる支援が不可欠だ。

子育て①.jpgもう一つ、この国会期間中に論議されているのは、人口減少・少子高齢社会、全世代型社会保障への全面的取り組みだ。とくに「人口減少を止める方策」は待ったなし、腰をすえてやらないと日本の未来に暗雲がたれこめる。「晩婚化から非婚化へ、晩産化から少産化、非産化へ」の傾向は進んでおり、長年厚労行政に携わってきた山崎史郎氏は今年「人口戦略法案」と題する小説を発表。出生率向上のための三本柱として、「子ども保険」「不妊治療・ライフプラン」「結婚支援」を提起する。公明党もこの11月、結婚、妊娠・出産、幼児教育・保育から高校・大学生支援など、切れ目のない支援策を掲げた「子育て応援トータルプラン」を発表した。いずれも「組織と制度・予算」が重要となる。国民の理解が不可欠だ。

安全保障においても、人口減少を止めることにおいても、その重要性・切迫性を国民全体でどう考えるか、ということになる。重要な時に差し掛かっている。

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